英雄殺しの転生王子 王国を守る為に俺は歴史上の英雄たちと戦う

一本坂苺麿

文字の大きさ
14 / 21
2章 亜人の国

14話 エルフの森

しおりを挟む
 俺たちは風の精霊の力を使って森の上を飛んだ。エルフたちも、最初は警戒していたが、風の力で飛ぶことに同意してくれた。

 エルフたちと俺たち、それぞれ隠し事をしていたわけだが、今はとにかく無事にエルフの領地に辿り着くことを優先させた。

「これが妖霊の力なのね、中々面白いじゃない!」

足下を過ぎ去っていく緑の海を眺めながらユリアがはしゃぐ。
ついさっき命の危険に晒されたばかりだと言うのに、随分と楽天的だ。呆れると言うか、感心するというか。とにかく不思議な女性だ。

一方、機転を利かせて俺たちを救ってくれたレイナは怯えた視線を下に向けている。

「怖いのか?」

 レイナは首を振った。明らかに嘘である。

「下を向かずに前だけを見るんだ」

 それでもレイナの眼から怯えは消えない。俺はそんな彼女に手を差し出した。

「手を掴め。その方が紛れるから」
「し、しかし……」

 遠慮した様子の彼女だったが、躊躇いがちに俺の手を取った。小さくて、とても柔らかい手だった。
 
 それからしばらく経った後、ユリアが前方の岩山を指差した。

「あれがエルフの森よ」

 その岩山は、カルデラ構造を形成していた。
 中心部分からはもくもくと立ち上る煙のように葉を付けた大樹が鎮座している。全長何百メートルもあるだろう。北欧神話のユグドラシルを連想させる代物だった。

「あの大きな岩のところで降りて。事情は私が説明するから」

 ユリアがウィンクする。
 彼女の指示する場所にはとても大きな岩が横たわっていた。
 ユリアは降り立つと、岩と斜面の間に歩み寄った。
 一見するとただの岩だが、彼女が何やら聞きなれない言葉で語りかけると、斜面から急に扉が浮き上がってきた。

 エルフの1人が扉を押し開け、ユリアが手招きした。俺たちは彼女に従って扉の内側へと入った。暗いトンネルのような通路を約20メートル進むと火口内部へと抜け出た。

そこには森、と言うよりは整備された庭園が広がっていた。まるでバビロンの空中庭園のようだ。

「こっちよ」

 ユリアが先導して庭園のように整った森を進む。
 右手には澄んだ湖が横たわり、陽の光を反射して輝いている。
 森の木の上にはウッドハウスが建てられている。木と木の間には橋が張り渡されており、木の上にもう一つ通路がある格好だ。

 ユリアによると、エルフたちはこの木の上の家で寝起きしているらしい。頭上を見やれば何人ものエルフたちが行ったり来たりしている。

「もちろんエルフの王が暮らしているのはあっちの大樹の上ね。今からそこに行くわけだけど」
「エルフの王とは随分と他人行事じゃないかい? 素直にパパとでも呼べばいいじゃないか」
「私、反抗期なの」

 ユリアは肩を竦める。

「反抗期というよりは、ただのお転婆のようだが」
「あなたには言われたくはないわよ、アルタイアの王子さま」

 ユリアが負けじと言い返す。

「お手て繋いで仲が良いのね」
「え?」

 ユリアはクスクスと笑っているが、俺は何のことかわからない。

「あの……」

 隣からレイナの躊躇いがちな声。

「もう、放してくださって結構です」

 そう言われてやっと気づいた。
 ここに降り立ってから今までずっと彼女の手を握ったままだったのだ。

「あぁ、すまない」
「いえ、そんな……」

 俺たちの間に気まずい雰囲気が流れた。が、ユリアが反対側から腕を絡めてきた。

「はいはい、次は私とお手て繋ぎましょうねー」

 ニコッと笑みを見せていたユリアだったが、不意に真顔に戻った。

「王城まではまだあるんだから、さっきのヤツのこと、あなた達がここに来た目的も話してくれるわよね?」

 俺は無言のまま頷いた。
 どのみちこうなることは予想していた。

 亜人種の中でもエルフ族は友好的な方なのだから、何とか協力を取り付ける予定だったのだ。それがユリアたちとの出会いやスパルタカスたちの襲撃で早まっただけに過ぎない。

 俺は隣のユリアに対して、義眼の魔術師並びに転生鬼人衆に関することをほとんど話した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...