【完結・新版/R18】 レナのレッスン ~ スレイヴのおけいこ (^^♪ ~

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Lesson 02 自我の目覚め

06

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「じゃあ、さっそく、始めよう。詩織。下着を脱いで。今すぐ。ここでね」

 え?

 ウソ。
 出来るわけない!

「あの、ぱんつを脱ぐんですか」
 囁くように、そう、確かめずにはいられなかった。
「ショーツ」
 と、サキさんは正した。
「ぱんつ、ってのは子供の言い方。これからは、下着、あるいはショーツと言いなさい」
 レナのボックスは、胸ぐらいの高さとはいえ、壁には囲まれていた。そして、目の高さには小さな観葉が並んでいる。
 とは言え、ジャケットを脱ぐ、という行為をしているのは、はっきりとわかる。そして、コーヒーショップの座席でジャケットを脱ぐのは、社会的になんら問題はない。
 しかし、コーヒーショップでぱんつを脱ぐのは、著しく、果てしなく、マズい。
 まず、心理的に無理。
 それに、アクションが目立ちすぎる。
 スカートをたくし上げて、パンツのゴムに指をかける。ここまではいい。
 しかし、その後、尻を浮かせて膝まで移動させ、さらに、それを足首まで抜き取らなければならない。そんな不自然な動きは、観葉植物越しでもはっきりとわかる。モタモタしていれば、ウェイトレスさんにも見つかる。曝しものになる。
 さらに。
 それまでのレナの妄想のせいで、ぱんつはぐっしょりと濡れていた。そんなぱんつを、ショーツを。脱ぐんですか? 今、ここで?
 絶対、無理!
「トイレじゃ、ダメですか」
 縋るような気持ちで、言ってみた。
 それなら、何とか妥協できる。
 お願いします。いいよ、と言ってください。
 レナは、祈った。
 しかし、サキさんは、非情過ぎた。
「僕は、ダメとは言わない。
 でも、その場合は、これ以上の詩織とのプレイは、ない。
 これで、終わりだ。
 僕は詩織のデータを全て消す。お互い、もう、会うこともないだろう。
 これは、脅しでも、脅迫でもないからね。
 君が望んだから、僕は今日、ここへ来た。
 君が望まないなら、僕は帰る。それだけだ。さっき、言った通りだ」
 サキさんの声も、表情も、全く変わっていなかった。さらに、
「脱いだ下着はこれに入れて、僕に渡しなさい」
 スーツのポケットから、折りたたまれた小さな茶色い紙袋を出し、テーブルの上に、置いた。全て想定済み。レナのそうした反応など最初からわかっている。というよりも、見飽きた。
 恐らくは、あのブログの写真の女性たちも、皆、この関門をくぐったのだろう。
 そういうことか・・・。
 レナは、観念した。ハラに気合を、入れた。
「じゃあ、やります」
 サキさんはニコニコ顔で、レナを見ていた。
 この人は、鬼だ。
 そう思った。
 意を決し、両手で少しずつスカートをたくし上げながら、周りを警戒した。運悪く、空席だった左のボックスにサラリーマンの三人連れが来た。おそらくウェイトレスさんが注文を取りに来るだろう。観客が増えるのは、困る。
 レナの手が、止まった。



 縋るような、必死の思いで、サキさんを見た。唇をかむ。
 彼は、怒っていた。目が、
「早くやれ」
 そう怒鳴っている。
 それでもレナが躊躇していると、荒々しく、顎をしゃくって、催促した。
 恥ずかしすぎる!
 どうしようもなく、涙が出る。
 股間が、どうしようもなく疼き、こんな非常事態のレナに追い打ちをかけるように、さらに濡れた。
 もう、濡れるな! そう、叫びたかった。
 このままだと湯気が出るんじゃないか。水溜りが出来たらどうしよう。さらに尿意もある。もし、お漏らししてしまったら・・・。
 どうしよう・・・。
 ええい! もう、ヤケだ。
 左のボックス席の男たちが席に着き、ガヤガヤし始めたのを機に、前にかがみ込むフリをして、一気に腰を浮かし、膝頭まで移動させようとした。ぱんつ、を。ショーツ、を。濡れたショーツが、同じく愛液と汗とでだろう、濡れた尻に張り付いたようになり、上手く抜けてくれなかった。焦っているうちに、
「すいませーん」
 男たちの誰かが声を上げ、他の連れたちの視線がややこちらを向き、反対側からは、
「少々お待ちください」
 と、ウェイトレスさんの声が。
 思い切って一瞬だけ大きく半立ちになり、くるくる丸まって紐のようになったショーツを一気に膝頭まで押し出したのと、ウェイトレスさんが注文を取りに歩いてくるのが同時だった。そこへサキさんが絶望的な一言を。
「あ、すいません」
「少々お待ちください」
 正に、真正面で彼女の視線がこのテーブルに、レナに一瞬だけ注がれた。
 顔から火が出る。カーッと首筋から上が熱くなる。
 お願いです。どうかこれ以上注目を集めないでください!
 がっはっはっはっ。
 左側の男たちが一斉に笑った。まるで変態なレナを哄笑するかのように。
 変態。
 そう。
 自分は、レナは立派な変態だ。
 平和なコーヒーショップの店内で、普通の人々が歓談しコーヒーを味わう場で、衆人の目がある公共の場所で。
独り、愛液に濡れた汚いショーツを脱ぎ、イヤらしい秘部を曝そうとしている。
 膝からふくらはぎの中ごろまで下ろせれば、後は足だけで脱ぎ下ろすことが出来そうだ。顔の火照りと胸の高鳴り。心臓が、苦しい。



「あ、すいません。彼女にコーヒーのお代わりを」
 サキさんはワザとウェイトレスさんに用を言いつけ、レナに注目を集めようとする。
「かしこまりました」
 恥ずかしい・・・。
 もう、ショーツは膝まで下ろしてしまっている。注文を受けて立ち去る前にウェイトレスさんと目が合った。
(このコ、さっきから少しヘン)
(なに、顔赤くしてんのかしら)
(何か、ヤラしいこと、してるんじゃ・・・)
 そんなふうに、思われているのかも。
 ヤバい。また、濡れて来た。
 それに、髪の毛の根元から、額から、胸元や、脇の下。元々汗かきの上に過剰な緊張と不安と羞恥が重なり、大汗をかいていた。サキさんさんは、そんなレナを見て、興奮しているのだろう。ただそれは、一切感じられない。冷静に微笑をたたえたまま、レナを凝視している。
 そうだっけ。彼はもう、慣れているのだったな。
 こうしていても、仕方がない。
 えい。やってしまえ。
 一瞬のうちに、レナは右足を少し上げ、伸びきったショーツの紐の輪をふくらはぎまで下ろした。
 カチャーン。
「あ、すいません。スプーンを落としました」
「少々お待ちください。代わりのをお持ちします」
 来なくていい! 今、来ないで!
 カシャーン
 焦って、膝でテーブルを蹴上げてしまった。
 コーヒーカップが揺れ、スプーンが踊り、黒い液体がちょっと跳ね出した。
 周囲の視線を浴びているのがわかる。心臓が、胸から飛び出したがっていた。
 それなのに、酷い!
 サキさんは落ちたスプーンを靴の先でさらにテーブルの下に滑らせた。
「すいません。あのー、落ちたスプーンが見当たらなくて・・・。テーブルの下かな」
 やめて!
 そんなことをされたら、ショーツをずり下げているのを見られてしまう。
 ウェイトレスさんの靴音が、運命のドアを叩くように頭の中で響いた。
 もう、無理・・・。
 鼻がツンとした。目の前のサキさんが歪み、レナの瞳から、一筋の涙が、流れて、落ちた。
 じっとレナを見つめていたサキさんは、口角をゆっくりと引き上げて、笑った。
 悦んでいた。喜悦に浸る貌だった。
「あ、ありました。ありました。どーも済みません」
 サキさんはウェイトレスさんが来る前に長い腕を伸ばしてスプーンを拾い上げ、彼女に手渡した。
「行儀が悪くて、済みません」
「いいえ。お気になさらずに。ごゆっくり」
 一礼して去って行く彼女を見送ると、サキさんは、こう言った。
「その、涙が、見たかったんだ。最高だよ、詩織! 」
 差し出された手に、きちんとアイロンがけされたハンカチがあった。
「よく、頑張ったね」
 よかった・・・。これでやっと苦痛から解放される。
 何も言えず、黙ってハンカチを受け取り、目頭を抑えていると、
「さあ、ショーツを渡しなさい」
 やっぱり。それは、避けては通れないのか。
 でも、何かが違った。何かが、変わった。まだ、恥ずかしくはある。でも、もうさほど、苦痛には感じなかった。
 サッとかがみ込み、両足のパンプスを脱ぎ、湿ったショーツを脱ぎ去って、確保した。テーブルの上の紙袋を取り、テーブルの下で袋に入れた。何故か、落ち着いて、出来た。
 嬉しかった。
 人前でショーツを、パンツを、下着を脱ぐ。
 長い間、人としてしてはいけないと教え込まれた下品な行為。でも、たったそれだけの行為。それが出来たのが、嬉しかった。
 じーん。
 全身の凝りが解れた気分。
 きっと、たぶん、泣いたせいだ。また、涙が溢れた。
「そうだよ」
 サキさんは、レナの心を読んでいるかのように、言った。
「泣いたから、だよ。
 限界まで耐えて、耐えて、耐えきれずに泣いたから。
 だから、詩織の心が、解放されたんだ。
 どう、何か感じないかい。快感だろう?」
 そうなのか。
「・・・はい」と答えた。
「それがセックスと結びつくと、最高の快感になる。さらに慣れて来るとセックスなしでも同じか、それ以上の快感を得ることが出来るんだ」
 こういうことなのか。さっき、サキさんが言ったのは。
「じゃあ、その袋をテーブルの上に置いて」
 下で手渡そうと思っていたら、機先を制された。やっぱりな。そう易々と、終わりにしてはもらえないんだな。
 諦めて、袋をテーブルに載せた。そこで気付いた。紙の袋にシミが出来ていた。慌てて取り戻そうとしたら、先に取られた。
 サキさんは目の前で袋を開いて取り出そうとした。レナの、愛液で汚れたショーツを。あの、女の匂いがしっかりと染みついた、のを。
「やめて下さい」
「だいぶ、濡れてる。凄いな。ぐしょぐしょだ。どこの部分が一番濡れてるのかな。どれ」
 もう、顔から出る火は出尽くしたと思っていた。恥ずかしさで、気が変になりそうだった。立ち上がってサキさんから袋を奪い返そうと腰を浮かせかけた。
 サキさんはサッと身を引いた。テーブル越しでは、どうしようもない。
この上さらに追い打ちをかけるように、彼は言った。
「もう、出ようか」
「えっ?」
「気持ちのいい、春日和だ。ちょっと、その辺を歩こう。そうしたら、返してあげる」
「え、このままで、ですか?」
「もちろん、そうだよ」

 やっぱり、この人は、鬼だ!
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