隣国は魔法世界

各務みづほ

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復興編

第二十二章 リアの頭脳-1

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「おーい、リア!」

 とある日曜日、ライサがいつものように庭の掃除をしていると、塀の外からヤオスの声が聞こえた。
 見ると彼と同じくらいの年の人が三人程いる。一人は女の人だった。

「ドライブ行かないか、ドライブ! こいつら一緒で悪いけど」
「えーなんだよ、ヤオス、こんな可愛い子引き取ってたんかぁ」
「はーい、リアちゃんだっけ? 遊ぼーぜー!」

 男達がライサを見て喜んで声をかけてきた。女の人は一人彼らを見て呆れている。
 ヤオスは彼らを静め、ライサの方にやってきて、小声で囁いた。

「この前なんか泣かしちゃったからさ、おわびに、ね?」

 ヤオスは紳士だった。いつも細かなところで彼女に気を使ってくれている。
 ライサはくすっと笑って、誘いに応じた。

「そうね、おばさんに聞いてくるわ」

 パタパタとライサは家の中に入って行った。
 程なくして外出用に着替えたライサが出てくる。
 大き目のワゴン車に乗り、一同、この街の国立公園へと向かった。

 大きな公園で、自然は元より博物館や科学館など小さいながらも数々の施設が揃っていた。
 五人でいろいろまわりながら、騒いでは遊ぶ。
 時折警察が通りかかって、怒鳴りかけてきたりもした。
 お昼は適当なところでファーストフードを注文する。
 ライサには何もかもが新鮮で、大学の内輪の話がでても楽しそうに聞いていた。

「ナターシャ、最近リア元気なかったからさ、ちょっと話してやってくんない?」

 昼食を終えて少しした頃、ヤオスは一人来ていた女の人にそっと声をかけた。
 女同士、話すのもいいだろうと思ったのだろう。

「え? いいけど。高校生くらいでしょ? 話あうかしら……」

 ちょっと戸惑いながらも承諾し、ライサのほうへ向かった。
 ヤオスはうまく男共を二人から引き離し去っていく。ゲーセンにでも行くのだろう。

「はーい、リアちゃん、私ナターシャ、よろしくね」

 あらためてナターシャは自己紹介をしつつ、最近話題の話をいろいろともちかけていく。
 芸能界、映画や遊びのスポット、ファッション、グルメなどなど普段女友達とする話を次々と挙げていった。

 しかし当然だが、ライサにそんな俗世間の話がわかるはずない。
 彼女は物心ついたときには既に研究室に入り浸っており、王宮に移ってからは王女とともに育ったのだ。
 王女と異なり、王宮から出てはいけないということはなかったが、一人でうろついた覚えもあまりない。
 基本的なことくらいは知っていても、深い話になると全くお手上げである。

 し――――――ん。

 何十分ともたず、その場は静まり返ってしまった。
 ナターシャは、あまりに手応えのない反応に戸惑っている。

(ど、どぉして……この子、どの話も説明しないと通じない! 話はきちんと聞いてくれるけど……)

 対してライサのほうも焦っていた。

(ま、まずい……いろいろ気を利かせてくれてるのに。なにか話題ないかしら……何か、何か!)

「そ、そうだ、ナターシャさん大学では生物学専攻と伺いました! どういった研究されてるんですか?」

 いきなり思ってもみなかったことを聞かれ、ナターシャは少々戸惑ったが、とりあえず高校生程度にもわかるだろう言葉を選んで説明する。

「えーと、一応目の研究してるんだけどね……今までは犬とか鳥とか動物の目の研究してたんだけど、最近は境界もなくなったし魔法使いの目に視野を広げて……」

 ついこの間まで敵だった魔法使いを出してよかったかなと思いながら、簡単に答えたナターシャだったが、ライサはすぐに反応してきた。

「……もしかして、ヴィクルー先生の研究室ですか?」

 ナターシャは心底驚いた。
 ヴィクルー教授は宮廷博士の一人だ。確かに有名である。
 だが、それは生物学界の話であり、一般の、ましてや高校生くらいの子が、その研究内容を知っているとは思いもよらなかった。

「戦前から、魔法使いの目の構造について、いくつか仮説をたてていらっしゃいましたよね。本を読んだんですけど、とてもよくできてて凄いなーって思ったんですよ」

 ライサが魔法使いの目を変える薬を成功させられたのも、この先生のおかげだと言える。

「本を……読んだの!?」

 ナターシャはまたまた驚愕する。
 当然だがその本は学者用に書かれているので、専門用語だらけである。ナターシャですら、教授の仮説を読破するのに随分苦労したものだった。
 と、ここで彼女はライサを試してみようと考える。
 本当に本を読んだのだろうか、とても信じられないのだ。

「じゃ、じゃあさ、第三の仮説についてはどう思う?」

 まさに今現在、彼女がやっている研究内容を聞いてみた。
 ライサは首を傾げ少し考えると、すらすらと意見を述べる。

「眼球で捕らえた情報を脳へ送る過程で、視覚ニューロンの伝達物質が我々とは異なっている、という説ですよね。これは無理があるように思われます。理由としてはまず、彼らの脳自体の構造、機能としてーー」

 時折考える仕草を見せながらも、ライサは筋の通った考えを述べる。
 その説明の仕方は、まるで学者だった。
 最初は信じられないと思っていたナターシャも、次第にライサと夢中になって討論しあっていく。
 時間がたつのも忘れるほどだった。


  ◇◆◇◆◇


「それじゃ、ナターシャさん、みなさん、今日はありがとうございました」

 ライサは別れ際三人に丁寧にお礼を述べる。
 心なしか少しさっぱりとした感じをヤオスは受けた。ナターシャに近寄り、小さな声で礼を言う。

「ありがとう、ナターシャ。リア、ご機嫌みたいだな。何の話してたんだ?」

 他の二人の男達と当り障りのない会話を続けているライサを見ながら、ナターシャは何気に答えた。

「人間の視神経における解剖学的相違について」
「は?」

 ヤオスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
 ナターシャはふっと笑いながら、彼に大まかな話の内容を説明した。

「あの子、ホントに高校生? 知識は教授並じゃない。ヤオスも研究煮詰っているんでしょ。相談してみたら?」

 ナターシャも行き詰まっていた疑問が解消されたという。
 ライサとの会話の中には、研究のヒントがたくさん含まれていた。
 これで論文が書けそうだと、彼女は嬉しそうな顔をしていた。

「……嘘だろ?」

 三人が帰って行った後も、しばらくヤオスは呆然としていた。
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