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2 新人研修編

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 フィアから箱を取り上げた翌々日。
 この日は朝から、メダル対策会議だった。

 フィアを追いかけて早めに来て、レクスを捕まえる。
 レクスはレクスで、緊急事態だと早めに呼び出され、伝言を預かったと。

 その伝言の内容が、

「別居?!」

 ヤバい。気が遠くなる。

 俺は思わず机に突っ伏した。

 ダメだ。力が入らない。




「で、ラウゼルトのやつ。何があった?」

 そこへやってきた総師団長と第二師団長。
 総師団長の質問に、レクスが律儀に答えている。

「あー、ラウゼルトの奥さんが、」

「例のクロエル補佐官か」

「ラウゼルトと別居するって言って、」

「「はぁ?!」」

「荷物持ったまま、出張に」

「「…………………………………………。」」

 全員が黙り込んでいる。

「他に何か言ってなかったのか?」

「夕飯の準備はしてないからと、ラウゼルトに伝えてくれって」

「それで、ああなってるのか」

「使い物にならんぞ、あれ」

 レクスの説明に続いて、総師団長、第二師団長の声が聞こえたが、答える元気が俺にはなかった。




 前の日の夜。いつもなら、いっしょにソファーに座ってくつろぐ時間。

 いつまで経っても隣に座ってこないのを訝しく思っていると、フィアが立ったまま、話しかけてきた。

「ラウ、私の箱、返して」

「あれはダメだと言っただろう」

 やっぱり、俺が持っていったと気付かれた。レクスが何か話したのかもしれない。

「返してくれないなら、別々ね」

「フィアには必要ないだろう」

「ベッドも別々だからね」

「フィア、俺たちは夫婦なんだ。だから、組み紐飾りなんて」

「氷雪祭も行かなくていいから」

 思わず言い合いになるが、俺とフィアの話は噛み合わない。
 フィアは口をキュッと結んだまま、俺に背を向けた。

「フィア?!」

 慌てて立ち上がる。

 氷雪祭、いっしょに行こうって約束したばかりだろ。

「明日、出張で早いから。おやすみなさい」

 急いでフィアを追いかける。

 ベッドも別々って、家にベッドは一つしかないぞ?

 寝室に行ってみると、枕がベッドの端と端に置かれていた。

「ラウはこっち、私はこっち。別々だからね」

 …………枕が別々なだけだな。

 俺をベッドから追い出そうとか、自分がソファーで寝ようとか、思いつかなかったようだ。

 フィアの考える別々はかわいい。

 フィアは腰に手をあて、勢いよく別々を宣言すると、さっと布団に潜ってしまった。
 大きなベッドの左の隅に、小さく丸まって寝ている。かわいい。

 静かに反対側からベッドに入る。

 フィアに触れようと、そっと手を伸ばすと、鼻をすすりあげる小さな音が聞こえてきた。

 俺は触れることができなかった。

 枕の別々が、あまりにもかわいくて。俺は完全に油断していた。
 きっと明日には機嫌を直す。そう思っていた。

 甘かった。




 そして、今朝。

 いつもより少し早く目覚めると、隣に寝ているはずのフィアがいない。

 そうだ、出張で早いって言ってたっけ。
 送っていかないと!

 慌てて飛び起きると、フィアが家の扉を開けるところだった。

「フィア!」

「出張だから、行ってきます」

「フィア、俺が送っていく」

「メモリア、お待たせ」

 扉の外にはメランド卿がいて、俺は目の前で扉を閉められてしまった。

 別々って、行き帰りも別々?




「それで、フィアの服が二組、下着が三組、寝衣が一組なくなってた」

 フィアは出張の準備で忙しい中、俺のために朝食を用意していた。
 別々と言いながらも、俺のことをちゃんと思っていてくれている。

 フィアが用意した朝食を摂り、出勤の準備をしていたら、あることに気がついた。

 フィアのいつものカバンがある。
 そして、大きめのカバンがない。

 まさかと思って確認した結果がこれだ。

「ずいぶん詳しいな」

「おまえ、毎日チェックしてるのかよ」

「フィアのものは、ぜんぶ、俺が揃えてるし確認してるから」

「ずいぶんヤバいな」

「まぁ、竜種だから、こんなもんだろうな」

「それよりヤバいのはクロエル補佐官だ。家も別々って言ってたそうだから」

 家も別々だなんて。甘かった。

「で、別居か」

 このままフィアが帰ってこなかったら、生きていけない。

 使い物にならない俺を無視して、他の三人が話を進めている。

「ところで出張って、自然公園の探索は待機になっただろ?」

「はぁあ? 聞いてないぞ?」

「なんだと? 確かに昨日、」

「待った。フィールズ補佐官から伝達だ」

 フィールズ補佐官はフィアといっしょに出張に行ったはずだ。

 自然公園からか。
 フィアに何かあったんだろうか。

 レクスが全員に聞こえるように、伝達を拡大する。

『報告、報告』

『池の北、木立の中、結界で囲まれたメダル、四枚発見。すべて魔法陣が刻まれる前のもの』

『その二メートル横、倒木と岩の瓦礫の中、十枚のメダルを発見。すべて魔法陣あり』

『メダル発見の事前報告、ありませんか?』

「僕の方にはなかった。これから会議だ。本部に確認する」

 そう言って、レクスはチラッと総師団長を見た。

『了解。メダルはこれから封印して回収』

 メダルが十枚。俺はなんとか身体を起こす。

「了解した。引き続き、警戒しながら処理に当たれ」

『了解』

 フィールズ補佐官からの伝達が途切れた。

「で、どういうことだ?」

 レクスの声が震える。

「待機の話も、メダルがさらに見つかった話も、僕は何にも聞いてないぞ!!」
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