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4:不可解な夢とグライアイの三姉妹と
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びゅおんと激しい風雨とともに、目に飛びこんできた光景は異様な様相で。いつもは自分が手綱を取っているんだとばかりに、御者台にちょこんと座っているケールの姿が見えない。
その代わり、ビュンビュンと。猛烈な勢いで暗闇の中を走り抜ける、青き炎のような魔気をまとったルーベの姿と。その前方上空に、バチバチバチッと赤い火花をまき散らしながら浮いている物体がある。
「あれは・・・」
ルーベとの距離に変化がないということは。同じかそれ以上の速度で飛行していることを意味している。
スォンッ!! スォンッ!! スォンッ!!
と小柄な四肢が宙を蹴り上げて。豪雨と強風の中を流星のような速さで進む。深紅の火玉と化したケールだ。全身の毛を逆立てて、ブオゥン、ブオゥンと。前方上空へと赤い砲弾を次々と繰り出している。
その先では。真っ暗な闇の中で、ズズズ・・・ズズズ・・・と。胴体の長い、巨大な生き物の青黒い鱗のような物体が光を反射し、蠢く様子を垣間見せる。
グォオォオォォォーーッ・・・・・・
「ケールに怖れをなして後退っている。このまま巣に戻るだろう。が、どうする? お前が邪魔だというのなら、今すぐ排除するが・・・やるか?」
「えっ・・・」
問いかけておきながら、もう既に。アトラスが手を伸ばし、後方の幌に立てかけてあった弓をスーッと引き寄せた。
しなやかで曲線も美しいその重厚な武具は。神木で作られたのではと感じさせるほどの霊気に満ちて、金属の装飾も美しい。
銀色の長い髪をなびかせながら。膝立ちとなって構えるような気配を見せられて、慌てて止めた。
「いや、ちょっと待ってくれ、いい。向こうからの攻撃が特にないのなら・・・それはしなくていいんじゃないのか。だいぶ、声も遠かったし」
そう。どこか恨みがましく聞こえた唸り声は。思っていたよりも弱々しく、そして、あれほど激しかった雷鳴ももう見られない。
適わない相手だと判断したのだろう。そんな逃げていく怪物に挑んで体力を消耗する必要はあるのか。いや、ないだろう。
「お前がいいというのなら、やめておく。本当にいいんだな?」
「あぁ・・・不要だ」
頷くと同時に、パサリと。雨風が入ってきた小窓に幕が掛けられた。それにしても――
(やるか・・・って・・・)
さらりと告げられた言葉におののかされる。わずかに見えた胴体の長さから考えても、その大きさはどのくらいか。
そんな長大な怪物を相手に、この暗闇の中で、バタバタと幌がはためく強い風の中で。弓を使おうとしたのだ。矢のない弓を。
ということは、おそらくは。自らの気で瞬時に物質化した矢を放つつもりだったのだろう。一体、どれだけの自信があるのか。
(アトラス・・・ほんとに何者なんだ・・・)
いや、この場合は何者だったのだろうかと捉えるべきなのか。まさしく神族の血が入っていることは間違いないだろう。
だが不可思議な元逆行者に対して疑念が沸くが、その疑問自体もまた記憶のない自分が考えている時点でかなりあやふやとなる。
「すぐにでも着く。今のうちに食べておけ」
食卓が元の場所へと戻され、改めて勧められる。確かにあれほどまでに速く、そして、あのように宙を駆ける彼らなのだから。
『嵐だろうと海の上だろうと難なく進む』といった言葉とともに偽りはないだろう。「うん」と素直に従った。
その代わり、ビュンビュンと。猛烈な勢いで暗闇の中を走り抜ける、青き炎のような魔気をまとったルーベの姿と。その前方上空に、バチバチバチッと赤い火花をまき散らしながら浮いている物体がある。
「あれは・・・」
ルーベとの距離に変化がないということは。同じかそれ以上の速度で飛行していることを意味している。
スォンッ!! スォンッ!! スォンッ!!
と小柄な四肢が宙を蹴り上げて。豪雨と強風の中を流星のような速さで進む。深紅の火玉と化したケールだ。全身の毛を逆立てて、ブオゥン、ブオゥンと。前方上空へと赤い砲弾を次々と繰り出している。
その先では。真っ暗な闇の中で、ズズズ・・・ズズズ・・・と。胴体の長い、巨大な生き物の青黒い鱗のような物体が光を反射し、蠢く様子を垣間見せる。
グォオォオォォォーーッ・・・・・・
「ケールに怖れをなして後退っている。このまま巣に戻るだろう。が、どうする? お前が邪魔だというのなら、今すぐ排除するが・・・やるか?」
「えっ・・・」
問いかけておきながら、もう既に。アトラスが手を伸ばし、後方の幌に立てかけてあった弓をスーッと引き寄せた。
しなやかで曲線も美しいその重厚な武具は。神木で作られたのではと感じさせるほどの霊気に満ちて、金属の装飾も美しい。
銀色の長い髪をなびかせながら。膝立ちとなって構えるような気配を見せられて、慌てて止めた。
「いや、ちょっと待ってくれ、いい。向こうからの攻撃が特にないのなら・・・それはしなくていいんじゃないのか。だいぶ、声も遠かったし」
そう。どこか恨みがましく聞こえた唸り声は。思っていたよりも弱々しく、そして、あれほど激しかった雷鳴ももう見られない。
適わない相手だと判断したのだろう。そんな逃げていく怪物に挑んで体力を消耗する必要はあるのか。いや、ないだろう。
「お前がいいというのなら、やめておく。本当にいいんだな?」
「あぁ・・・不要だ」
頷くと同時に、パサリと。雨風が入ってきた小窓に幕が掛けられた。それにしても――
(やるか・・・って・・・)
さらりと告げられた言葉におののかされる。わずかに見えた胴体の長さから考えても、その大きさはどのくらいか。
そんな長大な怪物を相手に、この暗闇の中で、バタバタと幌がはためく強い風の中で。弓を使おうとしたのだ。矢のない弓を。
ということは、おそらくは。自らの気で瞬時に物質化した矢を放つつもりだったのだろう。一体、どれだけの自信があるのか。
(アトラス・・・ほんとに何者なんだ・・・)
いや、この場合は何者だったのだろうかと捉えるべきなのか。まさしく神族の血が入っていることは間違いないだろう。
だが不可思議な元逆行者に対して疑念が沸くが、その疑問自体もまた記憶のない自分が考えている時点でかなりあやふやとなる。
「すぐにでも着く。今のうちに食べておけ」
食卓が元の場所へと戻され、改めて勧められる。確かにあれほどまでに速く、そして、あのように宙を駆ける彼らなのだから。
『嵐だろうと海の上だろうと難なく進む』といった言葉とともに偽りはないだろう。「うん」と素直に従った。
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