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2:案内人アトラス
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「どうだったって・・・」
そう聞かれても。なんて答えていいのやら。足下に視線を落として自身の感情を探る。わかったような、わからないような。そもそも全てがどこか他人事のような。
テセウスという男が夢でも見ているのではないかと思うほどに。とにかく心が現実についていけてない。
「身体はどうだ?」
しばらく無言の時が流れた後、尋ねられた。
「えっ・・・」
思わず顔を上げる。自らをアトラスと名乗った男と立った状態で対峙して、その体躯のよさに改めて感じ入る。銀色の髪と仮面に半顔を隠したその顔を含めても。確実にいい男だと称される類だろう。
「震えるような感覚はなくなったか?」
聞かれてみて初めて認識した。鏡から飛び出した直後のグラグラするような感じは確かにもうしない。けれども――
「特に・・・今は・・・問題ない」
答えながらも、意識が向いてるのは自身の左胸の状態だ。トクトクトクトク・・・と波打ち始めた心臓に、気を緩めると頬が赤らんでしまうのではないかと思える血の流れに。
そのより顕著となって生々しさを実感させる鼓動に。グッと奥歯を噛みしめて平静さを装う。
一体どうしたというのだろうか。原因は言うまでもなく目の前の存在だ。けれども、なぜ、こんなにも落ち着かない気持ちにさせられるのか。
初めて会った人間だからなのか。その片側半分の顔しか見えないというのに、異様さよりも美しさを感じる容貌のせいだろうか。
もしくは闘士として羨望を感じずにはいられない体躯の良さか。それか自然体でありながら、どことなく他者を威圧するような雰囲気をまとっているせいだろうか。それとも――?
「あの・・・」
よくわからない状態の中で、唯一感じ取っていることは、こちらがかなり動揺していることを相手に悟られたくないという気持ちだ。努めて冷静に口にする。
「あんた・・・その・・・」
「アトラスだ」
「アトラス・・・ん・・・」
告げられた名称を反復し、理解していると示すように何度も頷く。そんな自分の様子を腕組みをしている相手にじっと見つめられて、思わず視線をそらした。
(なんだろう・・・これ・・・)
トクトクトク・・・と心拍がさらに速まり、頬もかなり熱い。収まる様子がない。
「あ、あの・・・」
相手から意識を意図的にそらして、自分の身の上について集中する。よしと腹に力を入れてから尋ねた。
「なぜ、オレなんだ? ハデスほどの力を持つ者がなぜ、他人に、それも人間に依頼するんだ? そもそも誰かをあてにする必要なんてないだろ? 冥府の王なのだから。それに・・・あんたが案内役だなんて・・・」
「アトラスだ」
「う、うん。だ、だから、アトラス・・・あんたの方が相応しくないか? 見たところ、かなり腕が立つ剣士のようにも思えるが・・・」
その瞬間、男がフッと目を細めて笑った。
そう聞かれても。なんて答えていいのやら。足下に視線を落として自身の感情を探る。わかったような、わからないような。そもそも全てがどこか他人事のような。
テセウスという男が夢でも見ているのではないかと思うほどに。とにかく心が現実についていけてない。
「身体はどうだ?」
しばらく無言の時が流れた後、尋ねられた。
「えっ・・・」
思わず顔を上げる。自らをアトラスと名乗った男と立った状態で対峙して、その体躯のよさに改めて感じ入る。銀色の髪と仮面に半顔を隠したその顔を含めても。確実にいい男だと称される類だろう。
「震えるような感覚はなくなったか?」
聞かれてみて初めて認識した。鏡から飛び出した直後のグラグラするような感じは確かにもうしない。けれども――
「特に・・・今は・・・問題ない」
答えながらも、意識が向いてるのは自身の左胸の状態だ。トクトクトクトク・・・と波打ち始めた心臓に、気を緩めると頬が赤らんでしまうのではないかと思える血の流れに。
そのより顕著となって生々しさを実感させる鼓動に。グッと奥歯を噛みしめて平静さを装う。
一体どうしたというのだろうか。原因は言うまでもなく目の前の存在だ。けれども、なぜ、こんなにも落ち着かない気持ちにさせられるのか。
初めて会った人間だからなのか。その片側半分の顔しか見えないというのに、異様さよりも美しさを感じる容貌のせいだろうか。
もしくは闘士として羨望を感じずにはいられない体躯の良さか。それか自然体でありながら、どことなく他者を威圧するような雰囲気をまとっているせいだろうか。それとも――?
「あの・・・」
よくわからない状態の中で、唯一感じ取っていることは、こちらがかなり動揺していることを相手に悟られたくないという気持ちだ。努めて冷静に口にする。
「あんた・・・その・・・」
「アトラスだ」
「アトラス・・・ん・・・」
告げられた名称を反復し、理解していると示すように何度も頷く。そんな自分の様子を腕組みをしている相手にじっと見つめられて、思わず視線をそらした。
(なんだろう・・・これ・・・)
トクトクトク・・・と心拍がさらに速まり、頬もかなり熱い。収まる様子がない。
「あ、あの・・・」
相手から意識を意図的にそらして、自分の身の上について集中する。よしと腹に力を入れてから尋ねた。
「なぜ、オレなんだ? ハデスほどの力を持つ者がなぜ、他人に、それも人間に依頼するんだ? そもそも誰かをあてにする必要なんてないだろ? 冥府の王なのだから。それに・・・あんたが案内役だなんて・・・」
「アトラスだ」
「う、うん。だ、だから、アトラス・・・あんたの方が相応しくないか? 見たところ、かなり腕が立つ剣士のようにも思えるが・・・」
その瞬間、男がフッと目を細めて笑った。
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