恋の実、たべた?

午後野つばな

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 日下の返答に徹は不思議な顔をしていたが、ふと何かを思い出したような表情を浮かべた。
「フラミンゴといえば甲殻類などの餌に含まれている色素で赤くなるだろう? あれってさ、色が鮮やかな個体ほど攻撃的だと最近の研究では報告されているんだって」
「そうなのか?」
 驚いた日下に、徹がうん、とうなずく。
「もちろん繁殖のためには理に適っているんだろうけど、仲間を攻撃してまでっていうのは、俺は何だかなあ」
 のんびりしたようすで埒もない話を続ける徹に、日下は気の抜ける思いがした。
「なんだ、そうか……」
 少しだけ雨の勢いが弱まったのか、柔らかな雨音が包み込むように軒を叩く。このあたりは海が近く、夏でも内陸より涼しい。網戸にした窓から甘い花の匂いがした。庭にあるスイカズラの匂いだ。この花は白から金色に変化するため、別名金銀花とも呼ばれている。以前日下が日本画の先生のお宅にお邪魔したときにいただいたものだ。捨てることもできず、適当に庭に植えておいたら、いつの間にか増えてしまった。
 動いた拍子に腕がぶつかる。引き締まった徹の男らしい腕に、自分の細く貧相とも呼べる腕が映り、胸が騒いだ。先ほどの徹の身体が脳裏にちらつき、じわりと体温が上がる。僕は徹に欲情している。十七歳も離れた、自分の甥に。
 突然、徹の隣に平然とした顔で座っているのが耐え難いことのように感じた。
「衛さん?」
 何の前触れもなくソファから立ち上がった日下を、徹が驚いたように見る。
「用事を思い出した。夕食はいらない。遅くなるから先に寝てろ」
 背後で徹が何かを言っているにも構わず、日下は逃げるようにその場を後にする。なぜだか、もう一分一秒だってこの場にいられない気がした。
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