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恐怖で心臓をぎゅっと掴まれる。鼓動はあり得ないほど脈打ち、耳の外で鳴っているようだった。
色素の薄い睫毛が微かに震える。瞼が開き、透き通るような紫の瞳がのぞいた瞬間、崇嗣の胸を満たしたのは震えるほどの安堵だった。
「マル、どうした、何が言いたい……?」
その口が何か言葉を紡ごうとしていることに気づき、崇嗣は縋るような思いで耳を近づけた。
「私は大丈夫です。だからそんな顔をしないでください……」
こんな場面でさえ、自分を気遣うようなマルの言葉に、崇嗣は胸が張り裂けそうになった。
ロボットの原則、人を傷つけることはできない。物理的にそれは不可能だとされている。
崇嗣に危険が迫っていることで、マルはおそらく男の携帯電話を爆発させたのだ。それは高度な機能を持ついまの身体だからできたことだ。その結果、マルの中で何か致命的とも呼べる不具合が起きてしまったのだろう。
「大丈夫だ、マル……。お前は死なない。俺がお前を死なせない……。いいか、大丈夫だからな……」
まるで自分に言い聞かせるように、崇嗣は力なく横たわる少年の身体に触れ、確かめる。見たところ、身体に目立った損傷はないが、マルのチップが入っている部分がショートしたようにプスプスと音を立て、壊滅的なダメージを受けているのがわかった。マルに触れる自分の指先が微かに震えていることに気づき、崇嗣はきつく拳を握りしめた。
「マル、死ぬな……! 頼むから死なないでくれ……っ! マル……っ!」
これまでどんなときでも、崇嗣は自分を失うことはなかった。目の前の状況を冷静に分析し、行動することができた。それなのに、何よりも冷静に対処し、間違いは許されないこの瞬間に、自分はこれほどまでに激しく動揺している。
このままマルを死なせはしない。
崇嗣は力無く横たわる少年の身体を抱き上げた。
「おい、お前……っ! 勝手に動くなっ!」
自分に向けられているナイフの刃先が微かに震えていることに気づき、崇嗣は眉ひとつ動かさなかった。
「――どけ」
「え?」
「邪魔をするなと言っている」
「な……っ」
いまはたとえ誰であろうと、邪魔するやつは許さない。そんな崇嗣の気迫に押されたように、男の身体がわずかに揺れた。それ以上崇嗣を止めようとする者はいなかった。
家に戻ると、黒猫が姿を現した。ぐったりとしているマルを見て、金色の目を丸くする。
ヴィオラと呼ばれる猫は、マルがこの家にきたころから、いつの間にか一緒にいついてしまった人工猫だった。まるで我が物顔で振る舞う猫を、マルは喜んで世話をしていたが、崇嗣には一切懐かなかった。今夜マルが部屋から抜け出したことに気づけたのは、ヴィオラが寝ている崇嗣の上に飛び降りて起こしたからだ。
足元をついてまわる猫を崇嗣は足で避けると、マルをベッドに横たえた。手を取り、その髪を梳いてやると、いまにも目を開けてくれるような気がした。
「マル……、聞こえるか? マル……」
色素の薄い睫毛が微かに震える。瞼が開き、透き通るような紫の瞳がのぞいた瞬間、崇嗣の胸を満たしたのは震えるほどの安堵だった。
「マル、どうした、何が言いたい……?」
その口が何か言葉を紡ごうとしていることに気づき、崇嗣は縋るような思いで耳を近づけた。
「私は大丈夫です。だからそんな顔をしないでください……」
こんな場面でさえ、自分を気遣うようなマルの言葉に、崇嗣は胸が張り裂けそうになった。
ロボットの原則、人を傷つけることはできない。物理的にそれは不可能だとされている。
崇嗣に危険が迫っていることで、マルはおそらく男の携帯電話を爆発させたのだ。それは高度な機能を持ついまの身体だからできたことだ。その結果、マルの中で何か致命的とも呼べる不具合が起きてしまったのだろう。
「大丈夫だ、マル……。お前は死なない。俺がお前を死なせない……。いいか、大丈夫だからな……」
まるで自分に言い聞かせるように、崇嗣は力なく横たわる少年の身体に触れ、確かめる。見たところ、身体に目立った損傷はないが、マルのチップが入っている部分がショートしたようにプスプスと音を立て、壊滅的なダメージを受けているのがわかった。マルに触れる自分の指先が微かに震えていることに気づき、崇嗣はきつく拳を握りしめた。
「マル、死ぬな……! 頼むから死なないでくれ……っ! マル……っ!」
これまでどんなときでも、崇嗣は自分を失うことはなかった。目の前の状況を冷静に分析し、行動することができた。それなのに、何よりも冷静に対処し、間違いは許されないこの瞬間に、自分はこれほどまでに激しく動揺している。
このままマルを死なせはしない。
崇嗣は力無く横たわる少年の身体を抱き上げた。
「おい、お前……っ! 勝手に動くなっ!」
自分に向けられているナイフの刃先が微かに震えていることに気づき、崇嗣は眉ひとつ動かさなかった。
「――どけ」
「え?」
「邪魔をするなと言っている」
「な……っ」
いまはたとえ誰であろうと、邪魔するやつは許さない。そんな崇嗣の気迫に押されたように、男の身体がわずかに揺れた。それ以上崇嗣を止めようとする者はいなかった。
家に戻ると、黒猫が姿を現した。ぐったりとしているマルを見て、金色の目を丸くする。
ヴィオラと呼ばれる猫は、マルがこの家にきたころから、いつの間にか一緒にいついてしまった人工猫だった。まるで我が物顔で振る舞う猫を、マルは喜んで世話をしていたが、崇嗣には一切懐かなかった。今夜マルが部屋から抜け出したことに気づけたのは、ヴィオラが寝ている崇嗣の上に飛び降りて起こしたからだ。
足元をついてまわる猫を崇嗣は足で避けると、マルをベッドに横たえた。手を取り、その髪を梳いてやると、いまにも目を開けてくれるような気がした。
「マル……、聞こえるか? マル……」
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