羅針盤の向こう

一条 しいな

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「ええっ。嘘」
「後、マッサージ店はただのマッサージ店だからね」
「私をなだめに来たんですか」
「いや違うんだ」
「ひどい」
「いや、そうじゃなくて」
 なになにという目線が周りに集まってくる。戸井田はまだ売店にいる。僕は困っている。
「拓磨が女の子を泣かせている」
 振り返る夜がいた。バイトの服ではなく、いつもの格好だ。コートにジーパンだ。
「どうしたの。君」
 いきなり夜は夕さんに問いかけた。突然現れた夜に夕さんはびっくりしてようだ。
「拓磨なら俺が怒るよ。ねえ彼女なの」
 夕さんは顔を赤くして首を振る。ぶんぶんと。
「じゃあ、なに」
 まるで優しく尋ねるので夕さんは言葉を吐き出した。
 最近○ックスもあまりしない。それに喧嘩ばかり。それでも夕さんは戸井田が好き。戸井田は女友達が多いだから、もしかしたら別に好きな人がいるかも。自分はさえないオタクだから、きっと嫌気がさしたんだ。
「ふうん」
「あの」
 夜の指がそっと向けた。顔を真っ赤にしている戸井田がいた。
「バカじゃねえの。俺はおまえ以外を目に入らない」
 知るかと戸井田は走っていく。
「追いかけた方がいいよ」
 こくりと彼女はうなずいた。
「さて、拓磨」
「絶交は」
「やめた。疲れた」
「ありがとう」
「どういたしまして」
 僕達はカフェテリアをあとにした。バスターミナルと聞こえがいいが、バス停の休憩所みたいなところがある。僕はそこで弁当を広げた。
「なんで絶交をやめた」
「ノリ」
 そんな理由かと僕は言った。もくもくとご飯を食べている。ヒヤヒヤしたものはまだ腹の底に残っていた。
「女をわかっていねえな。ああ責めると泣くぞ」
「責めていない」
「あっちだって悪いとわかっている。日頃の鬱憤がたまったからああいう形になっただけ」
「夜は詳しいね」
 皮肉で僕が言った。
「わかれよ」
 わかりたくないと思った。僕はわかりたくない。そうつぶやきそうになるのを必死に抑えていた。わかったところでなんになるのだ。
「おまえ、さ。なんでわからないのに付き合うの」
「なんとかできると思って」
「できないときもあるぞ、できるなんて思うなよ」
 夜の忠告は耳が痛かった。確かにこじれるときはこじれる。
「あのさ。夜は泥船に乗る」
「なに、いきなり、わけわかんねえ」
「なんでもない」
 やっぱりそういう反応だよな。喜一さんの気持ちは夜にはわからない。
「なに考えているんだ。おまえ」
「夜と彼女はどうなんですか」
「……言いたくない」
「泥沼なんだ」
 じっとしていた夜はため息をついた。言いたくないということだろう。
 夜はじっと僕を見つめていた。
「おまえさ。なんで」
「おっ、拓磨じゃん」
 友人に声をかけられた。友人と話していた。そうしたら夜はなにも言わない。
 友人が去ってから夜は「おまえ大学生なんだな」と言われた。
 それがすごく寂しげに聞こえていた。悲しいのに僕はなにか言えなかった。
 弁当を捨てていると、夜は体をのばしていた。猫みたいな顔をしている。気持ちよさそうに目をほめて。
「夜。なんで来たの」
「絶交取り消しに来ただけ」
「そんなのメッセージでいいのに」
「あと、言いたくないから言わない」
「なんだよ。気になるじゃん」
 ライブ来いよと言われた。そのまま夜は立ち去った。僕は小さくなる背中を見ていた。
「拓磨じゃないの」
 いきなり声が聞こえていた。僕は後ろを振り向くと真澄ちゃんがいた。
「なにをしているの。あっ好きな人でも見送っているの」
 真澄ちゃんの攻撃に僕は「違う」と言った。あえてそう言っているのはなんとなくわかった。
「顔のいい男だったわ。」
 あれで細マッチョならいいわよねと僕の目を見ながら、真澄ちゃんは言った。細マッチョなのかは知らない真澄ちゃんに「ひょろひょろだよ」と僕は答えていた。
「あんた。授業はいいの」
「図書館」
「じゃあ付き合って」
「えっ」
 寒い。棟の中に入る。パソコンを借りた。そうして真澄ちゃんはタブレットを持っていた。
「書いたの。あんたの話」
「で、わざわざ見せに来たの」
「あたしはね。納得して書いた。あんたはどう」
 タブレットに目を通す。長い文章が連なったものだ。気がつけば、日が傾き、暗くなって真澄ちゃんが電気をつけていた。
「まだある」
「面白い」
「うん」
「本当に」
「うん」
 真澄ちゃんは不安そうな顔をした。真澄ちゃんに見つめる。僕は笑いかけた。
「とっても面白い。僕じゃないよ、この主人公は」
「えっ」
「そうなの」
 はあ、と真澄ちゃんはため息をついた。あーあと真澄ちゃんはつぶやいた。
「真澄ちゃんありがとう」
「まあ、結果オーライにするわ」
「まあ、売れるといいけど」
 ひっそりと夜になった。
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