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行きと帰りで様子が違う…

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 そう思ったおじいさんは並べた途端にバカ売れだった、商品五つをそっとボックス型リュックの中に戻しました。
 猟師が仕留めた、田畑を荒らす害獣の毛皮で作られたおじいさんの帽子はまさにトップハット。
 前衛的なデザインをしていて、おじいさんが住む周辺地域の雰囲気とこれまた見事に不一致でした。
 けれども、千載具眼せんげんぐがんを待つ、つまり私の作品は1000年後に理解されるなんて言葉をイケオジは言う必要もありません。
 時代背景と場にそぐわないだろうとなんだろうと、着物姿の老若男女が群れとなってあっという間に取り合いです。
 殺伐としています。
 ものの数分で完売してしまいました。
 入場への抽選を勝ち抜いた後に死闘が待ち受けていたのです。
 勝者と敗者が明確になる非情な時間です。
 こうなるともうすることはありません。
 あーだこーだと話しかけては少しでも長く引き留めようとする、熱狂的な信望者ファンという名の人々にサインを書いては渡し、おじいさんは完売御礼の札を割り当てられていた区画ブースに立てると帰路についたのでした。

 その間も鞄に入りきれないほどの差し入れが手渡されます。
 逐一丁寧にお礼を言いながら受け取りつつも、おばあさんのために何を買おうかと店の前で立ち止まることも忘れません。
 ですが、何かを選ぶ前にそれらは全てみんなのスターであるおじいさんに献上されるので荷物は膨らむ一方でした。
 結局頂いたお土産の中に、おばあさんが大好きな茎わかめ、干し柿、味付けのりが入っているのでよしとしようと。
 いつも通り何も買わずにおじいさんは元来た道を戻り始めました。

(あれ…?)

 ところがどうしたことでしょう。
 お地蔵さんたちの場所まで帰ってくると、なんと一つ増えているではありませんか。
 おかしいな、確か五体だったと思ったんだけどなぁと。
 不思議に思いながら頭の雪を払って帽子をそっと被せていきます。
 そして六番目のお地蔵さんには自身の首に巻いていた襟巻きマフラーをシュルッと取って付けてあげました。

「いま帰ったよ」
「あ、お帰りなさい」

 満面の笑顔で走り寄ってくる愛しの妻にズクンッとおじいさんの胸とまだまだ現役絶好調な下半身が熱くなります。

「市場はどうでした?」
「ん…ごめん…今日も買い物…できなかったよ」

 両肩にかけていた大きなバッグを下ろしながら答えると、ドサドサドサッと詰めに詰められていた中身が床へとこぼれ落ちました。
 続けて、本当にふがいなくて、ごめんと言いながらパンパンに膨らんだ鞄も背中から下ろします。

「もらった物で持ちきれなくなっちゃって…でも、君の好きな茎わかめとか干し柿とかもなんか…入れてくれてるみたいで…」

 とおじいさんがおばあさんの様子を窺うようにしながら見るからに高そうな茎わかめを取り出しました。
 これぞ真のファン魂です。
 推しだけでなく奥さんが好きな物もしっかりと把握されているのです。

「君のために…なにも買えなくてごめんね」
「いいんですよ、別に」

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