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足音が自分の寝室に近づいてくるのを、日下は浅い意識の中で聞いている。ノックの音と共に、ドアが開いた。
「衛さん、おはよう」
毛布にすっぽりと包まる日下のすぐ傍らに、誰かが立つ気配がした。
「衛さん、起きて。朝だよ」
毛布を剥がされ、日下は目を閉じたまま不満の意を伝えるため、眉間に皺を寄せる。嫌だ、まだ起きたくない。
「あと五分……」
剥がされた毛布の中に再び潜ろうとする日下に、徹が呆れたようにため息を吐いた。
「衛さん、さっきもそう言ったよ。もうその五分だよ」
うそだ、そんなはずはない。
そのまま放っておいてくれればいいのに、その場から動こうとしない徹の気配に、日下はますます眉間の皺を深める。
「衛さん、起きて。……起きないとキスするよ」
そんな冗談めいた言葉と共に布団がめくられ、無防備な状態でベッドに取り残される。そのとき、徹の近づく気配を感じて、日下ははっと目を開けた。
「ああ、残念」
目を開けた日下を待ち構えていたように、徹はにこりと微笑んだ。
「おはよう、衛さん。朝食ができているよ。早く下りておいで」
徹が部屋から出ていった後も、再び寝直す気にはならず、日下はむっつりとベッドから下りた。シャワーを浴びてリビングにいくと、徹がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。日下に気がつくと、徹は読んでいた新聞を折りたたみ、キッチンに立つ。
「夕べは寝たの遅かったみたいだね。仕事、忙しいの?」
「大したことはない……」
八月末に開催される企画展の準備で、夕べは遅くまで資料を読んでしまった。企画内容を頭の中で巡らせているうちに、ようやく眠りについたのは未明に近かった。出展者には日高の名や、日本画の大家、鷺沼清二の名前も挙がっていて、花園画廊としては何としてでも成功させなければならない企画だ。またプロモーションには緒方の名前も挙がっている。
あれから緒方とは仕事の打ち合わせで何度か会っているが、プライベートでは一度も会っていない。表面上は互いに何でもない振りをしているが、以前とは明らかに何かが違うことがわかる。
これまでプライベートと仕事は切り離し、何の問題もなかったのに、緒方との会食以来、まるでボタンを掛け違えたみたいにすべてがうまくいかない。かといって、緒方以外の男と会う気にもなれなかった。そして、問題はそれだけじゃない。
無意識のうちに顔が曇ったのを、日下は自分では気づいていない。また、そのことに徹が目を止めていたことも。
カチャリと音がして顔を上げると、ティーカップの中に薄ぼんやりとした黄色い液体が入っていた。独特の匂いに、眉間に皺が寄る。
「……これは?」
「ハーブティー。衛さん、疲れた顔をしているから」
「何だかおかしな匂いがしているぞ」
カップに鼻を寄せ、顔をしかめる。これは果たして飲み物なのだろうか。
「衛さん、おはよう」
毛布にすっぽりと包まる日下のすぐ傍らに、誰かが立つ気配がした。
「衛さん、起きて。朝だよ」
毛布を剥がされ、日下は目を閉じたまま不満の意を伝えるため、眉間に皺を寄せる。嫌だ、まだ起きたくない。
「あと五分……」
剥がされた毛布の中に再び潜ろうとする日下に、徹が呆れたようにため息を吐いた。
「衛さん、さっきもそう言ったよ。もうその五分だよ」
うそだ、そんなはずはない。
そのまま放っておいてくれればいいのに、その場から動こうとしない徹の気配に、日下はますます眉間の皺を深める。
「衛さん、起きて。……起きないとキスするよ」
そんな冗談めいた言葉と共に布団がめくられ、無防備な状態でベッドに取り残される。そのとき、徹の近づく気配を感じて、日下ははっと目を開けた。
「ああ、残念」
目を開けた日下を待ち構えていたように、徹はにこりと微笑んだ。
「おはよう、衛さん。朝食ができているよ。早く下りておいで」
徹が部屋から出ていった後も、再び寝直す気にはならず、日下はむっつりとベッドから下りた。シャワーを浴びてリビングにいくと、徹がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。日下に気がつくと、徹は読んでいた新聞を折りたたみ、キッチンに立つ。
「夕べは寝たの遅かったみたいだね。仕事、忙しいの?」
「大したことはない……」
八月末に開催される企画展の準備で、夕べは遅くまで資料を読んでしまった。企画内容を頭の中で巡らせているうちに、ようやく眠りについたのは未明に近かった。出展者には日高の名や、日本画の大家、鷺沼清二の名前も挙がっていて、花園画廊としては何としてでも成功させなければならない企画だ。またプロモーションには緒方の名前も挙がっている。
あれから緒方とは仕事の打ち合わせで何度か会っているが、プライベートでは一度も会っていない。表面上は互いに何でもない振りをしているが、以前とは明らかに何かが違うことがわかる。
これまでプライベートと仕事は切り離し、何の問題もなかったのに、緒方との会食以来、まるでボタンを掛け違えたみたいにすべてがうまくいかない。かといって、緒方以外の男と会う気にもなれなかった。そして、問題はそれだけじゃない。
無意識のうちに顔が曇ったのを、日下は自分では気づいていない。また、そのことに徹が目を止めていたことも。
カチャリと音がして顔を上げると、ティーカップの中に薄ぼんやりとした黄色い液体が入っていた。独特の匂いに、眉間に皺が寄る。
「……これは?」
「ハーブティー。衛さん、疲れた顔をしているから」
「何だかおかしな匂いがしているぞ」
カップに鼻を寄せ、顔をしかめる。これは果たして飲み物なのだろうか。
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