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第三十話 面倒事

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 解毒薬を飲ませた後、病状は安定した。熱も下がりあとは自然回復に任せるしかない。俺も念のため解毒薬を飲んでおく。毒自体はそのこまで強力なものではない。俺は会場に戻ろうとした時、ドアの奥が妙に静かだと感じた。ドアに耳を当てると中から声が聞こえる。

「まさかこんなに簡単にいくと思いませんでしたよ。ガルシム伯爵」

「貴様一体何を?」

 どうやらこれを仕組んだのはガルシム伯爵ではなく別の人間のようだ。だが中にいるほとんどの人間が動けないように毒を盛ると考えると犯人は内部犯か。
 あのおっさん嫌われてそうだし、殺されても案外文句言えないのかもしれん。
 だがガルシムはいいとしてもこのままは流石に不味い。何故なら勇者様には毒などの状態異常は効かないからだ。放っておくと武器もないのに一人で突っ走る恐れがある。いくらあいつが強くても敵の数や強さが分からない状況で戦うのは無謀すぎる。
 まずは動けない東方さんをこのまま放置するわけにはいかないので、簡単なトラップを仕掛けておく。アイテムボックスから糸を出し、ドアに括り付ける。その先にはクワルリリーの花粉が入ったビンをぶら下げておく。これで誰 かが中に入った瞬間ビンが落ち花粉が広がる。
 俺は武器をアイテムボックスから取り出し、どうにか会場の中に入れないか考える。
 少し面倒だが、ベランダから入るしかないな。そのために目指すは中庭。
 音をたてないように移動する。どうやら首謀者は内部犯だが、協力者がいるようだ。屋敷の中には黒ずくめの集団がうじゃうじゃいた。流石に一人一人倒していくには時間がかかりすぎる。
 というわけで今回の催涙スライムゼリー改に合わせて作った武器を使うことにした。
 まずはこちらの短剣。名を蜈毒牙(セリスダガー)で使ったのはオオムカデの牙だ。毒をもつ魔物の素材を加工するときにはどうしても効力が弱まり、対魔物戦ではあまり使い物にならないと思い、奥の方に突っ込んでいたものだ。
 これが対人なら特有の神経毒で敵を安全に無力化できる。さらにヒカリゴケを大量に用いて作った閃光玉だ。日本のものと比べれば威力はそこまではないが、至近距離なら多少の威力は見られるだろう。そのためこの程度の威力でも十分に効果がある。
 俺は蜈毒牙(セリスダガー)を持ち、屋敷の中を進んだ。すると見回り中の敵を発見。背後から忍び寄り、背中に一刺し。  その瞬間痙攣しながら力が抜けていく。その姿をじっくりと観察する。しばらくすると完全に身動きがとれなくなっていた。
 うむ。威力は十分。敵を殺すこともない。だがやはり人間相手だとこれでいいが魔物が相手だとまだ毒が弱いな。
 俺は先に進む。その間にさらに六、七人ほど毒で無力化して回った。どうやら中にはこの程度らしくすんなり外に出ることが出来た。
 外にはさっき以上の敵がおり、気づけれないように一人一人数を減らしていく。

 俺が屋敷の中や外で大暴れしている頃から少し遡る。

「流石勇者様です。素晴らしいダンスでした」

 僕はダンス後多くの貴族たちに囲まれてダンスの賞賛や娘と踊ってほしいなどの要望の相手をしている。
 誰かに助けてもらおうにもこの状況を助けてくれる人などいない。そんなことをしているとパリンとグラスが割れる音が鳴り響く。音のした方向を見ると吉田先生が倒れていた。
 滝下君が声をかけるが反応がない。

「滝下どいて」

 そこに駆け付けたのは関城さんだった。回復魔法をかけるが一向に良くなる気配がない。

「違う。それは毒だ」

 王女の声に反応した関城さんが回復魔法から解毒魔法へと切り替える。先生の顔色が良くなる。だがそこから一斉に倒れて始める。どうやらこの会場にいる全員が毒を盛られていた。
ただ一人を除いてそれは飲み物を配っていたウェイターだった。

「まさかこんなに簡単にいくと思いませんでしたよ。ガルシム伯爵」

「貴様一体何を?」

「皆さんに毒を盛らせてもらいました。ですがご安心ください。目的はこちらのガルシム伯爵だけです。他の皆さんに危害は加えません」

 毒を盛っている時点で危害も何もない。恐らく毒としてはそこまで強力なものじゃない。だが問題は摂取した量だ。致死量が分からない。やつを捕まえようにも武器がない。
 すると窓からずらずらと黒ずくめの集団が入ってきた。

「流石は裏ギルドの皆さん仕事が早い」

 裏ギルドは大陸全土に存在する組織名で殺しから拉致まで様々な犯罪を依頼主に変わ、り実行することを仕事としている集団のことだ。
 僕はさらに状況が悪化したことに冷や汗が止まらない。だが状況は予想もしない方向に転ぶ。
 黒ずくめがウェイターの腹を刺したのだ。

「な、なにを・・・・」

「すまんな。お前のより払いのいい依頼が来てな。そっちを優先することにしたんだよ」
 刺されたウェイターは腹から血を流し、そのまま倒れ込んでしまった。誰もが恐怖するが体が痺れて声も出ない。

「この中に勇者がいるだろう。毒が効かないのは分かってんだ。大人しく出てこい。さもないと一人ずつ殺していく」

 僕は考えるこれの状況を打開するいい方法はないかと。だが武器もない、自分の周りにはクラスメイト含め大勢の人質。僕には選択肢はなかった。
 僕はゆっくりと立ち上がり

「僕が勇者だ」

 男はにやりと笑い近づいてくる。僕は今までに感じたことのない恐怖を感じて足が震える。目の前に男が近づくと剣の柄で腹を殴られた。
 今日食べたのもが出てきそうなほど咳を吐いた。

「へ~今ので吐かないのか。案外頑丈だな!」

 何度も何度も腹を蹴られる。こっちに来て安全な立ち回りをしていたせいで忘れかけていた痛みを感じた。
 心が折れそうになったその時服の中から小さなボールが転げ落ちる。
 これは・・・・。
 僕はそのボールを握りしめ男に向かって投げつける。ボールは男の前で炸裂し中から独特の刺激臭がするスライムが飛び出す。

「うがーー! 目が! 目が!」

 僕は力を込めて男の体にパンチを与える。中々いいところに入ったはずだが男はびくともせず、気が付けばスライムを取っていた。
 男が拳を握りしめ殴られると思った瞬間、窓ガラスが割れ、黄色いボールが僕と男の間を通過し、激しく輝いた。男はまた目を抑え悶える。そのまま入ってきた何かに顔を思いっきり蹴られ、流石に吹き飛ぶ。

「来るのが遅いよ」

「いやいやヒーローは遅れて来るのが常識だろ」

 その敵をあらかた片付けた俺はベランダに入り中の様子を確認する。そこにはさっき飲み物を配っていたウェイターが血を流した状態で倒れており、黒ずくめの集団が十五人ほどいた。そのうちの恐らくボス的なやつと雅人が戦っていた。
 俺は気づかれないように上へ登り、窓ガラスを蹴破った。そこから雅人目掛けて閃光玉を投げ入れる。見事に雅人の前で炸裂した閃光玉は黒ずくめおっさんだけが悶えている。
 やっぱ閃光も効かないか。
 なんてこんな状況にも関わらず雅人の耐性が閃光まで打ち消すのかの実験をした。
 フラフラしているおっさんを上空からライダーキックを食らわせる。

「来るのが遅いよ」

「いやいやヒーローは遅れて来るのが常識だろ」

 さっきライダーキックをお見舞いした所為か自分が本当にヒーローみたいだと思ってしまった。
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