リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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タイミングってやつ(4)

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 結論から言うと、本当に「たくさん」だった。

「ふぅ……」

「大丈夫か?」

「連続三回はむり……」

 ベッドでぐったり横たわっていると、英司が水の入ったコップを持ってきた。しかし受け取ろうと思ったら、目の前で避けられ、すかっと手が宙を切る。

「柳瀬さん、水……」

「やりたいことがあるんだけど」

「はい?」

 この疲れ切っている体になにをやらせようと言うのか、英司は何か企んでいる顔だ。警戒した状態で、次の言葉を待つ。

「口移しさせて」

「は!?」

 くちうつし……口移し?口移し!?

 予想外のことに、すぐに言葉が出てこない。口移しってあれだろ、漫画の中だけである……しかも、手が塞がってるとか、風邪のときとか、少なくともシチュエーションが限定されてるだろう。

 それを今、ここでやれと?

「無理です。チェンジで」

「だめだめ、拓也くんと遊びたいなら俺の機嫌とっときな?」

「は!?」

 ここで出してくるなんて、なんて意地が悪いんだ。絶対わざとだ。本当はもう拓也のことなんてどうでもいいけど、願望を通すためだけに言ってるだけだろう。

 「な、お願いだから」

「うう……」

 そ、そんなに口移ししたいのか、この人……。

 コップ片手の英司の熱量に押されて若干引きながらも、千秋は一つ覚悟を決める。

 口移しなんて普通はやらないけど、考えてみれば大したことじゃないのではと思い始めてきた。

 こ、恋人同士なら……これくらい許してやってもいいのかもしれない。実際やるのは柳瀬さんで、俺はなにもしないわけだし。

「……じゃあ、拓也と遊びに行っても、不機嫌にならないでくださいよ」

「わかった」

 その言葉がOKサインだとわかって、英司はぱっと明るい表情になった。

 すぐに横に腰掛けると、くいと顎を持ち上げられて、指が唇に触れる。

「口開けといて」

 そうかと気づいて、あ、と少し口を開く。英司はそんな千秋を満足そうに眺めた。

 なんだ、これ……。これでは英司からの口移しを待ち望んでいるみたいだ。英司は今からコップに口をつけようとしているし。

 予想以上に恥ずかしくなって、でも口を閉じるとまた面倒くさいことになりそうで、ぷるぷると赤くなりながら心の中で早くしてくれと唱える。

「ん」

「んぁ……」

 やがてコップの水を少し含むと、その唇が触れる。そしてぴたりとくっつけると、水がちゅるりと流れ込んできた。

「ん、ん……」

 こぼれないように、こくこくと必死に受け入れている。なにこれ、なにこれ……。英司に餌付けされてるみたいに、それに縋ってしまう。

 それと同時に冷えた舌も潜り込んできて、心地よい苦しさが増した。冷たいそれが気持ち良くって、千秋も積極的に絡めた。……さっきもたくさんしたのに。

「んん……っ」

「千秋……」

 ようやく唇が離れたところで、英司が耳元に口を寄せて「もっといる?」と聞いてきた。

「好きにすれば……」

 きゅっと握った英司の服を離さず、顔をそらして蚊の鳴くような声で答える千秋。それに英司は興奮したような笑みを浮かべると、また千秋の口を開かせる。

 結局、千秋の喉の乾きはこれでもかというほど満たされたのだった。
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