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2章 亜人の国
16話 迫る鬼人たち
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あまりに心地よかったので、思わず眠ってしまったらしい。
目が覚めてみれば、俺はベッドの上に横たわっていた。
窓の外からは夕日が差し込んでいる。随分と時間が経っているようだ。
「具合はいかがですか、アルセル様?」
横合いからレイナの声。
彼女は水差しを抱えていた。
「あぁ、大丈夫だ。その水をくれるか?」
「はい」
レイナは水差しからグラスに注ぎ、俺に渡してくれた。礼を述べて一口飲む。少し甘い水だった。
「エルフの治癒には驚きました」
俺の傷口をしげしげと眺めながら彼女は言った。
「そうだな。完全に動くようになった。驚異的だよ」
腕をぐるぐると振り回してみるが、全く痛みを感じない。
「一体どのような薬を使用しているのでしょう?」
レイナは独り言のように呟いた。
「そういえば、あのスパルタカスから逃げ切る時に変な煙玉を使っていたな。ああいうの作るのが得意なのか?」
「はい、家で教わって来たものですから。あの煙玉にはしびれ草をすり潰したモノを混ぜてあるんです。獣人には特に効果があると思いまして」
「うん、良い判断だ」
レイナは始めキョトンとしていたが、やがて顔を赤らめて俯いた。
「あ、ありがとうござ――」
「アルセルー! 目ェ覚めたぁ?」
レイナの言葉は、扉を押し開けて入って来たユリアによってかき消されてしまった。
「あら? もしかしてお邪魔だったかしら」
俺たちを交互に見やりながらユリアはクスクスと笑った。
「いえ、そんな……」
レイナはさらに顔を真っ赤にして俺の側から一歩離れた。
「ユリア王女、改めて感謝申し上げる」
俺がそう言って頭を下げると、ユリアは噴出した。
「何よその改まった言い方は? それにユリアで良いわ。王女なんてつけなくていいから」
俺は肩を竦めた。
「君がそう言うのならそうしよう」
「もちろん、レイナもそう呼んでくれていいわよ」
「いえ、そんな」
レイナは居心地悪そうだ。無理もない。王子と姫に囲まれているのだからな。
「それはいいとして、今後の事をエルフ王と話し合いたいのだが」
俺がそう持ち掛けると、ユリアは俺の口に指を当てた。
「まぁそう慌てないで。そのこと夕食の席で話し合えばいいわ。今は少しでもゆっくりとしてなさいよ」
そう言われると従うしかない。
「わかったよ」
◆
夕食の席は豪華なモノであった。
木彫りの調度品は美しい造形であったし、ガラスの食器類も繊細で見惚れるような出来だ。ただ、野菜と果物中心の料理には少し物足りたいモノを感じた。
食事中は両国間に関する雑談で盛り上がった。コチラが亜人の国の事を知らないのと同様、彼らもアルタイア王国が謎だったらしい。特にユリアがはしゃいでアレコレと質問してきた。そんな彼女に苦笑いしていたエルフ王であったが、実のところ彼も興味津々に俺の話を聞いていた。
これは都合がいい。少しでもエルフ王の機嫌が良い方が話を進めやすい。
「ところで、こちらのユリア様からお聞きしたのですが、近々この亜人の国で大きな集会が開かれるそうですね?」
俺は本題を切り出した。
「議題の1つが我らアルタイアであることも聞きました。そこで我々も顔を出したいと考えているのですが……」
一転してエルフ王は難しい顔をした。
彼によると、余所者をこの集会に連れて行くことはタブーらしい。
しかし、既に義眼の魔術師が動いている以上、そんな悠長な考えではおれない。そう申し立てると、エルフ王は考えておくと言った限りで、その話はお開きにされた。
これではさらに敵との差が広がるばかりである。
そう考えていたのだか、事態は俺の想像以上の速さで展開されていた。
◆鬼人の刻◆
スパルタカスは森の中を駆け抜けていた。
その様はまるで獲物を追いかける猟犬そのものであった。彼の背後を追随する獣人たちの身体能力を持ってしても彼の足に付いて行くのに精いっぱいである。
「こっちでよいのだな!?」
スパルタカスが振り向かずに尋ねると、獣人たちは肯定の意味の唸り声を上げた。
彼が目指す地はエルフの森。
狙いはアルセル王子。
総勢30名の獣人を引き連れて、彼は俊足の狩人と化していた。
スパルタカスの脳裏にあったもの、それはただ自分の前に立ちふさがる敵ども全てを屠ることのみであった。
この世界に転生する以前もそうだった。
バティアトゥスの剣闘士養成所から脱走し、今まで自分たちを虐げてきた者、自らの愉悦の為に利用した者どもを切り殺してやった。
ローマ将軍グラベルを筆頭とした追手どもも打ち破ってきた。これからも変わらない。どんなヤツが相手だろうと、このグラディウスで切り捨てるのみ。そう彼は考えていた。
一方、風魔小太郎は大きくため息を吐いていた。
これまで行動を共にしてきたスパルタカスが、何を思ってか独断先行したのである。止めるいとまもなく獣人たちを率いて行ってしまった。
何をするつもりなのかはわかっている。この世界の主シャミハナ・カゲロウの命に逆らって、アルタイアの王子を殺害するつもりなのだ。
(あれ程あの王子には役割があると申したのに。全くあの男、何を考えているのか)
ここで立ち竦んでいても仕方がない。そう考えた小太郎は獣人たちにエルフの森への案内を命じた。
スパルタカスがアルセル王子を始末するのを阻止する。そして計画の障害となるエルフの姫並びに王族を殺す。彼と自分の力を持って奇襲を掛ければ、あの種族を打ち倒すことができるだろう。
「では、我らも向かうぞ」
小太郎は背後の獣人たちに声をかけると、驚くべき速さで駆け出した。獣人たちは慌てて後を追う。
転生鬼人衆2名が、アルセルがいるエルフの森に迫っていた。
目が覚めてみれば、俺はベッドの上に横たわっていた。
窓の外からは夕日が差し込んでいる。随分と時間が経っているようだ。
「具合はいかがですか、アルセル様?」
横合いからレイナの声。
彼女は水差しを抱えていた。
「あぁ、大丈夫だ。その水をくれるか?」
「はい」
レイナは水差しからグラスに注ぎ、俺に渡してくれた。礼を述べて一口飲む。少し甘い水だった。
「エルフの治癒には驚きました」
俺の傷口をしげしげと眺めながら彼女は言った。
「そうだな。完全に動くようになった。驚異的だよ」
腕をぐるぐると振り回してみるが、全く痛みを感じない。
「一体どのような薬を使用しているのでしょう?」
レイナは独り言のように呟いた。
「そういえば、あのスパルタカスから逃げ切る時に変な煙玉を使っていたな。ああいうの作るのが得意なのか?」
「はい、家で教わって来たものですから。あの煙玉にはしびれ草をすり潰したモノを混ぜてあるんです。獣人には特に効果があると思いまして」
「うん、良い判断だ」
レイナは始めキョトンとしていたが、やがて顔を赤らめて俯いた。
「あ、ありがとうござ――」
「アルセルー! 目ェ覚めたぁ?」
レイナの言葉は、扉を押し開けて入って来たユリアによってかき消されてしまった。
「あら? もしかしてお邪魔だったかしら」
俺たちを交互に見やりながらユリアはクスクスと笑った。
「いえ、そんな……」
レイナはさらに顔を真っ赤にして俺の側から一歩離れた。
「ユリア王女、改めて感謝申し上げる」
俺がそう言って頭を下げると、ユリアは噴出した。
「何よその改まった言い方は? それにユリアで良いわ。王女なんてつけなくていいから」
俺は肩を竦めた。
「君がそう言うのならそうしよう」
「もちろん、レイナもそう呼んでくれていいわよ」
「いえ、そんな」
レイナは居心地悪そうだ。無理もない。王子と姫に囲まれているのだからな。
「それはいいとして、今後の事をエルフ王と話し合いたいのだが」
俺がそう持ち掛けると、ユリアは俺の口に指を当てた。
「まぁそう慌てないで。そのこと夕食の席で話し合えばいいわ。今は少しでもゆっくりとしてなさいよ」
そう言われると従うしかない。
「わかったよ」
◆
夕食の席は豪華なモノであった。
木彫りの調度品は美しい造形であったし、ガラスの食器類も繊細で見惚れるような出来だ。ただ、野菜と果物中心の料理には少し物足りたいモノを感じた。
食事中は両国間に関する雑談で盛り上がった。コチラが亜人の国の事を知らないのと同様、彼らもアルタイア王国が謎だったらしい。特にユリアがはしゃいでアレコレと質問してきた。そんな彼女に苦笑いしていたエルフ王であったが、実のところ彼も興味津々に俺の話を聞いていた。
これは都合がいい。少しでもエルフ王の機嫌が良い方が話を進めやすい。
「ところで、こちらのユリア様からお聞きしたのですが、近々この亜人の国で大きな集会が開かれるそうですね?」
俺は本題を切り出した。
「議題の1つが我らアルタイアであることも聞きました。そこで我々も顔を出したいと考えているのですが……」
一転してエルフ王は難しい顔をした。
彼によると、余所者をこの集会に連れて行くことはタブーらしい。
しかし、既に義眼の魔術師が動いている以上、そんな悠長な考えではおれない。そう申し立てると、エルフ王は考えておくと言った限りで、その話はお開きにされた。
これではさらに敵との差が広がるばかりである。
そう考えていたのだか、事態は俺の想像以上の速さで展開されていた。
◆鬼人の刻◆
スパルタカスは森の中を駆け抜けていた。
その様はまるで獲物を追いかける猟犬そのものであった。彼の背後を追随する獣人たちの身体能力を持ってしても彼の足に付いて行くのに精いっぱいである。
「こっちでよいのだな!?」
スパルタカスが振り向かずに尋ねると、獣人たちは肯定の意味の唸り声を上げた。
彼が目指す地はエルフの森。
狙いはアルセル王子。
総勢30名の獣人を引き連れて、彼は俊足の狩人と化していた。
スパルタカスの脳裏にあったもの、それはただ自分の前に立ちふさがる敵ども全てを屠ることのみであった。
この世界に転生する以前もそうだった。
バティアトゥスの剣闘士養成所から脱走し、今まで自分たちを虐げてきた者、自らの愉悦の為に利用した者どもを切り殺してやった。
ローマ将軍グラベルを筆頭とした追手どもも打ち破ってきた。これからも変わらない。どんなヤツが相手だろうと、このグラディウスで切り捨てるのみ。そう彼は考えていた。
一方、風魔小太郎は大きくため息を吐いていた。
これまで行動を共にしてきたスパルタカスが、何を思ってか独断先行したのである。止めるいとまもなく獣人たちを率いて行ってしまった。
何をするつもりなのかはわかっている。この世界の主シャミハナ・カゲロウの命に逆らって、アルタイアの王子を殺害するつもりなのだ。
(あれ程あの王子には役割があると申したのに。全くあの男、何を考えているのか)
ここで立ち竦んでいても仕方がない。そう考えた小太郎は獣人たちにエルフの森への案内を命じた。
スパルタカスがアルセル王子を始末するのを阻止する。そして計画の障害となるエルフの姫並びに王族を殺す。彼と自分の力を持って奇襲を掛ければ、あの種族を打ち倒すことができるだろう。
「では、我らも向かうぞ」
小太郎は背後の獣人たちに声をかけると、驚くべき速さで駆け出した。獣人たちは慌てて後を追う。
転生鬼人衆2名が、アルセルがいるエルフの森に迫っていた。
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