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4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と
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「テセウス、おそらくすぐにでも天気が崩れるだろう。すぐそこに農家があって食事は入手済みだ。移動しながら食べるつもりだが、手合わせがしたいか?」
光景が目に飛びこんできたと同時に、背後から声が聞こえてきた。
(暗い・・・)
外は確かにどんよりと曇っていて。モクモクと厚ぼったい雲からは、今にも雨が降り出しそうだ。ザワザワ、ザワザワと。強い風に木々も揺れている。その雑木林の出口とも言える丘陵から周囲を見渡した。
なだらかな斜面から下の平地へと。幅の広いしっかりと轍の着いた山道が繋ぎ、その両脇には田畑が広がっている。
だが、ゴロゴロとした石があちこちに浮き出たその土地の印象は、不毛の地といったところか。
それなりに農作物は見られるが、おそらくは痩せた土壌にも強い塊茎の類いを育てているのだろう。
しかしその反面、ポツン、ポツンと広く間をあけて建っている農家は。貧相な大地の印象とはそぐわないほど意外にもしっかりと立派な建物だ。
家畜小屋らしき家屋に牛と牛車と。庭には長い棒が突き出た輿のような乗用具すら見られる。
そして、その農村の向こうには。おそらくは水気を多く含んだ沼地だろう。常緑の樹木が密生する湿地帯が見え、さらにもっと遠方には――
(ゴルゴーンの岩山・・・)
真っ黒の雲をまとうようにして。山頂が鋭く尖った無気味な黒い山影がそびえ立っている。
「剣の鍛錬がしたいのなら、この先は足場の悪い沼地だ。今、ここでしていくのがいいだろう。食事の前にするか?」
「いや。これだと直ぐにでも出発した方がいいかもしれないな」
雨が降る程度ならいいが、どうにも不穏な気配がする。それに、岩山に住むグライアイの三姉妹には。戦うために会いに行くのではない。霊託を授かりに行くのだ。行方不明の王妃を捜し出す手がかりを得るために。
従って、特に武術の腕が問われるわけではないと。後日、王妃捜しの道中でやればいいと。瞬時に天秤にかけ、判断した。
「別に今日はしなくてもいい。食料を手に入れたって・・・ここからあそこまでどうやって行ったんだ? 歩いたのか?」
入手済みということは。アトラスは自分がここで寝ている間に下まで行ったのだ。この距離を? と横に並んだ相手に外を見たまま尋ねた。
「ルーベで降りた」
なるほどと納得はできるものの、自分をなぜ起こさなかったのかとも思う。
いつだって自分よりも活動が早く、起きた時には事を終わらせている印象がある。なんだか任せっぱなしのようで気が引ける。
「村に立ち寄るつもりはないが、行きたいか? 水なら岩壁から流れ出ているところがそこにある。どうする、村の方がいいか?」
「いや。そこで手洗いを済ませてくる」
「では、オレも行こう」
「いい。一人で行く」
常に行動を共にしたがる相手を制止する。靴を素早く身に着けると、外に飛び出した。すかさず、ケールが布を口にくわえてついて来る。
光景が目に飛びこんできたと同時に、背後から声が聞こえてきた。
(暗い・・・)
外は確かにどんよりと曇っていて。モクモクと厚ぼったい雲からは、今にも雨が降り出しそうだ。ザワザワ、ザワザワと。強い風に木々も揺れている。その雑木林の出口とも言える丘陵から周囲を見渡した。
なだらかな斜面から下の平地へと。幅の広いしっかりと轍の着いた山道が繋ぎ、その両脇には田畑が広がっている。
だが、ゴロゴロとした石があちこちに浮き出たその土地の印象は、不毛の地といったところか。
それなりに農作物は見られるが、おそらくは痩せた土壌にも強い塊茎の類いを育てているのだろう。
しかしその反面、ポツン、ポツンと広く間をあけて建っている農家は。貧相な大地の印象とはそぐわないほど意外にもしっかりと立派な建物だ。
家畜小屋らしき家屋に牛と牛車と。庭には長い棒が突き出た輿のような乗用具すら見られる。
そして、その農村の向こうには。おそらくは水気を多く含んだ沼地だろう。常緑の樹木が密生する湿地帯が見え、さらにもっと遠方には――
(ゴルゴーンの岩山・・・)
真っ黒の雲をまとうようにして。山頂が鋭く尖った無気味な黒い山影がそびえ立っている。
「剣の鍛錬がしたいのなら、この先は足場の悪い沼地だ。今、ここでしていくのがいいだろう。食事の前にするか?」
「いや。これだと直ぐにでも出発した方がいいかもしれないな」
雨が降る程度ならいいが、どうにも不穏な気配がする。それに、岩山に住むグライアイの三姉妹には。戦うために会いに行くのではない。霊託を授かりに行くのだ。行方不明の王妃を捜し出す手がかりを得るために。
従って、特に武術の腕が問われるわけではないと。後日、王妃捜しの道中でやればいいと。瞬時に天秤にかけ、判断した。
「別に今日はしなくてもいい。食料を手に入れたって・・・ここからあそこまでどうやって行ったんだ? 歩いたのか?」
入手済みということは。アトラスは自分がここで寝ている間に下まで行ったのだ。この距離を? と横に並んだ相手に外を見たまま尋ねた。
「ルーベで降りた」
なるほどと納得はできるものの、自分をなぜ起こさなかったのかとも思う。
いつだって自分よりも活動が早く、起きた時には事を終わらせている印象がある。なんだか任せっぱなしのようで気が引ける。
「村に立ち寄るつもりはないが、行きたいか? 水なら岩壁から流れ出ているところがそこにある。どうする、村の方がいいか?」
「いや。そこで手洗いを済ませてくる」
「では、オレも行こう」
「いい。一人で行く」
常に行動を共にしたがる相手を制止する。靴を素早く身に着けると、外に飛び出した。すかさず、ケールが布を口にくわえてついて来る。
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