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フェアリーライト、という乙女ゲームを知っているだろうか?
昨年に発売され攻略キャラの男性陣は有名イラストレーターによって美しく描かれ、声優も大物ばかり。またストーリーも好評価でヒロインも共感できる可愛い女の子。
ヒロインは魔王を倒す聖女として異世界の国に召喚され仲間と共に旅に出る。
旅の仲間は攻略キャラクターで勇敢で優しい勇者、博識無愛想な賢者、頼もしい兄貴肌な騎士。また国の城には可愛い年下薬師、ヒロインを召喚したツンデレ魔法使い。
恋愛イベントも充実し嫉妬イベントではキュンキュンすること間違いなし。乙女ゲーム最高峰といっても過言ではないフェアリーライトは売り出された途端人気を博し漫画やドラマCD、来年にはアニメ化まで決まっていた。
前世の私も勿論そのゲームのファン。残業続きの精神的肉体的に疲れきっていた私の唯一の光だった。
新作ドラマCDが発売された当日も21時過ぎまで残業し、閉店ギリギリのアニメ専門店に滑り込み入店し買ったCDを抱き締めほくほくと帰宅する途中。私は通り魔らしき男に何度も体を刺されそのまま逝ってしまった。
そして目が覚めたら、大好きなフェアリーライトの世界にいたのだった。
最近よく見掛ける転生ものに私が体験するとは思わなかった。
ゲームヒロインの聖女。その役割が私なのだと信じて疑わなかった…
「…そんなときもあったなぁ…」
ぼんやりと焚き火の炎を見つめながら呟く。私の独り言は誰にも拾われることはない。いや、聞こえたかもしれないが、私の言葉に反応してくれる者はこの場にいないだけのこと。
燃える焚き火の向こう側。博識無愛想な賢者、頼もしい兄貴肌な騎士…そして聖女てあるヒロイン。楽しげな笑い声が絶えない場所で私だけが輪に入れず無表情で頬杖をつく。
勇敢で優しいメインヒーローの勇者。
それが何かの間違いか攻略キャラクターの男勇者は女勇者になっておりそれが今世での私の役割になっていた。
逆ハー気味の乙女ゲームにてヒロインに惹かれない者はいないらしい。女である私に関心のない人達との冒険は結果、基本的独りぼっちで精神的にも辛いものがあった。
私が女でなければきっと輪に入れただろうが、ヒロインの聖女様は自分以外の女はお呼びではないらしい。
「…ねぇ火の番も満足に出来ないのアンタ」
気が付けばヒロインの輪から離れた賢者が炎の前に来ていた。
炎は時間が経ったのか勢いが弱まり消えそうなほど小さくなっていた。慌てて近くの薪を取ろうと手を伸ばすがその前に「邪魔」と冷めた声と共に頬を杖で容赦なく殴られる。咄嗟に感じた痛覚と共に吹き飛ばされた体が情けなく地面に叩き落とされる。
「いっ…た」
滲んだ鉄の味に口のなかが切れたことを即座に認識する。思わず相手に睨みをきかせるが賢者は既に興味を失くしたのか此方をみることはない。
ただ消えそうな火に魔法を唱え炎を幾分か大きくして輪の中に戻っていった。ヒロインが肩を震わせるのが見え、きっとヒロインが寒がったので炎の勢いを強めたのだと簡単に想像する。
ヒロインを見た賢者は冷めた表情など浮かべておらず優しい瞳で彼女を見下ろしていた。
それは数年前、私に向いているものと同じだった。
幼馴染みとして近くで育った賢者と勇者の私はそれなりに仲が良く、どうせなら少しだけ想っていた。それなのに聖女のヒロインの力を前にして賢者はあっさりと幼馴染みとしての私を捨て去った。それは本当にあっさり、と。
思わず聖女を睨み付ければ、その視線に気付いたのか彼女が口許を上げ不敵に笑った。
それは聖女というより悪女のような悪どい笑みであったが、彼女に盲目な彼等はきっと気付くことはないだろう。
騎士に声を掛けられればその笑みは可愛らしいものに変化し、ふふふとお淑やかな笑い声を上げれば周りに男達が集まっていく。
私は盛大に溜息して、心中で彼女に中指を立ててやった。
昨年に発売され攻略キャラの男性陣は有名イラストレーターによって美しく描かれ、声優も大物ばかり。またストーリーも好評価でヒロインも共感できる可愛い女の子。
ヒロインは魔王を倒す聖女として異世界の国に召喚され仲間と共に旅に出る。
旅の仲間は攻略キャラクターで勇敢で優しい勇者、博識無愛想な賢者、頼もしい兄貴肌な騎士。また国の城には可愛い年下薬師、ヒロインを召喚したツンデレ魔法使い。
恋愛イベントも充実し嫉妬イベントではキュンキュンすること間違いなし。乙女ゲーム最高峰といっても過言ではないフェアリーライトは売り出された途端人気を博し漫画やドラマCD、来年にはアニメ化まで決まっていた。
前世の私も勿論そのゲームのファン。残業続きの精神的肉体的に疲れきっていた私の唯一の光だった。
新作ドラマCDが発売された当日も21時過ぎまで残業し、閉店ギリギリのアニメ専門店に滑り込み入店し買ったCDを抱き締めほくほくと帰宅する途中。私は通り魔らしき男に何度も体を刺されそのまま逝ってしまった。
そして目が覚めたら、大好きなフェアリーライトの世界にいたのだった。
最近よく見掛ける転生ものに私が体験するとは思わなかった。
ゲームヒロインの聖女。その役割が私なのだと信じて疑わなかった…
「…そんなときもあったなぁ…」
ぼんやりと焚き火の炎を見つめながら呟く。私の独り言は誰にも拾われることはない。いや、聞こえたかもしれないが、私の言葉に反応してくれる者はこの場にいないだけのこと。
燃える焚き火の向こう側。博識無愛想な賢者、頼もしい兄貴肌な騎士…そして聖女てあるヒロイン。楽しげな笑い声が絶えない場所で私だけが輪に入れず無表情で頬杖をつく。
勇敢で優しいメインヒーローの勇者。
それが何かの間違いか攻略キャラクターの男勇者は女勇者になっておりそれが今世での私の役割になっていた。
逆ハー気味の乙女ゲームにてヒロインに惹かれない者はいないらしい。女である私に関心のない人達との冒険は結果、基本的独りぼっちで精神的にも辛いものがあった。
私が女でなければきっと輪に入れただろうが、ヒロインの聖女様は自分以外の女はお呼びではないらしい。
「…ねぇ火の番も満足に出来ないのアンタ」
気が付けばヒロインの輪から離れた賢者が炎の前に来ていた。
炎は時間が経ったのか勢いが弱まり消えそうなほど小さくなっていた。慌てて近くの薪を取ろうと手を伸ばすがその前に「邪魔」と冷めた声と共に頬を杖で容赦なく殴られる。咄嗟に感じた痛覚と共に吹き飛ばされた体が情けなく地面に叩き落とされる。
「いっ…た」
滲んだ鉄の味に口のなかが切れたことを即座に認識する。思わず相手に睨みをきかせるが賢者は既に興味を失くしたのか此方をみることはない。
ただ消えそうな火に魔法を唱え炎を幾分か大きくして輪の中に戻っていった。ヒロインが肩を震わせるのが見え、きっとヒロインが寒がったので炎の勢いを強めたのだと簡単に想像する。
ヒロインを見た賢者は冷めた表情など浮かべておらず優しい瞳で彼女を見下ろしていた。
それは数年前、私に向いているものと同じだった。
幼馴染みとして近くで育った賢者と勇者の私はそれなりに仲が良く、どうせなら少しだけ想っていた。それなのに聖女のヒロインの力を前にして賢者はあっさりと幼馴染みとしての私を捨て去った。それは本当にあっさり、と。
思わず聖女を睨み付ければ、その視線に気付いたのか彼女が口許を上げ不敵に笑った。
それは聖女というより悪女のような悪どい笑みであったが、彼女に盲目な彼等はきっと気付くことはないだろう。
騎士に声を掛けられればその笑みは可愛らしいものに変化し、ふふふとお淑やかな笑い声を上げれば周りに男達が集まっていく。
私は盛大に溜息して、心中で彼女に中指を立ててやった。
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