英雄殺しの転生王子 王国を守る為に俺は歴史上の英雄たちと戦う

一本坂苺麿

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1章 鬼界転生

10話 宝剣と巫女

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 翌朝、俺は謁見の間へと赴いた。そこには兵士や大臣たちが既に集まっている。
 挨拶をさっさと済ませると俺は亜人の国のことについて話し始めた。

「なにぃ!? 宝剣を置いていくだと!」

 父である王が愕然としながら叫んだ。

「はい。俺が王子であることを隠すのに目立つ宝剣は邪魔ですからね。それに亜人の国はその大半が密林です。あの長い剣では使いにくい」

 なので、代わりとなる片手剣を腰ベルトに差していた。

「ならん!!」

 しかし、王は大きく首を振って反対する。

「宝剣を身に着けぬのなら、ここから出て行くことは許さん!」
「なぜあの宝剣に拘るのです? どう言われようが俺は行きます」
「王である私の言葉を無視する気か?」
「むろん父上の言葉は尊重しますよ。しかし、事は急ぐのです。こんな事で手間取っている場合じゃありませんよ」
「ぬうっ」

 王は狼狽していたが、チラリと脇のレイナに目を向けた。

「いいだろう、アルセル。宝剣は置いて行け。ただし、その代わりにこのレイナを連れていけ」
「レイナを!?」

 俺が言葉を発する前にルクセトが声を上げた。

「父上! なぜ、レイナを?」

 あの冷静なルクセトがこんなに声を荒げるなんて珍しい。俺も含め周りの者たちも驚いている。

「それが必要な事だからだ」

 王は何でもないように平然と言った。

「どういう意味です?」
「くどいぞ、ルクセト!」

 王は苛立たし気に叫び、レイナに支度するように言った。
 ルクセトはそれっきり黙り込んでしまった。

 そして出発の時刻、城門の前には今回一緒に行動する部下数名とレイナが待っていた。
 彼らと行程の確認を取っていると、城内から兄のルクセトがやって来た。

「アルセル……」
「兄上、レイナの事なら心配要りませんよ、この俺が付いていますからね」

 兄の憂いを晴らすつもりでそう言ったのだが、彼は微妙に苦笑を浮かべるだけだった。

「思慮深くなったと思ったが、その本質は変わってなかったみたいだね。力の自信から来る傲慢さ……」
「あ、兄上?」

 ルクセトはハッと我に返った。

「いや、すまない。気にしないでくれ。レイナを頼むよ」
「あ、あぁ」

 今まで見た事がない兄の一面を見てしまった気がして狼狽えた。
 そんな兄はレイナに向き直っている。

「気を付けるんだよ、レイナ」
「はい、ルクセト様」

 レイナは丁寧に頭を下げた。
 ルクセトは重々しく頷き、踵を返して城内へと帰った。

 少々調子を崩されてしまったが、まぁいい。

「行くぞ」

 いざ、亜人の国へ。

 ◆

 俺たちは亜人の国との国境沿いの街へと旅立った。
 王都から風力車に乗って北東方向に進む。車両は二台。後方に配下の兵士四名、前方には操者、そして俺とレイナが腰掛けていた。彼女の服装は昨日の黒いローブではなく旅用の軽装に変わっていた。長い黒髪を後ろで束ねている。地味な服装に身を包んではいるが、その美しい顔立ちの前ではあまり効果を発揮していなかった。

「傷の具合はいかがですか?」

 俺の視線に気づいたレイナが気遣わしげに問い掛けてきた。

「良くなっていると思う」
「街に着いたら、薬を塗り直しましょう」
「あぁ、頼む」

 そう答えつつ俺は彼女から視線を逸らせた。
 どうにもこの女は苦手だ。感情を押し殺しているような表情や声音に王都のような窮屈さを感じてしまうのだ。

 それからしばらくして、風力車の眼下に街が広がっていた。
 国境沿いにある【ミクサ】だ。ここは人間と亜人が唯一共同で暮らしている中規模の街だ。逆に言えばここ以外の場所に亜人の者たちが入り込むことはないし、人間が亜人の国に入ることもない。

 しかしそれは表向きの話だった。精霊魔法が使えない国民の中には、怪我や病気を治してもらう為に亜人の国に入る者たちがいる。さらに、亜人の国でしか手に入らない特別な鉱石を手に入れる為にも入国する者たちがいた。 

 そんな彼らの為にこの街には案内人を名乗る亜人たちが一定数いるらしいのだ。彼らに頼めば隠密に亜人の国を動き回れるわけだ。俺たちもその案内人を雇うつもりだった。

 街に到着すると、まずは宿をとった。
 その後兵士四人は情報収集へ、残りの俺たちは案内人を雇う為に酒場に向かった。
 無事に交渉を終え、案内人を雇った後、俺たちは宿に戻った。亜人の国には翌日の早朝に向かう事となった。

 宿の食堂で寛いでいると、近くをレイナが通りかかった。頭を下げながら通り過ぎようとする。

「お前はこの街で待っていてもいいぞ。わざわざついて来る必要はない」

 俺の言葉にレイナはきっぱりと首を振った。

「いえ、私は常にアルセル様のお側について参ります」
「そうするように父上に命じられたのか?」
「はい」
「その理由を知っているか?」
「わかりません」
「怖くないのか?」
「……はい」
「嘘だな」
「え?」

 彼女はその蒼い眼を見開いた。一瞬呆気に取られたようだが、すぐに持ち直した。

「嘘ではありません。私もレシフォール家の娘です。いざとなれば王家の為にこの命を差し出す覚悟はあります」

 真っ直ぐに俺の眼を見返してくる。
 控えめながらも、強い意思を感じる眼差しだ。

「……ま、そこまで言うのなら好きにすればいいさ」

 レイナは一礼して立ち去って行った。

 湯場にてヒスカが言っていたことに間違いはないはずだ。レイナは俺に対して敵対心とまではいかなくとも何かしら不信を抱いているように思う。

 やり辛い、それが俺の率直な感想だった。

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