アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第6章 嫉妬したオルフェウスに…

11 君の全てが欲しい

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 本当はいやじゃなかったんだろうと、偽るな、たまらなく気持ちよかったんだろうと辛辣に告げてくるもう一人の自分がいる。
 正直に、そうだと応じながらもやはり割りきれない。
 この感情は一体何なのか。

「君を大切にしたい…ずっと」

 これほどまでの男にここまでの愛の言葉を囁かれているのだ。
 本来ならばこれが幸せなんじゃないかと。
 染み入りながらも思考の片隅では決定的な線引きが消えない。
 それは失われた記憶に起因しているのか。

(なぜなんだろう…)

 ぼんやりとされるがままに思いに耽っていると、乱れた服をさりげなく整え直していたオルフェウスから告げられた。

「レルネに着くまで休むとしよう。よく寝られるように香を今日も焚いてやる」

 寝具の上に横たわるように優しく下ろされてパサリと毛布をかけられた。
 手を傍らに伸ばすような仕草を目にして慌てて告げた。

「香は…今日はなくていい」
「なぜだ?」
「普通に寝たい…だからレルネに到着したら、ちゃんと起こしてくれ。ヒュドラは…独りでは行かないでくれ」

 香りが効きすぎて寝ている間に単独で倒しに行かれてはいやなのだ。
 置いて行かれたくないのだ。
 いつだって一緒にいたい、それこそずっと――そう願っている自分に気がつき、サッと背を向けた。

(なにを考えているんだ…ほんとに…オレは…)

 手淫をされてよがり、射精させられたことに泣き、いやだと嘆き、もうしないでくれと口にし、そのくせ一緒にずっといたいと望んでいるなんて。
 わけがわからないと自身でも困惑する。

「ディケ、以前にも言ったが、睡眠の質を高める香りだけで催眠薬などは入っていない。使ったところで問題ない」

 背後にわずかに視線を戻しながら尋ねた。

「つまり、それって…香を使わなくても、この間のように眠り続ける可能性があるってことか?」
「そうだな…ハデスから強烈な冥気を浴びせられているからな。可能性はゼロではない」
「だったら、もしそうなった時にはちゃんと起こしてくれ」
「…わかった、いいだろう。せっかくだから、ゆったりと休めた方がいい…焚くぞ」

 拒む理由もなくなり、頷いて同意を示すとオルフェウスが香炉に手を伸ばした。
 慣れた仕草で火が付けられ、すぐさま安らぎを感じさせる甘ったるい匂いが鼻に流れこんでくる。
 確かに今日はいろいろあって疲れたと。
 ぐっすり休みたいと思った途端にふわぁっと意識が遠ざかった。

「君の全てが欲しいんだ……君の全てが」

 重たくなった視界の先でボソリと美声につぶやかれた。
 なんだろうと、ほんのわずかに覚えた後に瞳を閉じる。
 しばらくしてから薄暗い中で静かに続きが発せられた。

「君の……本来の姿で」

 その、かすれるような独白は――届く前に深い眠りによって掻き消された。
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