精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

1-9 室長は狼狽える

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「第六師団に異動だって?!」

 今日も頭痛と胃痛が襲ってくる。
 つき果てたため息に代わって、別のものが出てきそうな気がする。

 私の名前はオルダン・エアシャール。

 私の目の前で自信満々の顔をしているのは、言わずとしれたエレバウトだ。

 第六師団送りになったというのに、この表情。
 エレバウトの神経が理解できない。

「今度は何をやった?!」

 はー

 つき果てたはずのため息が、再び出た。

「最近、苦情がめっきり減ったから安心していたのに」

「何のお話かは存じませんけど。第六師団付き補佐官が募集されてましたので、応募してみましたの!」

「お、応募してみた、だと?」

 そんな話は聞いてない。

 仕事の鑑定に、クロエル補佐官の追っかけに、忙しい毎日を送っているはずなのに応募する暇なんてあったのか?

「書類審査、筆記審査、実技審査、面接と。見事にすべて合格しまして、第六師団勤務になりましたのよ!」

 しかもすでに合格済み!
 いったい、いつ審査を受けた?

「え、エレバウト。そういうことは、応募する前に上司に相談するものじゃないのか?!」

「あら?」

 口に手を当てるエレバウト。

「あら、じゃないだろう!」

 いまさらエレバウトに手順だなんだと、うるさいことを言うつもりはないが。
 いくらなんでも、唐突すぎる。
 何より、塔長に話をしないと。

 そうそう。塔長といえば、

「そもそも、君は塔長室勤務希望だっただろう!」

「ええ! ですので、直接、レクシルド様に希望を伝えましたの!」

 はぁぁぁ? 直接だと?!

 エレバウトの口から衝撃的な話がポンポンとおもしろいように出てきて、頭の整理が追いつかない。

「直接?! 塔長に直接言ったのか?!」

「ええ! ですけど、あたくしの技能では無理だと断られましたの!」

「断られた?! ま、まぁ、それは残念だったな」

 技能というより、この性格と無駄な行動力が塔長室向きではないよな。

 しかし、塔長も人が悪い。本人に直接伝えてしまうだなんて。
 いや、エレバウトの性格なら直接はっきり言った方が話が早かったのか?

 エレバウトの衝撃的な話は、まだまだ続く。

「ええ! そのときにレクシルド様から、塔長室よりもいい職場があると教えていただきましたの!」

「は? いい職場?」

「ええ! それで応募してみましたのよ!」

「つまり、塔長の紹介だったと?」

「ええ! その通りですわ!」

 うむむむむむむ。

 塔長の紹介で応募したとなると、あまり強くも言えない。

「レクシルド様からの紹介を、無碍にするわけにもいきませんでしょう?」

「いや、それはそうだが」

 だとしても、こっちにも一言あって然るべきだろう。

「そういうわけでございますわ!」

「いや、どういう訳だ?!」

「室長にもお話がいってるはずだと思いますけど、心当たり、ございませんの?」

 確かに。

 塔長が紹介したのなら、塔長から話があってもいいはずだ。
 そして、正式な辞令の前に、内示があるはずなんだが。

「いや、話なんてまったく」

「お手紙もございませんの?」

「いや、手紙なんてまったく」

「おかしいですわねぇ」

 確かにおかしい。
 エレバウトと二人して、首を傾げる。

 傾げてみても答えが出てくるわけでもない。何かが変わるわけでもない。

 エレバウトは性格と言動はとんでもないが、鑑定官としての能力的は問題ない。むしろ優秀だ。

 そのエレバウトが抜けてしまう。

 エレバウトが抜けた穴を塞ぐべく、準備を進めていかなければならない。

 まずはスケジュールだ。

「それでいつ異動になるんだ?」

「明日ですわ!」

 ゲホッ

「は? 明日?!」

 なぜ、前日に言う?
 時間、まったくないぞ?!

「それでは、あたくし、引継と片付けがございますので!」

「は? はぁ? はぁぁぁぁ?」

 エレバウトは最後まで、エレバウトだった。




「あぁ、そろそろ来る頃だと思ったよ」

 その日の終業後、時間をとってもらい第一塔長と面会をした。

「君の重荷を減らそうと思ってね」

 塔長は穏やかに話すが、視線が鋭い。

「エレバウト君が異動すれば、君の『エレバウトをどうにかする』業務がなくなるだろう?」

 あれは業務だったんですね。

 はぁ、やられた。

 どうりで連絡や内示が来ないはずだ。

 エレバウトの応募やら審査やらに、私が気づくかどうかも含めて、すべて業務の内だったということだ。

 気づかなかった、ということは業務を全うできなかった、と受け取られたわけだ。

 気持ちが萎える。

 でも、気になることもある。
 私は恐る恐る、塔長に質問した。

「でも、第六師団に異動させていいんですか?」

「何か問題でも?」

「クリムゾンのクロエル様もあそこですよね?」

 あの方は、塔長室から第六師団長に異動になったと聞いた。
 エレバウトはクロエル様に絡みまくったのが原因で、塔長に目を付けられたんじゃなかったか。そうだったよな。

「あぁ、そのことか」

 事も無げに塔長が答える。

「問題ないよ。あそこにはラウゼルトがいるからね」

 ドラグニール師団長はクロエル様の夫君だ。師団長がいれば問題ないのか?

「エレバウト君がマズいことをすれば、ラウゼルトがどうにかするだろうから」

 塔長がニタリと笑う。

 バーミリオンのクロエル様にそっくりな笑い方で、思わず、ゾクリとする。

「どうにかって…………」

 まさか消される?
 絡んだくらいでそこまでするか?

 いや、相手は最強竜種の第六師団長だ。
 何をされるか分かったものじゃない。

 クロエル様の就業当初、クロエル様を害したとされる十名あまりが消息不明になっていると聞いた。

 握った手のひらがしっとり汗ばむ。

「君が気にする必要はない」

 塔長は私の思考を打ち消すかのように、そう言った。
 そして、面会終了を宣言するように手を挙げる。

 エレバウト、第六師団で無事に生き残ってくれ。

 塔長室を後にした私は、心の奥底からそう願ったのだった。
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