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第2章 美貌の案内人オルフェウス
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抱擁される理由などないはずだ。
は、離してくれ…と呼吸が苦しくない水の中で音にならなくても唇を動かして訴えた。
すると気持ちが伝わったのか、腰に片手を回したまま相手が腕を緩めて身を少し浮かした。
ホッと安堵したのも束の間、今度は頬に手が添えられた。
(あっ…)
あごを持ち上げられて、視線を唇に落とした整った顔が近づいてくる。
『ちょっ…と…』
身じろいで距離をおこうとしても一回り大きな相手の体躯がそれを許さない。
焦り、横を向こうとした顔がしっかりと固定された。
直感的にその先の行為を察し、このままではまずいとたじろぐ。
けれども、あと少しで触れられると身を強張らせるとピタリと寸前で動きが止まった。
ふいっと男が顔を上げて何かを探るようにして水の奥を見つめる。
その真剣なまなざしにつられるようにして、背後へと目を向けた。
(な、なにが…?)
薄暗い水底を時折、青や黄緑色の閃光が走り抜ける。
光がどこからか射しこんでいるせいなのか、それとも何かしらの霊力でも働いているのか。
不可解な光景には思えたが、それ以外には特に異常は感じられない。
けれども目の前の存在はわずかに小首を傾げた。
『来るか』
『えっ…』
『冥府の通達に部外者は居てはならない。戻るぞ』
捉えたのは振動のような、念だ。
声が直接聞こえたわけではない。
来るとはなんのことだと。
冥府の通達とはどういうことだと。
尋ねようとした矢先に身を屈められて膝裏に手を添えられた。
またふわりと横向きに抱えられた。
『えっ、ちょっ、ちょっと…』
そのまま来た道を戻るようにして階段を上り始めた相手を困惑とともに見つめることしかできない。
委ねることしかできない身が抱えられた状態で説明をされることもなく運ばれていく。
ざぱぁっと水中から外へと出された。
「あの木の陰で待っている」
膝を濡らす程度の高さとなった石段に腰かけるようにして降ろされるや否や、男が一言だけ告げて歩き去って行った。
その背中を目で追いながら、どういうことだと訝しく思ったその時。
ちょうど視線の先では男が離れた場所にある大木の裏に回ったその時。
ザザザザザザザーーッと背後で水面が激しく波打ち始めた。
(なんだ…)
顔を前に戻すと同時にダプンッと、胸の高さまである一際大きな波に打ち寄せられた。
直後に、ぬぅうぅぅとあるモノが目の前に現れた。
ザザザァッ、ザザザザーーッ……
と一度広く砂地まで浸食した水が河へと勢いよく戻っていく流れの中で、じっと現われし者の顔を眺めた。
シュルシュル、シュルシュルと先が割れた赤い舌を覗かせて。
黒い縦長の瞳孔が入った目で見つめ返してくるのは間違いなく神殿の前で出会った大蛇だ。
そうか、神殿の守護者が逸脱した者を追いかけてきたのかと。
そう理解した途端にジャラジャラと鎌首に幾重になって巻かれている鎖が音を出した。
は、離してくれ…と呼吸が苦しくない水の中で音にならなくても唇を動かして訴えた。
すると気持ちが伝わったのか、腰に片手を回したまま相手が腕を緩めて身を少し浮かした。
ホッと安堵したのも束の間、今度は頬に手が添えられた。
(あっ…)
あごを持ち上げられて、視線を唇に落とした整った顔が近づいてくる。
『ちょっ…と…』
身じろいで距離をおこうとしても一回り大きな相手の体躯がそれを許さない。
焦り、横を向こうとした顔がしっかりと固定された。
直感的にその先の行為を察し、このままではまずいとたじろぐ。
けれども、あと少しで触れられると身を強張らせるとピタリと寸前で動きが止まった。
ふいっと男が顔を上げて何かを探るようにして水の奥を見つめる。
その真剣なまなざしにつられるようにして、背後へと目を向けた。
(な、なにが…?)
薄暗い水底を時折、青や黄緑色の閃光が走り抜ける。
光がどこからか射しこんでいるせいなのか、それとも何かしらの霊力でも働いているのか。
不可解な光景には思えたが、それ以外には特に異常は感じられない。
けれども目の前の存在はわずかに小首を傾げた。
『来るか』
『えっ…』
『冥府の通達に部外者は居てはならない。戻るぞ』
捉えたのは振動のような、念だ。
声が直接聞こえたわけではない。
来るとはなんのことだと。
冥府の通達とはどういうことだと。
尋ねようとした矢先に身を屈められて膝裏に手を添えられた。
またふわりと横向きに抱えられた。
『えっ、ちょっ、ちょっと…』
そのまま来た道を戻るようにして階段を上り始めた相手を困惑とともに見つめることしかできない。
委ねることしかできない身が抱えられた状態で説明をされることもなく運ばれていく。
ざぱぁっと水中から外へと出された。
「あの木の陰で待っている」
膝を濡らす程度の高さとなった石段に腰かけるようにして降ろされるや否や、男が一言だけ告げて歩き去って行った。
その背中を目で追いながら、どういうことだと訝しく思ったその時。
ちょうど視線の先では男が離れた場所にある大木の裏に回ったその時。
ザザザザザザザーーッと背後で水面が激しく波打ち始めた。
(なんだ…)
顔を前に戻すと同時にダプンッと、胸の高さまである一際大きな波に打ち寄せられた。
直後に、ぬぅうぅぅとあるモノが目の前に現れた。
ザザザァッ、ザザザザーーッ……
と一度広く砂地まで浸食した水が河へと勢いよく戻っていく流れの中で、じっと現われし者の顔を眺めた。
シュルシュル、シュルシュルと先が割れた赤い舌を覗かせて。
黒い縦長の瞳孔が入った目で見つめ返してくるのは間違いなく神殿の前で出会った大蛇だ。
そうか、神殿の守護者が逸脱した者を追いかけてきたのかと。
そう理解した途端にジャラジャラと鎌首に幾重になって巻かれている鎖が音を出した。
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