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2 新人研修編
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レクスに誘われ、久しぶりに塔長室に足を踏み入れた。中に入るのは、フィアの初出張の日以来。
本当はもっと頻繁に訪問したいものなんだが。
俺がそばでウロウロしていると、研修がなかなか進まない。
フィアからもレクスからも、そう言われてしまい、行き帰りの同伴だけで我慢している。
その同伴さえも、今日のようにできない日も出てくる。
「あー、今日はずっと動きっぱなしだよ。まったく。メダルが見つかったと昼に呼び出されてさ」
レクスも今日は大変だったようだ。
あれこれ兼任しているせいもあるだろうが、優秀なので仕方ない。
自然と仕事が集まってくる。
「それから、鑑定室行って、面倒なことになって、鑑定会議やって、面倒なことになって、緊急会議だ。昼も食えなかった」
そう言いながら、お茶と菓子を差し出した。
「僕は、師匠と菓子食いながら、もっとのんびり仕事したいんだよ」
まぁ、いろいろ兼任している時点で、のんびりなんて無理だよな。
レクスは意外と菓子好きで、あの赤種のチビと、定期的に菓子会をしているらしい。
ふと、フィアの机にキレイな箱が置いてあるのが目に留まった。
フィアが好きそうな、かわいらしい色と柄だ。
「これ、フィアのだろう?」
こういうの、好きなんだよな。
「あー、それそれ」
疲れた表情でレクスが菓子をつまみ始めた。
「おまえ、奥さんとのゴタゴタ、やっと納まったのか? ほぼ完成したって喜んでたぞ」
ほぼ完成?
なんだ、その話。何も聞いてないぞ。
もしかして。
「おい、どうした?」
「フィアが組み紐飾り、作ってるのか?」
レクスが分かりやすく顔色を変えた。
「え、いや、その、」
「作ってるんだな」
この中に入れて、ここで作ってたのか。
どうりで、家で組み紐飾りの話をしなくなったはずだ。
「おい、どうするつもりだ。それ、持ってったら怒られるぞ」
「これはダメだと言ってある」
いつ材料なんて買ったんだ?
フィアに接触している人間はすべて把握済みだが、そんな素振りはなかったぞ。
「おい、ラウゼルト。少しは落ち着けよ」
落ち着いてなんて、いられるか。
「フィアは他にあげたいやつがいるんだ」
「おい、どうしてそうなる?」
「フィアには好きな男がいたんだ」
そう。あいつだ。
「はぁあ? いい加減にしろよ。おまえ、疲れてるんだよ」
「あのムカつく男も、フィアのことが好きだったんだ」
俺より長く、ずっとフィアのそばにいた、あの男だ。
「まさか、仲を引き裂いたのか?」
「ネージュ・グランフレイムは死んだからな」
「そういうことか」
あいつは、フィアが生きてることを知らない。
「ネージュがフィアとして生きてるなんて、知らせる必要ないだろ」
「それはそうだけどな」
でも、あいつは、ネージュが死んだことを受け入れてない。
ネージュの遺体は見つからなかった。
だから、助かってどこかで生きている。
そう信じて、グランフレイムでネージュの帰りを待っているんだ。
生きていたとしても、あそこに帰るわけがないだろうに。
自分を崖下に突き落とした、あの家族がいる家なんかに。
あいつは定期的に第六師団にもやってくる。ネージュの捜索状況を聞きに。
表向き、ネージュの遺体捜索は継続中になっているから。
遺体が見つかっていない話を聞くと、ホッとしたような、なんとも言えない表情をして帰っていくという。
だから、絶対に、フィアと鉢合わせないよう、細心の注意を払っている。
「たまに、寝言でそいつの名を呼んでるんだ」
あいつが定期的に来ていることは、フィアにも絶対に知られてはならない。
「でも、今はおまえの奥さんだろ。奥さんだって、おまえを夫として認めてるし」
「フィアにとって俺は、夫という生き物に過ぎないんだよ」
そして価値がなくなれば捨てられる。
気がついたときには、一度押し込んだはずの不安や焦りが、また胸いっぱいに広がっていた。
「やっぱりおまえ、疲れてるぞ」
レクスが心配そうに声をかけた。
「その箱、持ってくなら、よく奥さんと話し合えよな」
その日の夜は、フィアをいつも以上にギュッと抱きしめてしまった。
グエッ
フィアがかわいらしく変な声をあげる。
ヤバい。力を入れ過ぎた。
いつものようにフィアは研修の話をしてくれる。でも、組み紐飾りの話はしない。
俺もフィアに、箱の話はしなかった。
箱は今、第六師団で厳重に管理している。
明日には箱がないことに気付くはずだ。俺が持っていったことにも気付くかもしれない。
今、話しておいた方がいい。頭で分かっていても、口には出せない。
何も知らないフィアは、楽しそうに話を続けている。
「それで、メダル鑑定成功のご褒美は、お休みにしてもらおうと思って」
「フィア、休みたい日はあるのか?」
「ラウと氷雪祭に行きたいの。行ったことないから」
「フィアの初めてを俺と?!」
「ラウは忙しいよね」
「大丈夫だ、フィア。氷雪祭の日はちょうど休みだ」
氷雪祭を思い浮かべて、ニコニコしているフィアがかわいい。
このまま、箱のことはなかったことにしたい。俺は強くそう願った。
本当はもっと頻繁に訪問したいものなんだが。
俺がそばでウロウロしていると、研修がなかなか進まない。
フィアからもレクスからも、そう言われてしまい、行き帰りの同伴だけで我慢している。
その同伴さえも、今日のようにできない日も出てくる。
「あー、今日はずっと動きっぱなしだよ。まったく。メダルが見つかったと昼に呼び出されてさ」
レクスも今日は大変だったようだ。
あれこれ兼任しているせいもあるだろうが、優秀なので仕方ない。
自然と仕事が集まってくる。
「それから、鑑定室行って、面倒なことになって、鑑定会議やって、面倒なことになって、緊急会議だ。昼も食えなかった」
そう言いながら、お茶と菓子を差し出した。
「僕は、師匠と菓子食いながら、もっとのんびり仕事したいんだよ」
まぁ、いろいろ兼任している時点で、のんびりなんて無理だよな。
レクスは意外と菓子好きで、あの赤種のチビと、定期的に菓子会をしているらしい。
ふと、フィアの机にキレイな箱が置いてあるのが目に留まった。
フィアが好きそうな、かわいらしい色と柄だ。
「これ、フィアのだろう?」
こういうの、好きなんだよな。
「あー、それそれ」
疲れた表情でレクスが菓子をつまみ始めた。
「おまえ、奥さんとのゴタゴタ、やっと納まったのか? ほぼ完成したって喜んでたぞ」
ほぼ完成?
なんだ、その話。何も聞いてないぞ。
もしかして。
「おい、どうした?」
「フィアが組み紐飾り、作ってるのか?」
レクスが分かりやすく顔色を変えた。
「え、いや、その、」
「作ってるんだな」
この中に入れて、ここで作ってたのか。
どうりで、家で組み紐飾りの話をしなくなったはずだ。
「おい、どうするつもりだ。それ、持ってったら怒られるぞ」
「これはダメだと言ってある」
いつ材料なんて買ったんだ?
フィアに接触している人間はすべて把握済みだが、そんな素振りはなかったぞ。
「おい、ラウゼルト。少しは落ち着けよ」
落ち着いてなんて、いられるか。
「フィアは他にあげたいやつがいるんだ」
「おい、どうしてそうなる?」
「フィアには好きな男がいたんだ」
そう。あいつだ。
「はぁあ? いい加減にしろよ。おまえ、疲れてるんだよ」
「あのムカつく男も、フィアのことが好きだったんだ」
俺より長く、ずっとフィアのそばにいた、あの男だ。
「まさか、仲を引き裂いたのか?」
「ネージュ・グランフレイムは死んだからな」
「そういうことか」
あいつは、フィアが生きてることを知らない。
「ネージュがフィアとして生きてるなんて、知らせる必要ないだろ」
「それはそうだけどな」
でも、あいつは、ネージュが死んだことを受け入れてない。
ネージュの遺体は見つからなかった。
だから、助かってどこかで生きている。
そう信じて、グランフレイムでネージュの帰りを待っているんだ。
生きていたとしても、あそこに帰るわけがないだろうに。
自分を崖下に突き落とした、あの家族がいる家なんかに。
あいつは定期的に第六師団にもやってくる。ネージュの捜索状況を聞きに。
表向き、ネージュの遺体捜索は継続中になっているから。
遺体が見つかっていない話を聞くと、ホッとしたような、なんとも言えない表情をして帰っていくという。
だから、絶対に、フィアと鉢合わせないよう、細心の注意を払っている。
「たまに、寝言でそいつの名を呼んでるんだ」
あいつが定期的に来ていることは、フィアにも絶対に知られてはならない。
「でも、今はおまえの奥さんだろ。奥さんだって、おまえを夫として認めてるし」
「フィアにとって俺は、夫という生き物に過ぎないんだよ」
そして価値がなくなれば捨てられる。
気がついたときには、一度押し込んだはずの不安や焦りが、また胸いっぱいに広がっていた。
「やっぱりおまえ、疲れてるぞ」
レクスが心配そうに声をかけた。
「その箱、持ってくなら、よく奥さんと話し合えよな」
その日の夜は、フィアをいつも以上にギュッと抱きしめてしまった。
グエッ
フィアがかわいらしく変な声をあげる。
ヤバい。力を入れ過ぎた。
いつものようにフィアは研修の話をしてくれる。でも、組み紐飾りの話はしない。
俺もフィアに、箱の話はしなかった。
箱は今、第六師団で厳重に管理している。
明日には箱がないことに気付くはずだ。俺が持っていったことにも気付くかもしれない。
今、話しておいた方がいい。頭で分かっていても、口には出せない。
何も知らないフィアは、楽しそうに話を続けている。
「それで、メダル鑑定成功のご褒美は、お休みにしてもらおうと思って」
「フィア、休みたい日はあるのか?」
「ラウと氷雪祭に行きたいの。行ったことないから」
「フィアの初めてを俺と?!」
「ラウは忙しいよね」
「大丈夫だ、フィア。氷雪祭の日はちょうど休みだ」
氷雪祭を思い浮かべて、ニコニコしているフィアがかわいい。
このまま、箱のことはなかったことにしたい。俺は強くそう願った。
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