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崇嗣さんが庇うようにマルの前に立った。その背中はいつ攻撃がきても備えられるよう、ぴんと張りつめている。
「例のやつを見つけたとボスに連絡しろ」
リーダー格の男は背後にいる仲間に合図を送ると、ポケットから取り出した小型のナイフをパチンと開いた。
「あんときはずいぶん派手にやってくれたなあ。ずっと礼をしなきゃと思ってたんだ」
男たちとの距離が、じり……、と狭まる。
「……マル」
崇嗣さんが男たちには聞こえないよう、小さな声で囁いた。
「合図をしたら一気に反対側へ走るんだ。絶対に後ろを振り返るな。何があっても戻るなよ」
「そんなの駄目です……!」
マルは懸命に頭を振った。崇嗣さんを置いて、自分だけ逃げるようなことはできない。
「マル!」
鋭い声で叱責され、マルはびくりとなった。涙に濡れた目で、崇嗣さんを見る。
「お前がいると、俺は自由に動けない。だから頼む。――いけっ!」
崇嗣さんが男のナイフを蹴り上げる。思い切り突き飛ばされて、マルはその場でたたらを踏んだ。崇嗣さんを置いてはいけないと心は叫ぶ。しかし、自分がいては崇嗣さんの妨げになるのだ。
唇を噛みしめ、迷いを断ち切るように走り出した瞬間、背後から銃声が鳴り響いた。マルは鞭で打たれたようにその場に立ち竦んだ。
「いいか、次は本気で撃つぞ。それが嫌なら、おとなしくこっちへこい」
男の銃口は崇嗣さんを狙っていた。思わず戻りかけたマルに、崇嗣さんが叫んだ。
「マル、いけ! いいから逃げるんだっ!」
マルは頭を振った。そんなことできるはずがない。涙が頬を伝い落ちる。
「このばかが……っ!」
崇嗣さんたちのほうへ足を進めるマルに、崇嗣さんが痛みを堪えるかのように表情を歪めた。男が振り下ろしたグリップが、崇嗣さんのこめかみに当たった。ガツッと鈍い音がして、崇嗣さんの身体が前へと傾く。
「崇嗣さん……っ!」
崇嗣さんのこめかみにぬるりとした赤い液体を目にした瞬間、頭の中が真っ白になった。マルの身体の奥から何かとてつもない巨大なエネルギーが矢のように放出し、まっすぐに男に向かう。
「わああああぁー……っ!」
ブレーカーがバチンと弾けたように、街中の電気がふつりと消えた。
それは異様な光景だった。
暗闇の中で銃を持っていた男が悲鳴を上げ、踊り狂うように身体を動かしていた。焼けるような臭い。男の臀部の辺りが激しく燃えている。
やがて明かりが戻り始めると、呆然と立ち竦んでいた男の仲間が、ようやく火を消そうとした。
「な、何だ、一体何が起こってる!」
「とりあえず火を消せ! 早く!」
「お前、こいつに何したんだよ!?」
自分たちに何が起きているのかわからないまま、男たちは慌てたようすで火を消している。その中で、崇嗣さんだけが信じられないものを目にした表情で、マルを見ていた。
「マル……?」
よかった、無事だった……。
マルは微笑んだ。そのまま崩れ落ちる。
「マル――……っ!」
崇嗣さんが駆け寄ってくるのを、マルは薄れゆく意識の中で感じていた。
「マル! しっかりしろっ! マルっ! マル……っ!」
――私は大丈夫です。だからそんな顔をしないでください……。
声に出したつもりが、ちゃんと音になっていたのかわからない。崇嗣さんに抱きしめられながら、マルは自分の身体の一部がショートしたように、プスプスと音を立てているのがわかった。全身が鉛のように重く、もう指の一本も動かせそうにない。
崇嗣さん……。崇……嗣、さ……。
視界が暗くなる。そしてついに、マルのすべての機能は停止した。
「例のやつを見つけたとボスに連絡しろ」
リーダー格の男は背後にいる仲間に合図を送ると、ポケットから取り出した小型のナイフをパチンと開いた。
「あんときはずいぶん派手にやってくれたなあ。ずっと礼をしなきゃと思ってたんだ」
男たちとの距離が、じり……、と狭まる。
「……マル」
崇嗣さんが男たちには聞こえないよう、小さな声で囁いた。
「合図をしたら一気に反対側へ走るんだ。絶対に後ろを振り返るな。何があっても戻るなよ」
「そんなの駄目です……!」
マルは懸命に頭を振った。崇嗣さんを置いて、自分だけ逃げるようなことはできない。
「マル!」
鋭い声で叱責され、マルはびくりとなった。涙に濡れた目で、崇嗣さんを見る。
「お前がいると、俺は自由に動けない。だから頼む。――いけっ!」
崇嗣さんが男のナイフを蹴り上げる。思い切り突き飛ばされて、マルはその場でたたらを踏んだ。崇嗣さんを置いてはいけないと心は叫ぶ。しかし、自分がいては崇嗣さんの妨げになるのだ。
唇を噛みしめ、迷いを断ち切るように走り出した瞬間、背後から銃声が鳴り響いた。マルは鞭で打たれたようにその場に立ち竦んだ。
「いいか、次は本気で撃つぞ。それが嫌なら、おとなしくこっちへこい」
男の銃口は崇嗣さんを狙っていた。思わず戻りかけたマルに、崇嗣さんが叫んだ。
「マル、いけ! いいから逃げるんだっ!」
マルは頭を振った。そんなことできるはずがない。涙が頬を伝い落ちる。
「このばかが……っ!」
崇嗣さんたちのほうへ足を進めるマルに、崇嗣さんが痛みを堪えるかのように表情を歪めた。男が振り下ろしたグリップが、崇嗣さんのこめかみに当たった。ガツッと鈍い音がして、崇嗣さんの身体が前へと傾く。
「崇嗣さん……っ!」
崇嗣さんのこめかみにぬるりとした赤い液体を目にした瞬間、頭の中が真っ白になった。マルの身体の奥から何かとてつもない巨大なエネルギーが矢のように放出し、まっすぐに男に向かう。
「わああああぁー……っ!」
ブレーカーがバチンと弾けたように、街中の電気がふつりと消えた。
それは異様な光景だった。
暗闇の中で銃を持っていた男が悲鳴を上げ、踊り狂うように身体を動かしていた。焼けるような臭い。男の臀部の辺りが激しく燃えている。
やがて明かりが戻り始めると、呆然と立ち竦んでいた男の仲間が、ようやく火を消そうとした。
「な、何だ、一体何が起こってる!」
「とりあえず火を消せ! 早く!」
「お前、こいつに何したんだよ!?」
自分たちに何が起きているのかわからないまま、男たちは慌てたようすで火を消している。その中で、崇嗣さんだけが信じられないものを目にした表情で、マルを見ていた。
「マル……?」
よかった、無事だった……。
マルは微笑んだ。そのまま崩れ落ちる。
「マル――……っ!」
崇嗣さんが駆け寄ってくるのを、マルは薄れゆく意識の中で感じていた。
「マル! しっかりしろっ! マルっ! マル……っ!」
――私は大丈夫です。だからそんな顔をしないでください……。
声に出したつもりが、ちゃんと音になっていたのかわからない。崇嗣さんに抱きしめられながら、マルは自分の身体の一部がショートしたように、プスプスと音を立てているのがわかった。全身が鉛のように重く、もう指の一本も動かせそうにない。
崇嗣さん……。崇……嗣、さ……。
視界が暗くなる。そしてついに、マルのすべての機能は停止した。
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