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お参り
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「東京に旅行行く?」
そろそろ半袖を出そうかとタンスの中を漁っているとき、純平が珍しくデートに誘ってくれた。
「ゴールデンウィークの前の土日にさ。せっかくだしどこか行こうと思って。人多いだろうけど。」
「行く行く!神社行きたい!」
純平が食べることが好きなように、わたしはパワースポット巡りが好きだった。人が多いのが苦手なわたしを気遣う一言をくれる純平は優しい。
「東京大神宮ね。お礼参り行かないと。」
東京大神宮は、わたしのお気に入りの神社だった。縁結びで有名な神社だが、東京大神宮はほかの神社とは別格だ。たくさんのパワースポット巡りをしてきては願い叶わずだったわたしが、ここへお参りに行くとすぐに純平と付き合うことができた。
「毎回いうけど、ご利益あるの?」
純平は、ご利益とか、お祓いとか、幽霊とか、信じないタイプだ。
「あるよ。ここに行って純平と結婚できたんだから。」
「うわー、おまじないちゃんだ。」
まん丸い目をさらに丸くして、にやりと笑いながらいたずらっこのようにいつもそうおちょくる。そんな面白い純平も、わたしは好きだった。
―ああ、彼のすべての記憶がわたしであればな。
彼と付き合うまで、わたしは誰とも付き合ったことがなかった。誰とも恋愛する気になれなかった。だからこそかはわからないが、彼の過ごす毎日を一緒に過ごしていたかった。彼は、どんな表情をしてきたんだろう。どんな言葉をかけてきたんだろう。初めての彼女とは、どういう風に手をつないだんだろう…。そんなことを考えては、泣きたくなるような気持ちになる。そういうときは、そろそろ泣くぞ、という心臓のふくらみをいつも感じていた。
岡山から東京まで新幹線で向かう。その日は純平の実家に泊まらせてもらい、翌日東京駅からJR中央線に乗り、御茶ノ水駅で乗り換える。総武線に乗り、飯田橋駅で降りた。その間わずか10分。
「やっぱり人、多いね。」
純平の耳元でささやく。
「東京だし、日曜日だからね。多いだろうね。大丈夫?」
少し前を歩く純平は、わたしの荷物を持ちながら、車道側をさりげなく歩く。紳士的なところも好きだ。
徒歩5分ほどの道のりを、黙々と進む。細い道を歩いていくと、こんなところに、という場所に東京大神宮はあった。
「手、洗うよ。」
わたしも神社の作法に詳しいわけではないが、それ以上に興味がない純平を手水舎へ促す。
「ハンカチ、ある?」
わたしが問うと、
「あるよ。」
と当然のように純平が言った。ハンカチで手を拭きながら拝殿へ向かう。ゴールデンウィークの東京大神宮は、人であふれかえっていた。拝殿には小さく列ができている。
「琴音は何を願うの?」
少し大きめの声で問う純平に、内緒と呟いて、賽銭箱に入れる五円玉を用意した。もちろん、良いご縁がありますようにと願うために。
純平と話しているうちに、いつの間にか参拝の順番になっていたようだ。着々と賽銭箱の前へ進む。
パンッパンッ
辺りに心地いい音が響く。
―これからも、純平とわたしの周りの人が幸せでいられますように…。
強く頭の中で願い、自然と合わせた手に力がこもる。
そのとき。
突然、頭の中に白い光が広がった。これが直感というやつだろうか。
―そうだ、もうひとつ祈っておこう。
ついでに何を祈ろうかと思い、一瞬の判断で決めたのが、純平の子どものころにいけますように。わたしと純平は年齢も違うし、幼少期に過ごした県も違う。本来なら出会うこともないはずだ。
―もし、純平と一緒に幼少期を過ごせていたら、一体どんな感じだったんだろう。
その一心で御祭神である、天(あま)照(てらす)皇(すめ)大神(おおかみ)に祈ってみた。奇跡なんて、起きるはずがないだろうと思いながら。
目を開けると、純平はすでに祈り終わっていたようで、まっすぐ前を見てわたしを静かに待っていた。本殿に一礼して次の人に場所を譲る。
「お待たせ。」
わたしが神社が好きだと知っている純平は、じっくりと祈る時間がかかっても文句を言わない。そんな彼に感謝を込めて待たせたね、と軽く謝る。
うん、と小さく返事をして、二人の足は自然と授与所へ向かう。
「お守りはいいの?」
盛り塩としてもしようできるご神前で祓い清めた神塩、災厄を祓い、富や健康をもたらす霊力が宿ると伝えられているメノウ守、学業成就守、縁結び守など少し目に見えただけでたくさんある。
「うーん、…うわ!これかわいい!」
ひとつひとつ丁寧に目をやると、ある一角に釘付けになった。
淡いピンクと桜色の色紙が交互に折られ、その表面に透かし和紙がななめにかかっている願い文、ひし形の和紙の上に東京大神宮の神社印が押されている。その落ち着いた色合いと、透かし和紙の具合がわたしの中に残っていた僅かな乙女心をくすぐった。
「願い文だって。やる?」
いや、いいよと純平が断ったので、わたしは一目ぼれしたピンクの願い文を手に取り、五百円を納める。
さあ、何を書こうと思いながら願い文を机に置こうと思ったとき、手がすべりひらひらと文が地面に落ちてしまった。
「あー、落ちちゃった。」
拾おうとしたとき、ちょうど強い風が吹き願い文が飛ばされそうになったところを、純平が咄嗟の判断で踏んづけて止める。
「危なかったー。」
純平が言い、複雑な気持ちを抱きながらかがんで文を手に取った途端。
わたしは意識を失った。
そろそろ半袖を出そうかとタンスの中を漁っているとき、純平が珍しくデートに誘ってくれた。
「ゴールデンウィークの前の土日にさ。せっかくだしどこか行こうと思って。人多いだろうけど。」
「行く行く!神社行きたい!」
純平が食べることが好きなように、わたしはパワースポット巡りが好きだった。人が多いのが苦手なわたしを気遣う一言をくれる純平は優しい。
「東京大神宮ね。お礼参り行かないと。」
東京大神宮は、わたしのお気に入りの神社だった。縁結びで有名な神社だが、東京大神宮はほかの神社とは別格だ。たくさんのパワースポット巡りをしてきては願い叶わずだったわたしが、ここへお参りに行くとすぐに純平と付き合うことができた。
「毎回いうけど、ご利益あるの?」
純平は、ご利益とか、お祓いとか、幽霊とか、信じないタイプだ。
「あるよ。ここに行って純平と結婚できたんだから。」
「うわー、おまじないちゃんだ。」
まん丸い目をさらに丸くして、にやりと笑いながらいたずらっこのようにいつもそうおちょくる。そんな面白い純平も、わたしは好きだった。
―ああ、彼のすべての記憶がわたしであればな。
彼と付き合うまで、わたしは誰とも付き合ったことがなかった。誰とも恋愛する気になれなかった。だからこそかはわからないが、彼の過ごす毎日を一緒に過ごしていたかった。彼は、どんな表情をしてきたんだろう。どんな言葉をかけてきたんだろう。初めての彼女とは、どういう風に手をつないだんだろう…。そんなことを考えては、泣きたくなるような気持ちになる。そういうときは、そろそろ泣くぞ、という心臓のふくらみをいつも感じていた。
岡山から東京まで新幹線で向かう。その日は純平の実家に泊まらせてもらい、翌日東京駅からJR中央線に乗り、御茶ノ水駅で乗り換える。総武線に乗り、飯田橋駅で降りた。その間わずか10分。
「やっぱり人、多いね。」
純平の耳元でささやく。
「東京だし、日曜日だからね。多いだろうね。大丈夫?」
少し前を歩く純平は、わたしの荷物を持ちながら、車道側をさりげなく歩く。紳士的なところも好きだ。
徒歩5分ほどの道のりを、黙々と進む。細い道を歩いていくと、こんなところに、という場所に東京大神宮はあった。
「手、洗うよ。」
わたしも神社の作法に詳しいわけではないが、それ以上に興味がない純平を手水舎へ促す。
「ハンカチ、ある?」
わたしが問うと、
「あるよ。」
と当然のように純平が言った。ハンカチで手を拭きながら拝殿へ向かう。ゴールデンウィークの東京大神宮は、人であふれかえっていた。拝殿には小さく列ができている。
「琴音は何を願うの?」
少し大きめの声で問う純平に、内緒と呟いて、賽銭箱に入れる五円玉を用意した。もちろん、良いご縁がありますようにと願うために。
純平と話しているうちに、いつの間にか参拝の順番になっていたようだ。着々と賽銭箱の前へ進む。
パンッパンッ
辺りに心地いい音が響く。
―これからも、純平とわたしの周りの人が幸せでいられますように…。
強く頭の中で願い、自然と合わせた手に力がこもる。
そのとき。
突然、頭の中に白い光が広がった。これが直感というやつだろうか。
―そうだ、もうひとつ祈っておこう。
ついでに何を祈ろうかと思い、一瞬の判断で決めたのが、純平の子どものころにいけますように。わたしと純平は年齢も違うし、幼少期に過ごした県も違う。本来なら出会うこともないはずだ。
―もし、純平と一緒に幼少期を過ごせていたら、一体どんな感じだったんだろう。
その一心で御祭神である、天(あま)照(てらす)皇(すめ)大神(おおかみ)に祈ってみた。奇跡なんて、起きるはずがないだろうと思いながら。
目を開けると、純平はすでに祈り終わっていたようで、まっすぐ前を見てわたしを静かに待っていた。本殿に一礼して次の人に場所を譲る。
「お待たせ。」
わたしが神社が好きだと知っている純平は、じっくりと祈る時間がかかっても文句を言わない。そんな彼に感謝を込めて待たせたね、と軽く謝る。
うん、と小さく返事をして、二人の足は自然と授与所へ向かう。
「お守りはいいの?」
盛り塩としてもしようできるご神前で祓い清めた神塩、災厄を祓い、富や健康をもたらす霊力が宿ると伝えられているメノウ守、学業成就守、縁結び守など少し目に見えただけでたくさんある。
「うーん、…うわ!これかわいい!」
ひとつひとつ丁寧に目をやると、ある一角に釘付けになった。
淡いピンクと桜色の色紙が交互に折られ、その表面に透かし和紙がななめにかかっている願い文、ひし形の和紙の上に東京大神宮の神社印が押されている。その落ち着いた色合いと、透かし和紙の具合がわたしの中に残っていた僅かな乙女心をくすぐった。
「願い文だって。やる?」
いや、いいよと純平が断ったので、わたしは一目ぼれしたピンクの願い文を手に取り、五百円を納める。
さあ、何を書こうと思いながら願い文を机に置こうと思ったとき、手がすべりひらひらと文が地面に落ちてしまった。
「あー、落ちちゃった。」
拾おうとしたとき、ちょうど強い風が吹き願い文が飛ばされそうになったところを、純平が咄嗟の判断で踏んづけて止める。
「危なかったー。」
純平が言い、複雑な気持ちを抱きながらかがんで文を手に取った途端。
わたしは意識を失った。
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