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3 武道大会編
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護符の鑑定。
ずいぶん前にエレバウトさんが言ってたな。小さいメダルや偽造の護符の鑑定で忙しいと。
エレバウトさんは、鑑定室所属の上級補佐官で、なにかしら私に絡んでくる。金髪クリンクリンのかわいらしい女性だ。
鑑定室が担当していたものが、塔長室扱いになったんだろうか。
「これよぉ。鑑定室が根を上げちゃってねぇ」
マル姉さんが、さっと私の目の前にケースを差し出して、中央のテーブルに置いた。
マル姉さん、口調は語尾長めでのんびりしているけど、行動は素早い。
そのケースを金短髪男以外の全員が取り囲む。
中には、何か文字らしきものが書かれた紙切れが一枚。
マル姉さん、ことアスター上級補佐官、その弟の同じくアスター上級補佐官はともに、外回り担当。
こういった鑑定ものは、塔長室では通常、特級補佐官が引き受ける。
フィールズ補佐官とナルフェブル補佐官に視線を向けてみたが、二人とも肩をすくめた。
二人揃ってダメだったんだな。
はー
「それこそ、グリモ補佐官にやってもらえばいいじゃないですか」
私はチラッと金短髪男を見て、塔長に進言した。
金短髪男は行儀悪く、自分の机に腰掛けている。
「ラウをペット扱いするほど、優秀なんですよね?」
塔長と金短髪男の顔が揃って引きつった。
「僕、そんなに嫌われるようなこと、言ったかなぁ」
「グリモの優秀さは別方面なんだよ」
「塔長。いくら鑑定技能が特級だからって、感情に振り回されるような子を特級補佐官にしていいのかい?」
金短髪男が、さらに余計なことを言ってきた。
塔長や他の皆が味方だからと、調子に乗ってるだろ、こいつ。
「おい、グリモ。そこまでだ」
「だって、そうだろう? 特級補佐官は冷静沈着な対応が求められる。
ちょっとからかっただけで、こんなにプリプリしている子に勤まるのかい?」
悪かったな、プリプリが顔に出て。
「口を慎め。無駄に刺激するな」
「塔長は女の子に甘いからなぁ」
「グリモ」
ここは塔長がビシッと注意してくれて、金短髪男はつまらなそうな顔で引き下がった。
でも、粗を探して何か言ってやろう、そんな雰囲気のままでいる。嫌なやつ。
「で、クロエル補佐官。どうだ?」
塔長が私の意識を護符に引き戻した。
見た感じはなんの変哲もない紙に、文字が書かれているだけだ。
エレバウトさんは『偽造の護符』と言っていた。どの辺が偽造なんだろう。
「そうですね」
塔長に返事をしながら、鑑定眼で念入りに眺める。
魔法はかけられていない。魔法陣もない。
どこにでもある量産の紙に、やはりどこにでもある量産の黒いインクで、スヴェート帝国の文字が判で押したように印されている。
印されている文字の意味は『豊穣』『願え』『叶える』。
紙もインクもエルメンティア産で、エルメンティアから外に出た気配はない。
いろいろな人の手を渡っているらしく、製作者は不明。
「て、ところですかね」
今回、《視覚化》は使っていない。
金短髪男に見せるのが、なんとなく嫌だったので、使わなかった。
我ながらいい判断だと思う。
「へー。その推測。精度は?」
「推測? 精度?」
また何か言ってきたよ、こいつ。
「フィールズ補佐官、精度ってなんですか?」
「おいおい、鑑定精度も教えてないのかい?」
金短髪男が呆れた口調で言いながら、お手上げ、みたいなポーズを取った。
本当にこいつ、いちいち、うるさい。
「教えてないな」
「ないですね」
「そもそも必要あるか?」
塔長、フィールズ補佐官、ナルフェブル補佐官と金短髪男に反応すると、今度は私以外に絡み出した。
「鑑定精度は重要だろ。そんな基本的なことも教えてないなんて、どういうつもりだい」
「あー、分かった分かった」
塔長、面倒臭そうだな。
「クロエル補佐官、鑑定精度っていうのは、《鑑定》をしたときの正確さ、ってことだ」
「正確さ?」
「そうだ。たとえば、花を見たとき、九割見えて一割見えなかったとする。それでもその花が何の花かは分かるだろ?」
「花についての知識があれば、九割でも鑑別できますね」
「だろ。八割でも場合によっては分かるかもしれない」
「まぁ、そうですね」
「導き出した答えが、九割を基にしたのか八割なのか。どちらの答えが正確になると思う?」
「単純に考えれば九割です」
「そうだ。鑑定精度はこれと同じ。《鑑定》でどのくらい分かったか、だ。
その《鑑定》がどのくらい正確なのか、確からしいのか、の目安になるんだ」
「へー」
面倒臭そうにしてた割には、丁寧に分かりやすく教えてくれた。
なるほど。だから、私には教えなかったのか。
「おいおいおいおい、これで特級補佐官だなんて、本当に大丈夫なのか?」
金短髪男が軽いノリで騒ぎたてるのを無視して、塔長に確認する。
「でもそれ、《鑑定》の話ですよね?」
「ああそうだ。だから、クロエル補佐官には関係ない」
ほらみろ。
「ですよね」
「は?」
そういえば、塔長ってこういう人だったよな。
何かにつけて、相手を試したり、相手の様子や反応を見たりするんだ。
「私、基本的に《鑑定》は使わないので」
「何をバカなことを言ってるんだい。今、《鑑定》したばかりだろ?」
うん、間違いない。
金短髪男は、私が赤種だってことを聞かされてない。
ただの特級補佐官だと思って、私の粗探しをして、私がイラつく反応を引き出そうとしてる。
それは私も同じだけどね。
新しい副官が就任していることも、そいつが嫌なやつだってことも、何ひとつ知らされてなかった。
「グリモ。クロエル補佐官は四番目だ」
「は? いったい何の順番ですか?」
「一番目、四番目といったら、あれしかないだろ」
「あぁ、そうか、クロエルって。そういうことですか」
金短髪男の目つきが変わった。
「バーミリオン様と同種なんですね?」
表情や口調は軽い感じで変わりないけど、全身で私の様子を窺っている。
「あぁ、そうだ。師匠と同じ呼び方するなら、クリムゾン様だな」
「こんなボケッとした子が赤種ですか」
バカにした口調は相変わらずだけど、目が笑っていない。
私もあえて反応しない。
まぁ、ぽわんとしているって、よく言われてるしな。
「だから、グリモ。やめろ」
「まったく。僕がいない間に様変わりしましたね、この国は」
金短髪男は無反応の私をさらに煽るように言葉を続けた。
「ボケッとした赤種に、ペット扱いされてる上位竜種だなんてね」
グゥィン、シュッ
「クロエル補佐官、ここでは神器は使用禁止な」
さらに引きつった顔で、塔長が私に注意してくる。
でも、これはラウの悪口を言ったやつが悪い。
金短髪男は無言のまま、よろけて床にへたりこんだ。
ふん、いい気味だ。
フィールズ補佐官はこめかみに指をあててグリグリしてるし、マル姉さんは口に手をあてた姿でピクリとも動かない。
ナルフェブル補佐官は、顔色を青くして、鳩尾を押さえたまま。
「帰り道を狙えってことですね」
「だから、やっと見つけた僕の副官、始末しないでくれるかな」
「なら、夫にお願いします」
「それ、もっとダメだろ」
私は何も答えず、床に突き刺さった破壊の大鎌を無造作に引き抜いた。
引き抜くと同時に、大鎌で真っ二つになったグリモ補佐官の机は、切断面から静かに崩壊していった。
ずいぶん前にエレバウトさんが言ってたな。小さいメダルや偽造の護符の鑑定で忙しいと。
エレバウトさんは、鑑定室所属の上級補佐官で、なにかしら私に絡んでくる。金髪クリンクリンのかわいらしい女性だ。
鑑定室が担当していたものが、塔長室扱いになったんだろうか。
「これよぉ。鑑定室が根を上げちゃってねぇ」
マル姉さんが、さっと私の目の前にケースを差し出して、中央のテーブルに置いた。
マル姉さん、口調は語尾長めでのんびりしているけど、行動は素早い。
そのケースを金短髪男以外の全員が取り囲む。
中には、何か文字らしきものが書かれた紙切れが一枚。
マル姉さん、ことアスター上級補佐官、その弟の同じくアスター上級補佐官はともに、外回り担当。
こういった鑑定ものは、塔長室では通常、特級補佐官が引き受ける。
フィールズ補佐官とナルフェブル補佐官に視線を向けてみたが、二人とも肩をすくめた。
二人揃ってダメだったんだな。
はー
「それこそ、グリモ補佐官にやってもらえばいいじゃないですか」
私はチラッと金短髪男を見て、塔長に進言した。
金短髪男は行儀悪く、自分の机に腰掛けている。
「ラウをペット扱いするほど、優秀なんですよね?」
塔長と金短髪男の顔が揃って引きつった。
「僕、そんなに嫌われるようなこと、言ったかなぁ」
「グリモの優秀さは別方面なんだよ」
「塔長。いくら鑑定技能が特級だからって、感情に振り回されるような子を特級補佐官にしていいのかい?」
金短髪男が、さらに余計なことを言ってきた。
塔長や他の皆が味方だからと、調子に乗ってるだろ、こいつ。
「おい、グリモ。そこまでだ」
「だって、そうだろう? 特級補佐官は冷静沈着な対応が求められる。
ちょっとからかっただけで、こんなにプリプリしている子に勤まるのかい?」
悪かったな、プリプリが顔に出て。
「口を慎め。無駄に刺激するな」
「塔長は女の子に甘いからなぁ」
「グリモ」
ここは塔長がビシッと注意してくれて、金短髪男はつまらなそうな顔で引き下がった。
でも、粗を探して何か言ってやろう、そんな雰囲気のままでいる。嫌なやつ。
「で、クロエル補佐官。どうだ?」
塔長が私の意識を護符に引き戻した。
見た感じはなんの変哲もない紙に、文字が書かれているだけだ。
エレバウトさんは『偽造の護符』と言っていた。どの辺が偽造なんだろう。
「そうですね」
塔長に返事をしながら、鑑定眼で念入りに眺める。
魔法はかけられていない。魔法陣もない。
どこにでもある量産の紙に、やはりどこにでもある量産の黒いインクで、スヴェート帝国の文字が判で押したように印されている。
印されている文字の意味は『豊穣』『願え』『叶える』。
紙もインクもエルメンティア産で、エルメンティアから外に出た気配はない。
いろいろな人の手を渡っているらしく、製作者は不明。
「て、ところですかね」
今回、《視覚化》は使っていない。
金短髪男に見せるのが、なんとなく嫌だったので、使わなかった。
我ながらいい判断だと思う。
「へー。その推測。精度は?」
「推測? 精度?」
また何か言ってきたよ、こいつ。
「フィールズ補佐官、精度ってなんですか?」
「おいおい、鑑定精度も教えてないのかい?」
金短髪男が呆れた口調で言いながら、お手上げ、みたいなポーズを取った。
本当にこいつ、いちいち、うるさい。
「教えてないな」
「ないですね」
「そもそも必要あるか?」
塔長、フィールズ補佐官、ナルフェブル補佐官と金短髪男に反応すると、今度は私以外に絡み出した。
「鑑定精度は重要だろ。そんな基本的なことも教えてないなんて、どういうつもりだい」
「あー、分かった分かった」
塔長、面倒臭そうだな。
「クロエル補佐官、鑑定精度っていうのは、《鑑定》をしたときの正確さ、ってことだ」
「正確さ?」
「そうだ。たとえば、花を見たとき、九割見えて一割見えなかったとする。それでもその花が何の花かは分かるだろ?」
「花についての知識があれば、九割でも鑑別できますね」
「だろ。八割でも場合によっては分かるかもしれない」
「まぁ、そうですね」
「導き出した答えが、九割を基にしたのか八割なのか。どちらの答えが正確になると思う?」
「単純に考えれば九割です」
「そうだ。鑑定精度はこれと同じ。《鑑定》でどのくらい分かったか、だ。
その《鑑定》がどのくらい正確なのか、確からしいのか、の目安になるんだ」
「へー」
面倒臭そうにしてた割には、丁寧に分かりやすく教えてくれた。
なるほど。だから、私には教えなかったのか。
「おいおいおいおい、これで特級補佐官だなんて、本当に大丈夫なのか?」
金短髪男が軽いノリで騒ぎたてるのを無視して、塔長に確認する。
「でもそれ、《鑑定》の話ですよね?」
「ああそうだ。だから、クロエル補佐官には関係ない」
ほらみろ。
「ですよね」
「は?」
そういえば、塔長ってこういう人だったよな。
何かにつけて、相手を試したり、相手の様子や反応を見たりするんだ。
「私、基本的に《鑑定》は使わないので」
「何をバカなことを言ってるんだい。今、《鑑定》したばかりだろ?」
うん、間違いない。
金短髪男は、私が赤種だってことを聞かされてない。
ただの特級補佐官だと思って、私の粗探しをして、私がイラつく反応を引き出そうとしてる。
それは私も同じだけどね。
新しい副官が就任していることも、そいつが嫌なやつだってことも、何ひとつ知らされてなかった。
「グリモ。クロエル補佐官は四番目だ」
「は? いったい何の順番ですか?」
「一番目、四番目といったら、あれしかないだろ」
「あぁ、そうか、クロエルって。そういうことですか」
金短髪男の目つきが変わった。
「バーミリオン様と同種なんですね?」
表情や口調は軽い感じで変わりないけど、全身で私の様子を窺っている。
「あぁ、そうだ。師匠と同じ呼び方するなら、クリムゾン様だな」
「こんなボケッとした子が赤種ですか」
バカにした口調は相変わらずだけど、目が笑っていない。
私もあえて反応しない。
まぁ、ぽわんとしているって、よく言われてるしな。
「だから、グリモ。やめろ」
「まったく。僕がいない間に様変わりしましたね、この国は」
金短髪男は無反応の私をさらに煽るように言葉を続けた。
「ボケッとした赤種に、ペット扱いされてる上位竜種だなんてね」
グゥィン、シュッ
「クロエル補佐官、ここでは神器は使用禁止な」
さらに引きつった顔で、塔長が私に注意してくる。
でも、これはラウの悪口を言ったやつが悪い。
金短髪男は無言のまま、よろけて床にへたりこんだ。
ふん、いい気味だ。
フィールズ補佐官はこめかみに指をあててグリグリしてるし、マル姉さんは口に手をあてた姿でピクリとも動かない。
ナルフェブル補佐官は、顔色を青くして、鳩尾を押さえたまま。
「帰り道を狙えってことですね」
「だから、やっと見つけた僕の副官、始末しないでくれるかな」
「なら、夫にお願いします」
「それ、もっとダメだろ」
私は何も答えず、床に突き刺さった破壊の大鎌を無造作に引き抜いた。
引き抜くと同時に、大鎌で真っ二つになったグリモ補佐官の机は、切断面から静かに崩壊していった。
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