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2章:逃げちゃいました~呪われたカエルの王さまヘーゼル・ナッツイリアル・フォート・ブルルボン~
投獄か断頭台行きのカエル
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「ヘケロ殿…大丈夫です。
怖がる必要はございません」
いや、それはもう全く説得力のない言葉で。
このまま床が奈落の底まで抜け落ちるのではないかと思えるくらいの圧で。
もちろん恐ろしさでとっくの昔に腰は抜けているけれども。
「失礼」
ザッと藁が取り払われて視野が開けた途端に腕を捕られた。
「おけがはない様子でよかった。
大丈夫です。
怖がられる必要もありません。
陛下がお待ちですから、さぁ…」
とどこからどう見てもいかついとしか言いようのない強面とそのクマのような手に、
「すすすみません・・・でででした…あああ、あのですね、わわわ悪気はなくて…あのあのあの…あ、そうだ、すすす水流がなんか…きゅきゅ急にですね……ケロ」
と震えながら言い訳に見える嘘をついた。
「そうですか、水流が急に…ですね。
わかりました、大丈夫です。
では外に出ましょう、失礼」
そう言われるや否や、むんずと太い腕に掴まれ、ひょいと岩盤のような背中の上に乗せられる。
そのまま大きすぎて身動きのしづらい相手がずりずりと四つん這いの状態で後退りし始めた。
「わぁ!!……ケロ」
外に出るや否や、サッと背中から脇に抱えられて。
ギシッと大股一歩で地上に降り立った。
そっと地面に降ろされる。
ザッとその場に跪かれた。
「誠に失礼をいたしました。
主命でございます。
王都に戻って頂きます」
ギンッと見上げる黒い瞳はもう暗殺者か刑の執行者だとしか思えなくて。
あぁ…と観念する。
自分は不敬罪で投獄か断頭台の露と消えるかなのだ。
ちょっと変わった人生だったが、いよいよ終わるのだ。
「ただ申し訳ございません。
特注の馬車ゆえ山道の道幅が足りず、迂回させております。
それまで、どこかのお部屋でお待ち頂きたく。
すぐ手配させます」
と告げるや否や、大男が立ち上がった。
「おい、部屋を用意しろ」
「はっ」
「あと門を解除しろ。
引き止めた者を解放する」
「はっ」
長には劣るものの十分に屈強な騎士たちが命じられてカッポ、カッポ、カッポと馬で移動し始める。
「ほら、行っていいぞ」
「よし、もう行っていいぞ」
あちらこちらで促された人々が安堵の息を吐き出しながら活動を再開する。
チラチラと視線を投げかけられる中、騎士団長が口を開いた。
「先ほど水流が急に…と言及なさっていましたが、誰かに拉致をされたわけではないと?」
「そそそうです…わわわざとじゃないです……ケロ」
「この者も特には関係ない…ですか?」
と立ち竦んでいるギュッテを指差されて慌てて否定した。
「も、もちろんギュッテさんは関係ないです!!……ケロ」
「オ、オレは別に何もしてませんぜ、黒騎士のだんな」
「なるほど…つまりは急な水流で流されたヘテロ殿のオラーガ村への帰りの手配を代行し、駅馬車に乗せてやった…そんなところか」
問いかけられたギュッテが強く頷いて返す。
「そ、そうです…と、とても親切にしてもらって…す、すごくありがたかったです…ケロ」
「ヘケロ殿、よくわかりました。
よし、いいだろ、お前も行っていい。
出発しろ。
これは梯子の修理代だ」
「は、はい……あ、どうも」
銀貨が無造作に投げられ、受けとめたギュッテが頭を下げてからこちらを見つめてきた。
「じゃ、じゃあな…げ、元気でな」
窺うようなその瞳は大丈夫かという心配に溢れている。
本当にいい人だなと染み入った。
「ギュッテさん、ありがとうございました、あ、そうだ…ケロ」
何かお礼をしたいと瞬時にして想いがこみ上げても、自分には何一つできることがない。
唯一できるとしたら――
怖がる必要はございません」
いや、それはもう全く説得力のない言葉で。
このまま床が奈落の底まで抜け落ちるのではないかと思えるくらいの圧で。
もちろん恐ろしさでとっくの昔に腰は抜けているけれども。
「失礼」
ザッと藁が取り払われて視野が開けた途端に腕を捕られた。
「おけがはない様子でよかった。
大丈夫です。
怖がられる必要もありません。
陛下がお待ちですから、さぁ…」
とどこからどう見てもいかついとしか言いようのない強面とそのクマのような手に、
「すすすみません・・・でででした…あああ、あのですね、わわわ悪気はなくて…あのあのあの…あ、そうだ、すすす水流がなんか…きゅきゅ急にですね……ケロ」
と震えながら言い訳に見える嘘をついた。
「そうですか、水流が急に…ですね。
わかりました、大丈夫です。
では外に出ましょう、失礼」
そう言われるや否や、むんずと太い腕に掴まれ、ひょいと岩盤のような背中の上に乗せられる。
そのまま大きすぎて身動きのしづらい相手がずりずりと四つん這いの状態で後退りし始めた。
「わぁ!!……ケロ」
外に出るや否や、サッと背中から脇に抱えられて。
ギシッと大股一歩で地上に降り立った。
そっと地面に降ろされる。
ザッとその場に跪かれた。
「誠に失礼をいたしました。
主命でございます。
王都に戻って頂きます」
ギンッと見上げる黒い瞳はもう暗殺者か刑の執行者だとしか思えなくて。
あぁ…と観念する。
自分は不敬罪で投獄か断頭台の露と消えるかなのだ。
ちょっと変わった人生だったが、いよいよ終わるのだ。
「ただ申し訳ございません。
特注の馬車ゆえ山道の道幅が足りず、迂回させております。
それまで、どこかのお部屋でお待ち頂きたく。
すぐ手配させます」
と告げるや否や、大男が立ち上がった。
「おい、部屋を用意しろ」
「はっ」
「あと門を解除しろ。
引き止めた者を解放する」
「はっ」
長には劣るものの十分に屈強な騎士たちが命じられてカッポ、カッポ、カッポと馬で移動し始める。
「ほら、行っていいぞ」
「よし、もう行っていいぞ」
あちらこちらで促された人々が安堵の息を吐き出しながら活動を再開する。
チラチラと視線を投げかけられる中、騎士団長が口を開いた。
「先ほど水流が急に…と言及なさっていましたが、誰かに拉致をされたわけではないと?」
「そそそうです…わわわざとじゃないです……ケロ」
「この者も特には関係ない…ですか?」
と立ち竦んでいるギュッテを指差されて慌てて否定した。
「も、もちろんギュッテさんは関係ないです!!……ケロ」
「オ、オレは別に何もしてませんぜ、黒騎士のだんな」
「なるほど…つまりは急な水流で流されたヘテロ殿のオラーガ村への帰りの手配を代行し、駅馬車に乗せてやった…そんなところか」
問いかけられたギュッテが強く頷いて返す。
「そ、そうです…と、とても親切にしてもらって…す、すごくありがたかったです…ケロ」
「ヘケロ殿、よくわかりました。
よし、いいだろ、お前も行っていい。
出発しろ。
これは梯子の修理代だ」
「は、はい……あ、どうも」
銀貨が無造作に投げられ、受けとめたギュッテが頭を下げてからこちらを見つめてきた。
「じゃ、じゃあな…げ、元気でな」
窺うようなその瞳は大丈夫かという心配に溢れている。
本当にいい人だなと染み入った。
「ギュッテさん、ありがとうございました、あ、そうだ…ケロ」
何かお礼をしたいと瞬時にして想いがこみ上げても、自分には何一つできることがない。
唯一できるとしたら――
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