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しおりを挟む「あんた、まあいいか。私には関係ないから」
真澄ちゃんが気になることをいうから僕はにらみつけるように真澄ちゃんを見つめていた。
「あんたに朗報よ、作品が書けたわよ」
「よかったね」
「あんまり嬉しくないっていう言い方ね」
「どうでもいい」
そんなことがあったなと今は僕自身思う。僕はなんて薄情なのと真澄ちゃんに言われた。
そうしたら笑えた。笑えることができた。あんなに気が重かったはずなのに。
「なにを笑っているのよ」
「いや、真澄ちゃんは真澄ちゃんだなって」
「あら、違う私だってあるのよ」
ふふんと真澄ちゃんは笑った。悪巧みをしているようないやな笑いになるから真澄ちゃんは油断ならない。
「食事はいつにする」
「あっ」
あんた、という顔をした真澄ちゃんがいた。僕はしばらく黙っていたが行くとはっきり言った。
「へそ曲げている」
「違う」
真澄ちゃんは笑った。その笑い方はなんとも言えず優しいものだった。だから、僕は真澄ちゃんを嫌いなれない。
「真澄ちゃん、急ごう」
コンビニに向かう。暖かい空気の中適当に弁当を買ってきた。
教室に戻ると戸井田はじっと俺を見つめていた。
「拓磨、お願い。彼女と会ってくれ。昼休み」
「いいけど」
そういうしか僕は戸井田を助けることができないとわかったからだ。戸井田は彼女との喧嘩がよほど気を重くしているのかどんよりと落ち込んでいた。
僕はそんな風に自分も見えたのかなと考えていた。真澄ちゃんに心配されるくらいに。そんなことを考えていた。
喜一さんのことを思い出す。意味もなく。なぜ喜一さんはあのパン屋に来たんだろう。泥船と言ったパン屋に。そんなことが気になった。でもそんな親しくない僕にわざわざ、鈴さんの店に来た理由は言ってくれないのとわかっていた。
それが寂しいような、悲しいような気持ちにさせた。鈴さんはなんて言ったのだろう。
「ぼんやりした顔をするな」
いきなり戸井田が言った。
「別に」
それ以上戸井田は言わなかった。夜の顔が浮かんでいた。夜なら聞いてくれるかなと考えていた。いやらしい考えも含まれているが。
チャイムが鳴る。授業が始まる。切り替えるように僕は授業に集中する。
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