アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第8章 淫毒におかされた肉体が…

3 ゲスどもが上等だな

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「ガメイラさまの血の加護とオレの不死とくれば、もはや無敵よ、クククッ…」

 蛇の鎌首が歪に嵌めこまれた巨大蟹がニヤリと笑い、凶器の度合いを増した鋏を振り上げながら、精霊族ニュンペーくずれどもをいたぶり尽くしてやろうぜぇーーっと姦悪な雄叫びを上げる。
 シャアァァーーッと分身たちが鋭い邪気で応じた。
 そのあまりの禍々しさに身の毛がよだつ。
 倒したはずの邪悪な化け物たちが見事に復活したのだ。
 凶暴性もその数も倍増させて。

「オル…フェウス…ま、まずい…」

 乱れて苦しい息や視界よりも、霊気アルケーとともに抱きしめてくる逞しい腕をギュッと掴んで心の中で訴えた。
 今すぐに逃げようと。
 早く逃げようと。
 擾乱じょうらんするように蘇る異形集団に視線を奪われたまま、こんな風に再現なく再生する怪物らに適うわけがないと怯える。
 こわくてたまらない。
 撤退しろと本能が警告を発している。
 けれども頭上から思わぬ発言が聞こえた。

「ゲスどもが上等だな」

(えっ…)

 いま何を言ったのかと。
 口走った相手を驚いて凝視するのも束の間、直ちに横向きに抱えられ、そのままタンッと後方へと飛んで距離が取られた。
 大きな岩盤の上に軽やかに降り立ったオルフェウスが、イオン、来いっと使役獣を呼びつけた。
 小さな魔鳥がバサバサと飛んできて目の前の地面に着地する。

「反省の弁は後だ」

 冷ややかな声でぴしゃりと告げられ、ふがいなさを責められたと受けとめた側が悲しそうにうなだれた。

「わかってるな、今からディケの目を守れ、いいな?」
「クィィ…」
「オルフェ…ウス…ハァハァ…だ、だめ…だ…」

 突き出た岩に背がもたれるようにその場に下ろされながら、まさか闘う気なのかと。
 離れようとする腕にままならない身体で縋りついた。

「行くな…だ、だめ…ハァハァ…だ…」

 行かせるわけにはいかない。
 無謀だとしか思えない。
 けれども、しがみつく指を一つ一つ丁寧に外されて指先にそっと口づけられる。
 心配はいらないと微笑まれた。

「誰のものに何をしてくれたのか、連中にその身をもってわからせてやるだけだ」

 その言葉はどういう意図でもっての、どういった発言なのか。
 頭がどうにもまわらない状態で、何を言っているんだと。
 そんなことはだめだ…と首を横に振って意思を伝える。
 だが、怒りに満ちた闘神が迷いなくスッと立ち上がり、背中から長い弓を外して片手に持った。
 すぐに終わらせる――そう短い予告だけを残して、シュンッと瞬く間に姿を消した。

「オルフェウスッ!!」

 待ってくれ、行かないでくれと。
 必死に叫び、ざわめく魔獣たちの中に果敢に飛びこんで行ったであろう存在を引き戻そうとしたその刹那、フッと視界が真っ暗になった。

(えっ…)

 何が起きたのか、即座に手を目の上に置いて確かめる。
 その柔らかい感触と心地よいアルケーに、前触れもなく瞳を覆い隠した存在を察した。

「イオン…な、なにを…」

 どうして羽を広げてペッタリと頭に張りついているのか。
 すぐさま取り除こうと爪先を立てた手が、ウオォオ”ォオ”ォォーーッと怒りに満ちた驚嚇と、続けて起きたサァアアァァーーッという何かが一斉に四方に放射されるような気配で動きを遮られた。

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