23 / 47
23
しおりを挟む
3
「帰りは夕方ごろになる。俺が出ていったら鍵を閉めて、誰がきてもドアを開けるなよ」
「はい。大丈夫です。崇嗣さんも気をつけてください」
朝食後、マルは仕事に出掛ける崇嗣さんの後を、玄関までついていった。崇嗣さんはマルをじっと見ると、頭にぽんと手を乗せた。
「ああ、いってくる」
扉が閉まる。崇嗣さんがいなくなっても、マルは先ほど彼が触れた場所に手を触れ、その場に立っていた。
『そのままついていきたそうな顔をしているぜ』
足元で聞こえるヴィオラの声に、マルは自分がぼうっとしていることに気がついた。
「いけない。後片づけをしないと」
リビングに戻り、朝食の後片付けをするマルを、ヴィオラが呆れたように見ている。
あの日、マルを助けてくれた崇嗣さんは、翌朝どこからともなく現れた猫を訝りながら、無理に追い出すことはしなかった。崇嗣さんはきっと本人が思うよりもやさしいのだと思う。誰もが見て見ぬふりをする中、崇嗣さん一人が人間にひどい目に遭わされる使役ロボットを放ってはおけなかった。彼に助けてもらったマルはそれを知っている。
崇嗣さんとの生活が始まって、マルが彼に約束させらせたことはふたつある。
ひとつは、一人で勝手に外に出ないこと。ふたつめは、崇嗣さんが留守のときには、鍵を閉めて知らない客が訪れても決してドアを開けないこと。
このあたりは治安が悪い上、崇嗣さんの仕事上、危険は常に隣り合わせだ。REX社のセクサロイドは希少で、裏では高値で取引きされるため、自分の存在は知られないほうがいい。ここにいられるだけで充分だと理解していても、崇嗣さんが危険な目に遭っていたらと思うと、マルは不安でたまらなくなる。自分にも、何か崇嗣さんを手伝えることがあればいいのにと思ってしまう。
「ヴィオラ? 何をしているのですか?」
ソファの上でヴィオラがいじっているものを目に止めて、マルははっとなった。それは昨夜崇嗣さんが作業していたものだ。
「それは崇嗣さんが仕事に使うものではないですか? 勝手に取ってしまったのですか?」
マルを見るヴィオラが、だから? とでも言うかのように、金色の目を細めた。
『せっかく僕が身体を交換してやったのに、一体いつあの人間に気持ちを伝えるつもり? さっさとセックスでも何でもしたらどうなんだよ、って、ちょっと、人の話を聞いてるの? あっ!』
何やらぶつぶつと文句を言っているヴィオラから取り戻したUSBメモリーを見つめ、マルはどうしよう、と思い悩んだ。崇嗣さんはこれがないと困るのではないだろうか? けれど、一人で勝手に出るなと言われている。
マルはUSBメモリーを握りしめると、コートに手に取り、ヴィオラに話しかけた。
「ちょっと出掛けてきます。大人しく留守番をしていてくださいね」
「帰りは夕方ごろになる。俺が出ていったら鍵を閉めて、誰がきてもドアを開けるなよ」
「はい。大丈夫です。崇嗣さんも気をつけてください」
朝食後、マルは仕事に出掛ける崇嗣さんの後を、玄関までついていった。崇嗣さんはマルをじっと見ると、頭にぽんと手を乗せた。
「ああ、いってくる」
扉が閉まる。崇嗣さんがいなくなっても、マルは先ほど彼が触れた場所に手を触れ、その場に立っていた。
『そのままついていきたそうな顔をしているぜ』
足元で聞こえるヴィオラの声に、マルは自分がぼうっとしていることに気がついた。
「いけない。後片づけをしないと」
リビングに戻り、朝食の後片付けをするマルを、ヴィオラが呆れたように見ている。
あの日、マルを助けてくれた崇嗣さんは、翌朝どこからともなく現れた猫を訝りながら、無理に追い出すことはしなかった。崇嗣さんはきっと本人が思うよりもやさしいのだと思う。誰もが見て見ぬふりをする中、崇嗣さん一人が人間にひどい目に遭わされる使役ロボットを放ってはおけなかった。彼に助けてもらったマルはそれを知っている。
崇嗣さんとの生活が始まって、マルが彼に約束させらせたことはふたつある。
ひとつは、一人で勝手に外に出ないこと。ふたつめは、崇嗣さんが留守のときには、鍵を閉めて知らない客が訪れても決してドアを開けないこと。
このあたりは治安が悪い上、崇嗣さんの仕事上、危険は常に隣り合わせだ。REX社のセクサロイドは希少で、裏では高値で取引きされるため、自分の存在は知られないほうがいい。ここにいられるだけで充分だと理解していても、崇嗣さんが危険な目に遭っていたらと思うと、マルは不安でたまらなくなる。自分にも、何か崇嗣さんを手伝えることがあればいいのにと思ってしまう。
「ヴィオラ? 何をしているのですか?」
ソファの上でヴィオラがいじっているものを目に止めて、マルははっとなった。それは昨夜崇嗣さんが作業していたものだ。
「それは崇嗣さんが仕事に使うものではないですか? 勝手に取ってしまったのですか?」
マルを見るヴィオラが、だから? とでも言うかのように、金色の目を細めた。
『せっかく僕が身体を交換してやったのに、一体いつあの人間に気持ちを伝えるつもり? さっさとセックスでも何でもしたらどうなんだよ、って、ちょっと、人の話を聞いてるの? あっ!』
何やらぶつぶつと文句を言っているヴィオラから取り戻したUSBメモリーを見つめ、マルはどうしよう、と思い悩んだ。崇嗣さんはこれがないと困るのではないだろうか? けれど、一人で勝手に出るなと言われている。
マルはUSBメモリーを握りしめると、コートに手に取り、ヴィオラに話しかけた。
「ちょっと出掛けてきます。大人しく留守番をしていてくださいね」
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる