アルファの戦士はオメガにされて愛される～オメガバース・ギリシャ神話～

第２章 美貌の案内人オルフェウス

6 再会

「モ、モルモー、つ、着いたのかな？　これって目を開けてもいいってことかな？」
「う、うん…急に静かになったってことは着いたってことだよね？」
「じゃ、いっせーのせで顔を上げるよ？」
「うん、そだね。じゃ、いっせーのせ!!」

　鎖にしがみつくようにしてくっついていた獣人たちが同時に頭を上げた。
　鳥頭と猿頭がパチパチと瞬きをする。

「あーっ、目の前にいたーっ」
「ほんとだーっ」
「もぉーっ、勝手に鏡を触らないで下さいよぉーっ」

　叫び声を合図にでもしたかのようにスーーッと大蛇が水面に頭をのせるようにして鎌首を下げる。
　その平たくなった頭部の上ですくっと二体が立ち上がった。

「一度あることは三度あるっていうけどさ、焦ったよねぇ」
「うん、でもそれを言うなら、一度あることは二度あるだよね？」
「そうそう、だから大は小を兼ねるから、一度あることは三度あるでいいんだよ」

　自信を持って反論した鳥頭の言葉に、ん？と猿頭が首を傾げた。
　わかるようなわからないようなといった顔を見せている。

「と、とにかくすぐ見つかってよかったよ。見つからなかったら、ど、どうなることだったか…」
「う、うん、ハ、ハデスさまだもんね…こ、こわいよね」
「ほんとほんと、エンプサ、早くしよっ、早く済ませて帰ろう!!」
「う、うん」

　エンプサと呼ばれた鳥頭が斜め掛けしている皮の袋に手を入れて、ガサゴソと探るようにした後に巻物のような物体を取り出した。

「では、仕切り直しまして早速始めます。まずは本人確認のためこの巻物に手を置いて下さい」

　ぬぅうぅぅと蛇の頭が伸びてすぐ目の前へと着けてくる。
　よくわからない流れではあったものの自分が冥界での正規の手続きから逸脱したことは確かなのだ。
　差し出された巻物に素直に手をのせた。

「名前を言って下さい」
「…エウリュディケだ」

　それしか知らない名前で答えるとパアァッと巻物が緑色の光を発した。
　パラララと自動で開いた光る紙の端を、モルモーと呼ばれていた猿頭が下に落ちないように手のひらで受け止める。
　ぬぅうぅぅと蛇が首を後ろへとまた引き上げた。
　あえて高さを設けたかったのか、見上げる形となって、巻物を広げた獣人たちに石段に座ったまま視線を向けた。

「タルタロスは第八監獄の囚人エウリュディケに告げる。
　冥府の王ハデスの名においてこの度、汝なんじに特赦が与えられることとなった。罪人であった過去がその記憶ごと清算されることによって、汝は新しい人生を歩むことが許される。
　そして二度と罪を犯さぬよう、地上での新しい身分と定住先を与え、案内役に就労支援をさせる――と通達するのが従来の仕来しきたりではあるが、お前の場合は通常とは異なる…」

　両手で巻物を掲げて、つらつらと文字を読んでいたエンプサがフゥとそこで一度息を吐いた。
　傍らのモルモーが大丈夫大丈夫、うまく言えてるよと励ますように小さく呟いた。