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3章:捕まっちゃいました~呪われたオメガの王さまmeetsカエルの王さま~

脱がされて、あわわ…ケロロロ…

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 おそらくは単純にぬいぐるみが好きなだけなのだ。
 これほどまでの美形の賢王がカエルもどきに欲情とか劣情とか抱くわけがない。
 きっと等身大のぬいぐるみを抱き枕にして激務で疲れた身の安眠を得る――そんなほのぼの生活に癒やしを求める性格に違いない。

 求愛という形を取っているのは独特な領域に生息する熱狂者たちによく見られる、一種の行き過ぎた愛情表現にすぎないのだろう。

(そうだ、そうに違いない)

 危うく有史以来の聖君を変の態にするところだったと。
 うんうんと独り訂正し、至った結論を秘かに噛みしめる。
 すると――
 
「ま、無理強いはしたくないから、それは追々おいおいとするか。
 ん、いい湯加減だな。
 では、ヘケロ、バンザイして」

 と水を足し終えた相手から促されて(えっ…)と首を傾げた。
 どういう意味だろうか。
 なぜバンザイをしなくてはいけないのか。

「はい、ほら、バンザーイ」

 とさらに目の前で促されて「こ、こうですか…ケロ」と思わず素直に両手を上げた途端に、シュルッと首周りの紐を緩められ、スポンッと手品のように貫頭衣チュニックを引き抜かれた。

「!!」

「ヘケロは小柄だからな。
 桶の中で座っていればいい。
 オレが洗おう」

「あわわ…ケロロロ…」

「あぁ…なるほど、そうか…そうなのか。
 思ってたよりも…ん…」

 と謎めいた言葉を口にし、どこか眩しそうに瞳を細めながら口角を上げた相手からふわんっとたとえようもない香気が舞い上がる。
 吸いこんだ途端にグルグル、グルグルと景色が激しく回り始めた。

「さ、下も脱ごうか」

「ケロロロ……」

 この身に何が起きているのか。
 これは一体どういうことなのか。
 目にもとまらぬ素早さで上半身を脱がされた。
 本来ならば、頭の大きさで脱衣には苦労するはずなのに。
 百戦錬磨のテクニックなのか、魔法なのか、なんなのか。
 いやそれよりも、なぜなのかだ。
 もしかして、いやそれはあり得ない、でもだがしかしと。
 思考内もグルグルと混ざり合い、黒目も細まり視界が白んでくる。

「ケロロロ……」

「ヘケロ!?」

 ギクリと身を強張らせたような気配がする。

「し、しまった!!
 ヘケロ、大丈夫だ!!
 オレは自制しているし、懐中時計も持っている!!
 気をしっかり持て!!」

 と相手の切羽詰まっているかのような言葉を最後に。
 ふうぅと重たい頭を後ろへとのけぞらせてまたしても意識を失った。


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