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2章 亜人の国
18話 白蛇
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「本当か?」
そう問いかけると、ユリアはムッとして俺の肩を小突く。
「嘘言ってどうするのよ。大体、あなたがそうするように言ったんじゃない」
「あ、あぁ。まぁそうだな」
国外の不気味な連中が彼女を狙っているから強力な妖霊使いたちに護衛してもらいたい。
そう言うように俺は彼女に頼んでいたが、こうも上手くいくとは思わなかった。
「よくエルフ王は許可してくれたな。まだ俺たちのことを完全に信用しているわけではないはずだが……」
「そこは私の力よね。なんせ見る眼がありますもの。お父様だってそのことは十分に知っているわ」
「なるほど、君には頭が上がらないな」
「謙虚でよろしい」
ユリアは笑顔を浮かべながら言った。
「出発は2日後よ。ねぇ、これから木の頂上に行ってみない? そこからの景色は最高なのよ」
ユリア一行に同行できるようになったのだ。ここは快く彼女の提案に従うことにした。
「あ、レイナはどうするの? 部屋に戻っている?」
「わ、私は――」
「もちろん彼女も来るさ」
「あらそう」
ユリアは肩を竦めて部屋を出て行った。俺たちも彼女の後に従う。
大樹の螺旋階段を登る。途中にある枝は広場や建物になっていたりする。それくらい大きな樹なのだ。前の世界では決してお目に掛かれないだろう。
「ふふ、上はもっと凄いんだから」
ユリアがチラッとこちらを見やりながら言った。その時である。
「きゃ!」
後ろのレイナが小さな悲鳴を上げた。
「どうした?」
そう問い掛けると彼女は足下を指さす。そこには真っ白い鱗の蛇が横たわっていた。不思議そうにコチラに向かって鎌首をもたげている。
「すいません、急にこの蛇が落ちて来たものですから」
蛇か。あんまり好きではない。
「毒はないから大丈夫よ。それともレイナは蛇は苦手?」
「いいえ、薬作りで蛇の抜け殻や毒を使う事もあるので」
「ふーん」
ユリアは平然と白蛇を抱え上げた。俺は思わず後ずさったのだが、彼女は目ざとくその動きに気付いていた。
「あら、もしかして王子の方が苦手だったりする?」
「違うぞ」
「ホントに?」
ユリアはニヤリとしながら蛇を近づけてくる。蛇の小さい目がギョロリと俺の方を向く。
あまりの気持ち悪さにいっその事レイナに助けて貰おうかとさえ思った。が、視界に隅に違和感を覚えたので蛇の事などすっかり頭の中から消え去った。
「なに? どうしたの?」
ユリアは訝し気に尋ねてくる。俺はソレを無視して火口内の壁に目を向けた。その辺りで先程何か光ったのだ。
「ヒスカ」
水の精霊が何もない中空から現れた。
「……随分と楽しそうですわね」
腕組みしながら下のユリアとレイナを睨みつけている。
「皮肉なら後で聞いてやる。第二界だ」
精霊は渋々と言った様子で俺のこめかみに手を当てた。視界がより鮮明になり、遠くまで見えるようになる。
「……」
何か異常はないかと目を凝らす。
そそり立つ崖。天然の防壁は夜闇の中でもその強固な姿を誇示しているようだ。所々に松明らしき灯りが見える。先ほど見た光はコレとは違う。もっと別種のものであった。
松明は崖に等間隔に並んでいて……
「ん?」
一か所だけ灯りが変だぞ?
「何が見えるの?」
ユリアが真剣な面持ちで尋ねる。先ほどまでのからかうような笑顔を完全に消えていた。
「ほら、あの箇所の松明だけがさ、他と比べて妙に暗いと思わないかい?」
「そう?」
彼女は首を傾げた。これも当然の反応だ。今の俺の視力は強化されているのだから、他の者に見えないモノも判別できる。
「まるで何か薄い幕で覆われているようなんだ。向こうの見張りと連絡は取れないのか?」
「無理ね。兵を向かわせる?」
ユリアの提案に俺は首を振った。
「いや、俺が行くよ」
「あなたが?」
俺はコクリと頷いた。
「君は念のために兵の準備をさせておいて欲しい。それとレイナ、君はアルタイアの兵を2,3人連れてきてくれ」
返事を待たずして俺は自分の部屋へと駆け戻った。
剣を取り、先ほどの階段まで戻る。程なくしてレイナが3人のアルタイア兵を連れて来た。
「あっちの岩壁を偵察する」
枝上の広間に上がる。
「ラヴェンナ、第三界」
風の精霊が手を振り仰ぐと俺の体が浮かび上がった。
他の者たちも同じように浮いている。
「君はここにいろ」
そうレイナに言い置いて、俺たちは岩壁に向かった。
岩壁の側まで伸びた枝に降り立つ。距離は約10メートルは離れている。精霊魔法を使わない限り、岩壁からこの枝まで飛び降りることはできないだろう。
枝から岩壁を眺める。
「これは……」
例の松明の周辺に幕のようなモノが張られている。
何の為にこんなモノが……?
手で合図し、兵士たちは左右に開かせる。
「ラヴェンナ、第一界」
風で幕を吹き飛ばそうとした。が、幕はピクともしない。
「これは――」
魔法で幕が動かない。魔法が通じない。つまり……
「下がれっ!」
そう叫んだが遅かった。幕が揺らめき、鋭いモノがコチラに向かって飛んでくる。
「うぐっ!」
左右の兵士たちが呻き声を上げながら落ちて行く。その喉には深々と小剣が突き刺さっていた。
幕の内側には獣人たち、そして転生鬼人衆スパルタカスが立っていた。
そう問いかけると、ユリアはムッとして俺の肩を小突く。
「嘘言ってどうするのよ。大体、あなたがそうするように言ったんじゃない」
「あ、あぁ。まぁそうだな」
国外の不気味な連中が彼女を狙っているから強力な妖霊使いたちに護衛してもらいたい。
そう言うように俺は彼女に頼んでいたが、こうも上手くいくとは思わなかった。
「よくエルフ王は許可してくれたな。まだ俺たちのことを完全に信用しているわけではないはずだが……」
「そこは私の力よね。なんせ見る眼がありますもの。お父様だってそのことは十分に知っているわ」
「なるほど、君には頭が上がらないな」
「謙虚でよろしい」
ユリアは笑顔を浮かべながら言った。
「出発は2日後よ。ねぇ、これから木の頂上に行ってみない? そこからの景色は最高なのよ」
ユリア一行に同行できるようになったのだ。ここは快く彼女の提案に従うことにした。
「あ、レイナはどうするの? 部屋に戻っている?」
「わ、私は――」
「もちろん彼女も来るさ」
「あらそう」
ユリアは肩を竦めて部屋を出て行った。俺たちも彼女の後に従う。
大樹の螺旋階段を登る。途中にある枝は広場や建物になっていたりする。それくらい大きな樹なのだ。前の世界では決してお目に掛かれないだろう。
「ふふ、上はもっと凄いんだから」
ユリアがチラッとこちらを見やりながら言った。その時である。
「きゃ!」
後ろのレイナが小さな悲鳴を上げた。
「どうした?」
そう問い掛けると彼女は足下を指さす。そこには真っ白い鱗の蛇が横たわっていた。不思議そうにコチラに向かって鎌首をもたげている。
「すいません、急にこの蛇が落ちて来たものですから」
蛇か。あんまり好きではない。
「毒はないから大丈夫よ。それともレイナは蛇は苦手?」
「いいえ、薬作りで蛇の抜け殻や毒を使う事もあるので」
「ふーん」
ユリアは平然と白蛇を抱え上げた。俺は思わず後ずさったのだが、彼女は目ざとくその動きに気付いていた。
「あら、もしかして王子の方が苦手だったりする?」
「違うぞ」
「ホントに?」
ユリアはニヤリとしながら蛇を近づけてくる。蛇の小さい目がギョロリと俺の方を向く。
あまりの気持ち悪さにいっその事レイナに助けて貰おうかとさえ思った。が、視界に隅に違和感を覚えたので蛇の事などすっかり頭の中から消え去った。
「なに? どうしたの?」
ユリアは訝し気に尋ねてくる。俺はソレを無視して火口内の壁に目を向けた。その辺りで先程何か光ったのだ。
「ヒスカ」
水の精霊が何もない中空から現れた。
「……随分と楽しそうですわね」
腕組みしながら下のユリアとレイナを睨みつけている。
「皮肉なら後で聞いてやる。第二界だ」
精霊は渋々と言った様子で俺のこめかみに手を当てた。視界がより鮮明になり、遠くまで見えるようになる。
「……」
何か異常はないかと目を凝らす。
そそり立つ崖。天然の防壁は夜闇の中でもその強固な姿を誇示しているようだ。所々に松明らしき灯りが見える。先ほど見た光はコレとは違う。もっと別種のものであった。
松明は崖に等間隔に並んでいて……
「ん?」
一か所だけ灯りが変だぞ?
「何が見えるの?」
ユリアが真剣な面持ちで尋ねる。先ほどまでのからかうような笑顔を完全に消えていた。
「ほら、あの箇所の松明だけがさ、他と比べて妙に暗いと思わないかい?」
「そう?」
彼女は首を傾げた。これも当然の反応だ。今の俺の視力は強化されているのだから、他の者に見えないモノも判別できる。
「まるで何か薄い幕で覆われているようなんだ。向こうの見張りと連絡は取れないのか?」
「無理ね。兵を向かわせる?」
ユリアの提案に俺は首を振った。
「いや、俺が行くよ」
「あなたが?」
俺はコクリと頷いた。
「君は念のために兵の準備をさせておいて欲しい。それとレイナ、君はアルタイアの兵を2,3人連れてきてくれ」
返事を待たずして俺は自分の部屋へと駆け戻った。
剣を取り、先ほどの階段まで戻る。程なくしてレイナが3人のアルタイア兵を連れて来た。
「あっちの岩壁を偵察する」
枝上の広間に上がる。
「ラヴェンナ、第三界」
風の精霊が手を振り仰ぐと俺の体が浮かび上がった。
他の者たちも同じように浮いている。
「君はここにいろ」
そうレイナに言い置いて、俺たちは岩壁に向かった。
岩壁の側まで伸びた枝に降り立つ。距離は約10メートルは離れている。精霊魔法を使わない限り、岩壁からこの枝まで飛び降りることはできないだろう。
枝から岩壁を眺める。
「これは……」
例の松明の周辺に幕のようなモノが張られている。
何の為にこんなモノが……?
手で合図し、兵士たちは左右に開かせる。
「ラヴェンナ、第一界」
風で幕を吹き飛ばそうとした。が、幕はピクともしない。
「これは――」
魔法で幕が動かない。魔法が通じない。つまり……
「下がれっ!」
そう叫んだが遅かった。幕が揺らめき、鋭いモノがコチラに向かって飛んでくる。
「うぐっ!」
左右の兵士たちが呻き声を上げながら落ちて行く。その喉には深々と小剣が突き刺さっていた。
幕の内側には獣人たち、そして転生鬼人衆スパルタカスが立っていた。
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