最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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最愛の者 腕の中に

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 戸惑っているラシュレスタをそのままに、シャルスティーヤが右手を宙に向けてかざした。

 シュワンッ!! シュワンッ!! シュワンッ!!

 上下に、左右に、前方に後ろに、そして斜めにも。ありとあらゆる方向に向けて、最高天使だけが駆使できる聖なる気を放つ。

 (光の防護壁・・・)

 幾重にも幾重にも厚みを増すように、何度も何度も放つ、その姿。

 天上界の最高品質である聖気を使っているというのに、やめることをしない、その念入りさ。もはや誰を念頭に繰り出しているかなんて明白だ。

 (結界を・・・張られている・・・)

 境界域ゆえに、魔気と妖気の混じり合う中庸な気で満ちていた場。

 それがキラキラと高度を上げ、侵すことのできない聖域が、揺るぎのない強さと厚みでもって構築される。

 その気配を察したラシュレスタが、シャルスティーヤが光の彩度を落としていなかった理由を理解した。

 聖気を使った結界を張りたかったのだ。だから、自分の状態にあわせて波長を落とせずにいて、すまないと。そういう意味で謝ったのだ。

 (シャルスティーヤさま・・・)

 優しさに胸がこみ上げる。状態に納得したシャルスティーヤが、ピッと中指を親指で弾いた。

 キラキラと美しく光る体液の粒。宙に押し出されるようにして、飛んでいく。ラシュレスタを転送させた後、ユラユラと漂っていた魔鏡、そこへと向かって。

 「τρεῖςοἶα・・・ελδἐγὼα ・・・」

 シャルスティーヤが呪を唱え、パチンと指を鳴らした。

 ふわんっ・・・・・・

 アブラハム本体と同じ大きさになっていた白い魔鏡が、さらに形を変えた。

 (えっ?)

 ただの木の扉となって、目の前にスーッと降りてきた物体。ラシュレスタが驚きの表情で見つめる。

 穏やかな大河の上にせり出すように突き出ていた崖。その背後。洞窟の石壁に、扉がスッと溶けこむようにして張りついた。

 「我の宝石とそなたの髪飾りで開くようにしてある・・・」

 シャルスティーヤが左腕の防具から琥珀色の宝石を外す。扉に向かって、石を光の風にのせて優しく飛ばした。

 ふわんっ・・・・・・

 受け止めた扉が白い光を発しながら、開いた。ユラユラと光で揺れている。それは異空間へと繋がった証。

 (一体、これは・・・)

 先ほどから立て続けに起きている現象。それらはどういうことなのだろうか。

 まるで魔族が呪を使うかのように、振る舞っている姿。自分が天界にいた頃には、決して見られなかった立ち振る舞い。

 聖なる光による祝福や浄化、制裁だけでなく、呪も使うようになったのか――否が応でも、隔たっていた時間を感じさせられる瞬間。

 (どういった事情で・・・呪をこのように駆使されるようになったのだろうか・・・誰かとなにかの経験を通して、使われるようになったのだろうか・・・誰だろう・・・それって、もしかして・・・)

 魔王―――そう思った途端に、ラシュレスタの左胸で、ズキン・・・とりんが痛んだ。

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