オメガの戦士はアルファに囚われる~ギリシャ神話オメガバース~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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3:アトラスの謎と猛烈な求愛と

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 「本当は泊まりたかったのか? 戻るか?」

 「いや、そうじゃない。必要ない」

 自分たちだけになると途端に熱っぽくなる声音と視線は。慣れるはずもなく、モゾモゾとどこか居心地が悪くて。すかさず足早に前へと進む。すると肩から離れかけた腕がすぐさま追いかけてきた。

 「街道沿いは大半がその手の商売をする宿だ。この近くで温泉テルメとその宿を探してもいいが、これから行く三姉妹の住む岩山は幽鬼と邪霊が巣くう不浄の地だ。明日の夕刻には着く。どうせならその帰りの方がいいと思うが、先にどこかに泊まりたいか?」

 「いや別に・・・泊まりたかったわけではないから」

 そう、それは嘘偽りのない言葉で。そして、いつも目が覚めると水辺か井戸のある村かに到着していて、水浴なり身体を拭くなりしていることを踏まえても。衛生状態の面でも問題はない。

 それに寝泊まりする場所だって――と毎晩の寝場所に想いを寄せた途端「ピィイィーッ・・・」とアトラスが指笛を吹いた。

 「アオォォーーン」

 街外れの鬱蒼とする雑木林の中から応じるように吠え声がする。ザワザワザワと暗い木陰が大きく震えた後、

 スォン、スォン、スォン、スォン・・・・・・

 と地面を滑るような風を切るような音とともに獣車クーペが現れた。

 四輪の黒いほろで四方を覆われた荷台を引くのはイーヌドーグと呼ばれる大型獣だ。体は馬よりも一回り大きいが、顔かたちは犬や狼に近い。

 ピンと立った耳に前に突き出た鼻面と。黒みがかった青毛の所々逆立った様子は、鋼で出来た剛毛のようにも見えるが、触ると意外にもモフモフとしていて柔らかい。

 そして、その走る様も。凶器と思わせるほどに尖った爪足の様相とは裏腹に、霊獣のように軽やかだ。魔気をまとっているせいだろう。

 その魔獣が鋭い牙の間から赤い舌をハッ、ハッ、ハッと覗かせて。

 「クゥゥーン」

 と甘えるような声で頭を差し出してきた。撫でてくれとばかりに近づけてきた、耳が後ろへと下がった額へとアトラスが手をのせる。

 「ルーベ、餌は自分たちで見つけて食べたか?」

 「ワフッ!!」

 途端に、まるで自分のことも忘れるなとばかりに。小さい塊が御者台から胸元へと飛びついてきた。

 「わっ!!」

 すぐさま布を爪で引っ掻いて、ペロペロと口元を舐め始めたその生き物を両手で抱え上げる。

 「くすぐったいって、ケール」

 同じイーヌドーグでもこちらは猫程度の大きさだ。荷台を引いているルーベと姿形は同じだが、黒が混ざった赤毛で、小さな体のせいか愛嬌のある顔に見える。

 「クゥ、クゥ、クゥ・・・」

 抱き直すと、腕の中からアトラスの持つ荷物袋サルキィナに向けて小さな前足を伸ばした。クリクリとした目を輝かせ、濡れた黒い鼻をスンスン、スンスンと動かしてみせる。

 「なんだ。腹、減ってるのか?」

 尋ねると、勢いよく「ワフッ!!」と二匹が同時に吠えた。

 「なぁ。さっきの残りをあげてもいいか?」

 「いつだって、お前の好きにしろ」
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