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気づき
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日が出始めたようで、外は明るくなってきた。開けられたカーテンに、リビングの電気が煌々と光っている。台所からはトントントンと、リズミカルな音が聞こえてくる。恐る恐るリビングに入ると、味噌の香りがほんわかと漂ってきた。朝ごはんは定番の味噌汁のようだ。
「あら、おはよう。」
母がこちらに気づき、手を止める。
「おはよう…。」
いぶかしげにあいさつするが、その態度は普段と何も変わらない。母が少し若く見えるくらい…か。何か変化はないかとその場に立って観察する。家のレイアウトが最後の記憶のそれとは変わっているし、雑紙入れの中の新聞の日付は、2021年、22年前のものだった。わたしがガサゴソと調査している間に母は朝ごはんの準備を再開した。…わかった。母と対面し、朝起き上がったときの違和感の正体がわかったのだ。
「わたし、身体小さくなってない?」
身長が同じくらいだった母が、今では見上げなければいけない。思わず出した声に、母はこう答えた。
「そう?昨日と変わらないように見えるけど…。逆に少し伸びたんじゃない?」
ありえない。明らかにわたしは子供に戻っている。そのことに母は気づいていない。
「お母さん、わたし子供に戻ってる。」
そう訴えるが、何を言っているの、と不思議そうな顔をされる。しまいには、
「あ、絵本の世界に入ったのかな。」
とバカにされる始末だ。違うのに、とむくれながら、訴え続ける。
「いや、本当にわたし子供のころに戻ってるんだって!」
「そんなことあるはずないでしょう。もうすぐご飯ができるから、用意してー。」
取り合ってもらえないことに不満を覚え、地団太を踏みそうになる。胸に溜ったもやもやしたものをすっきりさせたくて、いったん台所を離れてソファにどかんと座る。
―東京大神宮に行って…純平と幸せになれますように、って祈って…。
順を追って記憶の断片をたどる。そのとき、頭の中に一本の棒が刺さったような衝撃に襲われた。
―あ!わたし、純平の子供のころに会いたいって、祈ってた気がする。
まさかとは思ったが、それが原因になっていることしか、この状況は考えられない。神様が罰を与えたのではないだろう。ご褒美をくれたのだ。これも、神々の生まれる場所を統べる主宰神、天照皇大神のなせる業だろうか。願い事をしたことと、願い文がこのタイムスリップの原因なのではないだろうか。それがわかると、いきなり心臓が鼓動を早めた。
―わたし、本当にタイムスリップしてきたの…?
それが本当ならば、初恋の人の小さいころに会えるかもしれない。心臓が痛いくらい幸せの鼓動を鳴らす。それと同時に不安もあった。
―もとに戻れる保証はどこにもないし、最悪の場合、純平とこの過去でも未来でも会えないかもしれない。
もやもやは晴れない中、すでに目はばっちりさえていた。
ドンカッドンカッ
しばらくして大きな足音が階段から聞こえてきた。父だ。夏用のスリッパが下りるときにカッという音を鳴らすのだ。その特徴的な足音に、もうこんな時間かとソファから壁にかかった時計を見上げる。時刻は6時30分だ。母に呼ばれ重い腰を上げ仕方なく朝ごはんも食べ終えた。先ほどのソファに座り、さてこれからどうするか考えていたところだ。
ずっと家にいても何も変わらない。それに、母や父に学校へ行けと言われるのは明白だった。とりあえず様子を見に学校へ行ってみるか。ランドセルの中の持ち物を見るに、どうやらわたしは小学校四年生のようだった。なぜ四年生なのかはわからないが、そのころに何か強い思い出があったのだろうか。
ふう、と大きくため息をつき、登校時間まで少し横になることにした。遠くで父と母の会話が聞こえる。
―もう、うるさいな。
声が出ていたかはわからない。しばらくして二人が何を話しているのかわからなくなった。
「あら、おはよう。」
母がこちらに気づき、手を止める。
「おはよう…。」
いぶかしげにあいさつするが、その態度は普段と何も変わらない。母が少し若く見えるくらい…か。何か変化はないかとその場に立って観察する。家のレイアウトが最後の記憶のそれとは変わっているし、雑紙入れの中の新聞の日付は、2021年、22年前のものだった。わたしがガサゴソと調査している間に母は朝ごはんの準備を再開した。…わかった。母と対面し、朝起き上がったときの違和感の正体がわかったのだ。
「わたし、身体小さくなってない?」
身長が同じくらいだった母が、今では見上げなければいけない。思わず出した声に、母はこう答えた。
「そう?昨日と変わらないように見えるけど…。逆に少し伸びたんじゃない?」
ありえない。明らかにわたしは子供に戻っている。そのことに母は気づいていない。
「お母さん、わたし子供に戻ってる。」
そう訴えるが、何を言っているの、と不思議そうな顔をされる。しまいには、
「あ、絵本の世界に入ったのかな。」
とバカにされる始末だ。違うのに、とむくれながら、訴え続ける。
「いや、本当にわたし子供のころに戻ってるんだって!」
「そんなことあるはずないでしょう。もうすぐご飯ができるから、用意してー。」
取り合ってもらえないことに不満を覚え、地団太を踏みそうになる。胸に溜ったもやもやしたものをすっきりさせたくて、いったん台所を離れてソファにどかんと座る。
―東京大神宮に行って…純平と幸せになれますように、って祈って…。
順を追って記憶の断片をたどる。そのとき、頭の中に一本の棒が刺さったような衝撃に襲われた。
―あ!わたし、純平の子供のころに会いたいって、祈ってた気がする。
まさかとは思ったが、それが原因になっていることしか、この状況は考えられない。神様が罰を与えたのではないだろう。ご褒美をくれたのだ。これも、神々の生まれる場所を統べる主宰神、天照皇大神のなせる業だろうか。願い事をしたことと、願い文がこのタイムスリップの原因なのではないだろうか。それがわかると、いきなり心臓が鼓動を早めた。
―わたし、本当にタイムスリップしてきたの…?
それが本当ならば、初恋の人の小さいころに会えるかもしれない。心臓が痛いくらい幸せの鼓動を鳴らす。それと同時に不安もあった。
―もとに戻れる保証はどこにもないし、最悪の場合、純平とこの過去でも未来でも会えないかもしれない。
もやもやは晴れない中、すでに目はばっちりさえていた。
ドンカッドンカッ
しばらくして大きな足音が階段から聞こえてきた。父だ。夏用のスリッパが下りるときにカッという音を鳴らすのだ。その特徴的な足音に、もうこんな時間かとソファから壁にかかった時計を見上げる。時刻は6時30分だ。母に呼ばれ重い腰を上げ仕方なく朝ごはんも食べ終えた。先ほどのソファに座り、さてこれからどうするか考えていたところだ。
ずっと家にいても何も変わらない。それに、母や父に学校へ行けと言われるのは明白だった。とりあえず様子を見に学校へ行ってみるか。ランドセルの中の持ち物を見るに、どうやらわたしは小学校四年生のようだった。なぜ四年生なのかはわからないが、そのころに何か強い思い出があったのだろうか。
ふう、と大きくため息をつき、登校時間まで少し横になることにした。遠くで父と母の会話が聞こえる。
―もう、うるさいな。
声が出ていたかはわからない。しばらくして二人が何を話しているのかわからなくなった。
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