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冷えた体が暖房で温まる。シャワーを浴びるかと考えていた。が、風呂にした。風呂を洗っていたから良かった。洗濯物が干してあるから片付けていると夜がドアから顔を出す。
夜は不思議そうな顔をしていた。
「なに?」
「なにしているんだ?」
「風呂」
「シャワーでいいじゃん」
うんと言いながら、風呂を準備する。狭いユニットバスの中、僕はお風呂を溜まっているお湯加減を確認した。蛇口から透明なお湯が流れていく。そこに溜まっている。
「疲れた」
居間で横になって眠っている夜はつくりものみたいに見えていた。まつげ一つ細かく震えている。力なく柔らかな唇はうすく開いている。夜の顔を覗く、じっとしている夜に「狸寝入り」と僕は言った。
眠っていたまま、夜は顔を歪めていた。顔は笑っていた。そんな夜は顔がくしゃくしゃにしていた。
「夜、好きだ」
いきなり僕は言った。何気ないことがいとしさに変わる。そんなときがある。それはいつだって唐突だ。夜の顔を手に伸ばす。
「なにもしない、だろう?」
「キスだけ」
ふうんと夜が言う。まるでぼくは試されている気分になる。なにに試されているのかは夜だとわかる。
「夜は、好き?」
女子みたいなことを尋ねている。そんな僕を夜はニヤリと笑う。
「なに、不安?」
うなずいた。とても怖かった。だから、夜がなぜ笑うのかわからない。多分、優位な立場だからということがわかる。
「好きだよ」
そうして僕と夜は唇を重ねるだけのキスだった。そんな夜は満足そうに受け入れていた。
「夜は反対かな」
「うん。なにが?」
「僕がパン職人になること?」
「疑問文かよ。俺は自分が好きなことをしているから人のことを言えないけど。もっと考えた方がいい」
夜は考えていた。
突き放すべきかと考えているようだ。夜の顔を上げていた。まるで挑むかのようだった。目がギラついている。それがたまらす、息を飲む。
「わからないんだ。自分の気持ちが、よく」
わからないと言われたら落胆すると思っていた。だから夜が優しくしない。そう、思っていた。
「わからないならば、自分の気持ちを確かめろよ」
「うん」
「それが一番難しい」
なっ、と言われて頭を撫でられた。僕だけが知っている気持ちはどこに行ったのか考えていた。それは確かにあるはずなのに、砂糖に溶かした水のように見えないでいる。そんな僕は情けない気持ちでいっぱいだ。
情けなくて仕方がない。
「夜はなんで音楽を始めた?」
「好きだから。これしか道がない。生きていけない」
真面目な顔をした夜がいた。きっと夜の中では不変の真理なんだろうと思う。変わらないから、夜は前を向けられる。
「夜は強い」
「普通だろう」
そんなことを言われた。夜の周りにはたくさんそんな人達がいるのだろう。そんな夜は笑う。
「嫉妬している?」
「していない」
本当はしているとは流石に言えない。そんな僕の気持ちを教えるつもりはなかった。恥ずかしい上、惨めになる。夜はふうんとつぶやいた。僕の顔を観察する目が動く。まばたきをする。それをすると、絵画のように思えてくる。そんな話があったと思い出すが、一体どんな話だったのか思い出せない。
「夜は、先に風呂に入る」
夜は笑う。
「一緒に入れないだろう?」
今度入れるような場所でと言われた。耳元で。僕は顔を真っ赤にしていた。翻弄されているのが悔しいので反撃に「そんな金は音楽に使え」と言った。夜はニヤリとした。
「なんでもいいよ。楽しければ」
「そういうものか」
僕にはさっぱりだった。夜は風呂に入る。改めて考えるとなぜ夜がここにいるのか、よくわからない。そんな自分がいる。
わからなくなり、付き合っていると思い出す。それが信じられない。夢を見ている。夢ではないと言うしかない。
真っ暗な空に広がる住宅街。そんな様子を僕は見ていた。好きだ、嫌いだなんて些細なことであるように見える闇の中。僕は自分がなにをしたいのか考えていた。
メッセージが届いた。姉からである。姉からメッセージを送る。満足したようだった。両親からなにも言われない。言われたらどう説明すればいいのだろうか。
「夜。僕は」
そんな言葉を漏れる。そんな僕が情けない。夜の顔を浮かべる。夜の言葉を思い出した。夜の顔、あのとき、ギラついた目。あれが僕にできるだろうか。ある程度わかっている。逃げかもしれない。そんな不安になる。
ため息が僕の唇から漏れる。なぜこんなに周りを気にするのか、そんなことを思うのは覚悟が足りない。夜のような強さがない。
夜はカッコつけていたが、そんな夜が迷っていた。迷うのは誰でも同じだが、僕は迷ってばかりだ。そんなことを思う。
「拓磨、風呂」
ああとつぶやいた。ドライヤーを探している夜にドライヤーを渡す。そんな夜は濡れた髪から視線を投げかけてくる。
「がんばれよ」
そう言われた。わからない。なぜそんなことをいうのか。そんなに思いつめている顔をしているのだろうかと思ってしまう。
「まあ、そうする」
なんだ、その変な答えではと自分でも思う。でも、戸惑っている僕がいた。夜の目はビー玉のように輝いていた。不思議な気分になる。この目にやられたのだろうか。最初は声だったのに、変わる。人は変わる。
「夜、風呂に入るから、毛布にくるまっていろよ」
おうと言われた。実際にそうして欲しかった。夜の顔をまとも見られなかった。多分、夜も大学くらい出て欲しいのだろう。それがわかる。でも、それでいいのだろうか。そんな、疑問を抱いていいのだろうか。
多分、反発したいだけかもしれない。後悔するのは自分なんだ。それがわかっている。ごちゃごちゃとした気持ち。
正しいのはどれだろう。正しさは定規では測れない。そんな当たり前だから、頭を悩ますのだ。
風呂から上がって、毛布に包まっているはずの夜は僕のベッドで眠っている。暖かい布団を奪われた僕はしばらくため息をつきたいのを我慢して、クローゼットから毛布を取り出して、包まった。そうして床に眠る。
あべこべではと思うが、今日の僕は強く言えなくて、疲れた体を横にするだけだ。
「入れよ」
夜は布団の中から出て、僕ごと抱きしめていた。夜のなかでは柔らかな女の子ではない。それが、いいのかわからない。夜はしばらく僕の髪の匂いを嗅いでいた。
「夜」
「おまえさ」
なにもしないっていうのはひどいと思わない、そう耳元で囁かれる。そんな夜に僕は笑いかける。
「こんな壁が薄いところでなにもできない」
そうだなと言われた。夜の中でなにかしたいと思っていたのはわかっていたつもりだ。夜はキスする。柔らかな唇、そこからメロディーが流れるのだろう。そんなことを考えている。
バードキスを繰り返していく。それがだんだん熱を帯びている。顔中にキスが落ちていく。
「やめろよ」
僕は笑いをこらえるためだ。体を捻る。そんな僕を夜は逃さないように体を抱きしめている。
「欲求不満?」
「だったら?」
じゃあ、そっと股間を触る。熱いのか、ちょっとだけ立ち上がっているのがわかる。僕は多分顔を赤くしている。赤くなって、触る。いい子いい子と触る、触るとビクッと夜の体は震える。
ズボンを下ろし、パンツからものを出す。ビクビクと赤黒く、太いものがある。それにそっと手に取る。僕の手が冷たいのか、夜が熱いのか、わからない。
触っている。玉の部分をマッサージするように手を滑り込んでやる。窮屈だ。
もどかしいのに、僕はただ竿を刺激する。輪を作る。そうしてシコシコと動かす。僕は緊張している自分が、気がついた。興奮している自分もいる。
夜の顔を見たくなった。硬くなる。熱くなる。ドクドクと脈打つように、僕は脳が焼きつくような気持ちになる。僕の手で夜をよくしている。
お互いの息が聞こえる。獣のような息遣い。
僕のものも立ち上がっていく。パンツを下げて、僕のものを見せたくなる。
「拓磨」
顔を見せてと言われた。顔を上げると夜の手が僕の手を重ねていく、熱くてたまらない。夜の顔に余裕がない。いつもの夜ではない。
「イク」
それだけでいわれた。手の中で熱いもので濡れていた。気がついたら、僕はパンツを下げた。夜の目が僕の下半身に釘付けになる。ティッシュで手を拭き取って自分で扱う。
「あっ」
夜が手を伸ばして、大きなゴツゴツして手で触る。
「よる」
「いいんだ」
立ち上がったものをゆるく扱い、腰の周り、精気を作る部分が、重く痺れる。ここから出したい。今すぐに。なかなか快感が、来なくてもどかしい。そんな僕をなだめるように夜はゆっくりと輪を作り、コシコシと動かす。
「意地悪しないで」
「うん。わかった」
指が早く動かされ、あっけなく僕は快感に溺れる。夜の手でいくんだ。夜の体温の感触、それを感じているのに頭は出したいと考えていた。
「いやっ、くる」
怖くてガタガタくるのかわからない。体に力が入る。そうして夜の手を汚していた。
お互いに息をする。
「はあー」
夜の顔がぎらついた。強く。
夜は不思議そうな顔をしていた。
「なに?」
「なにしているんだ?」
「風呂」
「シャワーでいいじゃん」
うんと言いながら、風呂を準備する。狭いユニットバスの中、僕はお風呂を溜まっているお湯加減を確認した。蛇口から透明なお湯が流れていく。そこに溜まっている。
「疲れた」
居間で横になって眠っている夜はつくりものみたいに見えていた。まつげ一つ細かく震えている。力なく柔らかな唇はうすく開いている。夜の顔を覗く、じっとしている夜に「狸寝入り」と僕は言った。
眠っていたまま、夜は顔を歪めていた。顔は笑っていた。そんな夜は顔がくしゃくしゃにしていた。
「夜、好きだ」
いきなり僕は言った。何気ないことがいとしさに変わる。そんなときがある。それはいつだって唐突だ。夜の顔を手に伸ばす。
「なにもしない、だろう?」
「キスだけ」
ふうんと夜が言う。まるでぼくは試されている気分になる。なにに試されているのかは夜だとわかる。
「夜は、好き?」
女子みたいなことを尋ねている。そんな僕を夜はニヤリと笑う。
「なに、不安?」
うなずいた。とても怖かった。だから、夜がなぜ笑うのかわからない。多分、優位な立場だからということがわかる。
「好きだよ」
そうして僕と夜は唇を重ねるだけのキスだった。そんな夜は満足そうに受け入れていた。
「夜は反対かな」
「うん。なにが?」
「僕がパン職人になること?」
「疑問文かよ。俺は自分が好きなことをしているから人のことを言えないけど。もっと考えた方がいい」
夜は考えていた。
突き放すべきかと考えているようだ。夜の顔を上げていた。まるで挑むかのようだった。目がギラついている。それがたまらす、息を飲む。
「わからないんだ。自分の気持ちが、よく」
わからないと言われたら落胆すると思っていた。だから夜が優しくしない。そう、思っていた。
「わからないならば、自分の気持ちを確かめろよ」
「うん」
「それが一番難しい」
なっ、と言われて頭を撫でられた。僕だけが知っている気持ちはどこに行ったのか考えていた。それは確かにあるはずなのに、砂糖に溶かした水のように見えないでいる。そんな僕は情けない気持ちでいっぱいだ。
情けなくて仕方がない。
「夜はなんで音楽を始めた?」
「好きだから。これしか道がない。生きていけない」
真面目な顔をした夜がいた。きっと夜の中では不変の真理なんだろうと思う。変わらないから、夜は前を向けられる。
「夜は強い」
「普通だろう」
そんなことを言われた。夜の周りにはたくさんそんな人達がいるのだろう。そんな夜は笑う。
「嫉妬している?」
「していない」
本当はしているとは流石に言えない。そんな僕の気持ちを教えるつもりはなかった。恥ずかしい上、惨めになる。夜はふうんとつぶやいた。僕の顔を観察する目が動く。まばたきをする。それをすると、絵画のように思えてくる。そんな話があったと思い出すが、一体どんな話だったのか思い出せない。
「夜は、先に風呂に入る」
夜は笑う。
「一緒に入れないだろう?」
今度入れるような場所でと言われた。耳元で。僕は顔を真っ赤にしていた。翻弄されているのが悔しいので反撃に「そんな金は音楽に使え」と言った。夜はニヤリとした。
「なんでもいいよ。楽しければ」
「そういうものか」
僕にはさっぱりだった。夜は風呂に入る。改めて考えるとなぜ夜がここにいるのか、よくわからない。そんな自分がいる。
わからなくなり、付き合っていると思い出す。それが信じられない。夢を見ている。夢ではないと言うしかない。
真っ暗な空に広がる住宅街。そんな様子を僕は見ていた。好きだ、嫌いだなんて些細なことであるように見える闇の中。僕は自分がなにをしたいのか考えていた。
メッセージが届いた。姉からである。姉からメッセージを送る。満足したようだった。両親からなにも言われない。言われたらどう説明すればいいのだろうか。
「夜。僕は」
そんな言葉を漏れる。そんな僕が情けない。夜の顔を浮かべる。夜の言葉を思い出した。夜の顔、あのとき、ギラついた目。あれが僕にできるだろうか。ある程度わかっている。逃げかもしれない。そんな不安になる。
ため息が僕の唇から漏れる。なぜこんなに周りを気にするのか、そんなことを思うのは覚悟が足りない。夜のような強さがない。
夜はカッコつけていたが、そんな夜が迷っていた。迷うのは誰でも同じだが、僕は迷ってばかりだ。そんなことを思う。
「拓磨、風呂」
ああとつぶやいた。ドライヤーを探している夜にドライヤーを渡す。そんな夜は濡れた髪から視線を投げかけてくる。
「がんばれよ」
そう言われた。わからない。なぜそんなことをいうのか。そんなに思いつめている顔をしているのだろうかと思ってしまう。
「まあ、そうする」
なんだ、その変な答えではと自分でも思う。でも、戸惑っている僕がいた。夜の目はビー玉のように輝いていた。不思議な気分になる。この目にやられたのだろうか。最初は声だったのに、変わる。人は変わる。
「夜、風呂に入るから、毛布にくるまっていろよ」
おうと言われた。実際にそうして欲しかった。夜の顔をまとも見られなかった。多分、夜も大学くらい出て欲しいのだろう。それがわかる。でも、それでいいのだろうか。そんな、疑問を抱いていいのだろうか。
多分、反発したいだけかもしれない。後悔するのは自分なんだ。それがわかっている。ごちゃごちゃとした気持ち。
正しいのはどれだろう。正しさは定規では測れない。そんな当たり前だから、頭を悩ますのだ。
風呂から上がって、毛布に包まっているはずの夜は僕のベッドで眠っている。暖かい布団を奪われた僕はしばらくため息をつきたいのを我慢して、クローゼットから毛布を取り出して、包まった。そうして床に眠る。
あべこべではと思うが、今日の僕は強く言えなくて、疲れた体を横にするだけだ。
「入れよ」
夜は布団の中から出て、僕ごと抱きしめていた。夜のなかでは柔らかな女の子ではない。それが、いいのかわからない。夜はしばらく僕の髪の匂いを嗅いでいた。
「夜」
「おまえさ」
なにもしないっていうのはひどいと思わない、そう耳元で囁かれる。そんな夜に僕は笑いかける。
「こんな壁が薄いところでなにもできない」
そうだなと言われた。夜の中でなにかしたいと思っていたのはわかっていたつもりだ。夜はキスする。柔らかな唇、そこからメロディーが流れるのだろう。そんなことを考えている。
バードキスを繰り返していく。それがだんだん熱を帯びている。顔中にキスが落ちていく。
「やめろよ」
僕は笑いをこらえるためだ。体を捻る。そんな僕を夜は逃さないように体を抱きしめている。
「欲求不満?」
「だったら?」
じゃあ、そっと股間を触る。熱いのか、ちょっとだけ立ち上がっているのがわかる。僕は多分顔を赤くしている。赤くなって、触る。いい子いい子と触る、触るとビクッと夜の体は震える。
ズボンを下ろし、パンツからものを出す。ビクビクと赤黒く、太いものがある。それにそっと手に取る。僕の手が冷たいのか、夜が熱いのか、わからない。
触っている。玉の部分をマッサージするように手を滑り込んでやる。窮屈だ。
もどかしいのに、僕はただ竿を刺激する。輪を作る。そうしてシコシコと動かす。僕は緊張している自分が、気がついた。興奮している自分もいる。
夜の顔を見たくなった。硬くなる。熱くなる。ドクドクと脈打つように、僕は脳が焼きつくような気持ちになる。僕の手で夜をよくしている。
お互いの息が聞こえる。獣のような息遣い。
僕のものも立ち上がっていく。パンツを下げて、僕のものを見せたくなる。
「拓磨」
顔を見せてと言われた。顔を上げると夜の手が僕の手を重ねていく、熱くてたまらない。夜の顔に余裕がない。いつもの夜ではない。
「イク」
それだけでいわれた。手の中で熱いもので濡れていた。気がついたら、僕はパンツを下げた。夜の目が僕の下半身に釘付けになる。ティッシュで手を拭き取って自分で扱う。
「あっ」
夜が手を伸ばして、大きなゴツゴツして手で触る。
「よる」
「いいんだ」
立ち上がったものをゆるく扱い、腰の周り、精気を作る部分が、重く痺れる。ここから出したい。今すぐに。なかなか快感が、来なくてもどかしい。そんな僕をなだめるように夜はゆっくりと輪を作り、コシコシと動かす。
「意地悪しないで」
「うん。わかった」
指が早く動かされ、あっけなく僕は快感に溺れる。夜の手でいくんだ。夜の体温の感触、それを感じているのに頭は出したいと考えていた。
「いやっ、くる」
怖くてガタガタくるのかわからない。体に力が入る。そうして夜の手を汚していた。
お互いに息をする。
「はあー」
夜の顔がぎらついた。強く。
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