華園高校女子硬式野球部

群武

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2球目

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私は7回裏のマウンドに立つ
さっきまで同じところに立っていたはずなのにキャッチャーが守になっただけで見える景色が変わる
「やっぱり守がキャッチャーじゃないとね♪」
私は誰にも聞こえないくらいの声で言う
それから投球練習を終えると守がマウンドに来る
「皇とは勝負するか?」
「当たり前じゃない」
「でも今の力じゃ勝てないぞ?」
「それを勝たしてくれるのが守でしょ?」
私はニヤッと笑う
「分かってるじゃねーか」
守も同じように笑う
それから少しだけ話すと守はホームの方に走って行く
相手の先頭は6番で30代くらいの男性が右打席に入ってくる
「ふ~」
私は少し息を吐くと守のサインを見る
人差し指は1本だけ伸ばされていた
「(初球はアウトコースのストレート)」
私は頷くと直ぐに要求通りの場所に投げる
ゴチッという鈍い音をさせたボールは私の前に転がってくる
そのボールを丁寧に捕り一塁へ投げる
これで1アウト
次のバッターは大学生くらいの若い男性が左打席に入る
体も大きいので1発には警戒しないといけない
「(さっさとアウトを取るぞ)」
そんな事を言いたげな表情で守がこちらを見る
サインはインコースのストレート
甘く入るとヤバいので丁寧に投げる
守はバシッといい音を鳴らしながら捕球する
やっぱりいい音を鳴らして捕球してくれると気持ちがいい
私が感傷に浸る前に守はすぐにサインを出す
「(次はインコースにカーブ)」
私は頷くとすぐにモーションに入る
ストレートと同じ要領で腕を振る
私の放ったカーブは少し甘めのコースに入ってしまう
バッターはフルスイングをするが打球は大きくファールゾーンに飛んでいく
一瞬オォッと言う声が聞こえたがすぐにあーと落胆する声に変わる
プレイがかかると守はすぐにサインを出す
「(最後は外のスライダーで三振だ)」
インコース2球で追い込みラストはアウトコース
セオリーだが効果は抜群
私の投げた3球目はバットに当たることなくミットに吸い込まれた
「ツーアウトー!」
守がグランド全体に響き渡る声で叫ぶ
すると守備に着いているメンバーからも同じ言葉が返ってくる
次の打者が打者なだけに気合いを入れ直したのだろう
そう次の打者はホームランにファインプレーとノリに乗ってる皇さんだ
本当に勝てるのだろうか?
今日の私はホームランを打たれたしヒット性の当たりは捕られた
これが個人戦なら私は完敗だろう
しかし、野球はチーム戦
いくら個人で負けようともチームが勝てばそれでいい!
それに私には守がいる!
私は信頼している相棒からのサインを待つ
指は2本立てられている
「(初球は真ん中にストレート)」
は?
「ちょ、ちょっと待って!?」
「「「?」」」
周りの皆は何が起きたのか首を傾げる
「流石に真ん中ストレートはダメでしょ!?」
「「「はぁー!?」」」
周りからも不安な声が聞こえてくる
「信じて投げろ」
たった一言で守は構える
嘘でしょ!?相手は皇さんだよ!?
しかもその皇さんのフォームが変わってるし!
さっきまで普通だったじゃん!なんで今は神主打法なの!?
それでも守は大丈夫だと言いたげな表情でこちらを見る
はぁ~と私は深呼吸なのかため息なのかよく分からない息を吐く
でもサインを出されたのなら投げるしかない
そう思い気合いを入れてなら振りかぶる
私はさっきまでと同じように腕を振るが指がかからない
それでもミットに向かってボールは進んでいく
 
カン

そこまで良くない金属音をさせながらボールはホームベースの後ろでバウンドする
「(あれ?)」
私は意外な光景に驚く
あの皇さんが真ん中のストレートを打ち損じるなんて
しかもなんか守は皇さんと話してるし
話が終わったのか守はサインを出してくれる
「(インコースをエグるアレ行くぞ)」
私は力強く頷くとボールをいつもより少しズラしてから振りかぶる
この変化球を試合で投げたのは守にしかない
理由は単純
中学のチームでは守しか捕れないから
世代別日本代表の守だから捕れる
その守ですら完全捕球するまでに時間がかかるような球種
初見で打たれるわけが無い
その自信を胸に思いっきり腕を振る
投げられたコースは真ん中
打てると思った皇さんはスイングに入る
周りから見たらまたホームランが出てもおかしくないと思うだろう
しかし結果は

ゴッ

今までで1番の鈍い音がする
ボールはファールゾーン転がる
一体何が起きたのか
多分グランド内で理解出来たのはサインを出した守、投げた私、そして打者の皇さんだけだろう
私が投げた球種はシュート
しかもこのシュートは昔カミソリシュートと呼ばれた1品である
カミソリシュートの特徴は変化量とキレだろう
普通のシュートよりも大きく鋭く曲がる為打つことは愚か捕球すら難しい
ではなぜこんな決め球があるのに今までで使わなかったのか
理由は2つ
1つ目はお父さんじゃ捕れない
2つ目はこのシュートはかなり負担があるので大事な場面意外投げれない
その為、守も練習出来ないからなかなか捕球出来なかったんだよね
さてと、ここからどうやって抑えよう?
守から教えて貰ったストレート(ツーシームと同じ持ち方で縫い目に指を掛けないようにするストレート)と決め球のカミソリシュートは使ってしまったけどどうしよ?
守はここから抑える方法を考えているのだろうか?
私は少し心配になる
私の心配をよそに守はとても楽しそうな表情を浮かべていた
「(千陽のカミソリシュートに当てるかよ。でもあのレベルの変化球だと無視は出来ないだろ?)」
守はサインを出してくる
「(インコース低めにカーブ。外れてもいいから甘いところにはくるなよ)」
私はコースに気をつけていつもよりリリースの位置を低くする
「・・・」ピク
「ボール」
判定は予想通りのボール
今までボール球に反応してなかった皇さんが少し反応する
たったそれだけでも凄く投げやすくなったような気がする
「(カウントはワンボール、ツーストライクか。最後はこれだよな)」
守は指を3本伸ばす
私は頷くとボールの持ち方を少し変える
持ち替えた後集中力を高める為に深く息をする
集中力が高くなった所で振りかぶる
球種はストレート
コースは外
守を信じて腕を振り切る

ビュッ

自分のリリースと共に風切り音が聞こえる
投げた瞬間分かる完璧なリリース
その刹那

ビュンッ

ホームランの時よりも鋭い音が聞こえる
それと同じタイミングで

ズバンッ

守がいい音を鳴らしながらキャッチする
皇さんのスイングは投手に恐怖を与える音をさせながら空振ったようだ
「ストライーク!バッターアウト!」
審判の気合いの入った声が聞こえる
私は気づいたらガッツポーズをしていた

「ゲームセット!3対2で大空ペガサスの勝利!」
審判の最後の号令によって私の夏休み最後の試合が幕を閉じた
皇さんを三振に取ってからは完璧に押さえ込み1人も塁に出すことなく終わった
試合後のキャッチボールをしていると皇さんがこちらに向かって歩いてくる
「・・・最後の打席」
「「?」」
微かに最後の打席と聞こえる
最後の打席がどうしたんだろ?
「・・・最後の打席の時に投げた配球を教えて欲しい」
守の方に行って話し出した
あれ?私じゃないの?
「あー、それなら本人に聞いた方がいいんじゃないか?」
「・・・あの子もいい球投げてたけどそれ以上に貴方の配球にやられたから」
何を話しているのか聞こえない
「俺はあくまでもあいつの能力を最大限に引き出しただけだよ」
「(・・・それがどれだけ凄いことか自覚してないのかしら?)」
「それに最後のボールは俺の予想以上だったしな」
いきなり守がこちらの方を向く
「?何を話してるんだろ?」
私は2人の会話が気になるので守の方に行く
「なんの話しをしてるの?」
「あー、皇の最後の打席について少しな」
守が説明をしようとすると
「・・・ナイスボール」
皇さんはそう言って帰って言ってしまった
「あっ、行っちゃった」
色々話したかったんだけど、残念
「よし、俺らも帰るか」
「そうだね、お腹空いたー」
「今夜は千陽のコース料理だから楽しみだぜ!」
「えっ!?あれ今日なの?」
「当たり前だろ?」
「うそん」
私の夏休みは最後の最後まで忙しかった
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