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6 討伐大会編

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「なんだよ、お前らも分からないのか。使えないやつらだな」

 ブゥーーーン

 腐れ魔種がまた魔力を唸らせる。

「こんなところで話し込んでないで、他を探した方が良かったな」

 腐れ魔種のやつ。俺たちに仕掛けてくるつもりかよ。
 手のひらの魔法陣は片手だけでなく、両手のひらに展開されていた。

 腐れ魔種の片手が翻る。

 次の瞬間、魔力の飛礫がドッとこっちに押し寄せた。

 とはいえ。

 こっちも竜種と護衛の精鋭が揃っている。そう簡単には上位魔種にも負けないくらい。

 予想通り、腐れ魔種の魔力礫は軽々と避けられていった。

 そんな中、ドラグゼルンがのほほんとした声をあげる。

「どうするよ、師団長。俺もさっさと合流した方がいいと思う。魔種と意見が合うのは気に食わないけどな」

 ドラグゼルンを皮きりに、デルストームとカーネリウスが同じく、のほほんとした声をあげた。

「こっちは今、補佐官不在な上、魔狼がどんどん組織的な動きを見せてますから」

「それに、クロエル補佐官の居場所なら分かりますよね」

 普通竜種たちののほほんとした声に、腐れ魔種が反応し、もう片方の手を翻す。

「はぁ? 適当なことを言うなよ」

 今度は別方向から、同じような魔力礫が飛んできた。

「師団長は伴侶だからな。当然、居場所くらい簡単に分かるぞ。だよな、師団長」

「あぁ。俺とフィアは愛の鎖で繋がっているんだ。目を閉じていても、フィアのいる場所くらいすぐ分かる」

 そしてフィアの体調だって。

 俺は集中してフィアの魔力を探る。すると、すぐにフィアの気配が感じられた。体調は問題ないが、なんだか気持ち悪そうだ。

 ん? なんで、フィアが気持ち悪がってるんだ?

 俺の意識がそれた隙をついて、間髪入れず、ベルンドゥアンが身も蓋もないことを言う。

「愛の鎖じゃなくて執着の鎖ですよね」

 ベルンドゥアン以外の、全員が黙り込んだ。




「…………………………そういうことか」

 腐れ魔種が重い口を開く。悟ったような目は俺をまっすぐ見つめていた。

「諦めるんだな」

「残念だけど、俺は諦めの悪い男でね」

 視線を逸らさず、腐れ魔種は俺に近づいてくる。

「契約なんて、いつでも破棄できるし。愛情なんて、いつ移ろうとも限らない。鎖なんて、いつの間にか千切れるものさ」

 不吉なことを言いながら、俺の目の前までやってきて、ニヤリと笑う。

「だろ? 黒竜殿」

 参加チームを攻撃するのは禁止なんていうルールさえなければ、今すぐにでも首を跳ねてやりたい。

 俺はそんな気分になっていた。

 反論できないところがなんとも悔しい。

「しっかし、居場所が分かってるなら、なんで分からない振りをしたんだ?」

「お前をからかうために決まってるだろ」

 悔し紛れにそう言ってはみるものの、そもそも、知ってると言わなかっただけ。知らない振りなどしてないけどな。

「トカゲは本当に性格悪いよな」

「お前だって。参加チームを攻撃するのはルール違反だろ!」

「攻撃? ちょっとした肩慣らしだろ。それともお前、この程度で『攻撃されてる』になるのか。ほぉぉぉ」

「いちいちムカつくやつだな」

 そっちがそういうつもりなら、こっちだって負けてはいられない。

 俺はゆるりと破壊の双剣を顕現させる。

 と、そのとき。

「!」

 ふと、嫌な予感がした。

「緊急事態だ」

 俺の言葉を聞き、竜種たちも護衛二人も表情を変えた。
 竜種たちからはのほほんとした雰囲気がなくなり、護衛からには緊張が走る。

 目の前の腐れ魔種だけが、訳の分からない顔をしていた。

「黒魔。お前、空、飛べるな?」

「あ? あぁ、できなくはないな」

 フィアのそばに嫌な物がいる。

 この際、なんだかんだ言ってる場合ではない。フィアの安全が最優先。
 あの可憐でかわいらしいフィアのことだ。きっと、嫌な物を目にして震えている。

 ……………………。

 ちょっと違うな。さすがに震えたりはしないか、気持ち悪がるくらいか。
 あぁ、さっき探ったときに感じたのは、この気持ち悪さか。

 俺は気持ち悪がるフィアを想像した。

 あぁ、気持ち悪がるフィアもかわいい。

 俺は大きく頷くと、腐れ魔種の肩をパシッと叩いた。

「それなら、上から先にフィアのところに行け」

「あぁ?」

「俺は下を走っていく。上からの方が速いはずだ」

 ここからフィアのところまで直線距離で行くにしても、地面を走るのと空を行くのでは、前者が不利。

 ならば、あらかじめ有利なやつを取り込んでおいた方がいい。それに守りに関してはこいつに分がある。

「急にどうした。俺に先を譲るとは何か魂胆でもあるのか?」

「マズいものがフィアのそばにいる」

 不振がる腐れ魔種に対して、俺は正直に説明した。

「なんだと?!」

「フィアの安全が最優先だ。先に行って、その守護の神器でフィアを守れ」

「そういうことなら、言われなくてもそうするさ」

 つかつかと俺は腐れ魔種に近づく。

「で、どこにいるんだ?」

「あぁ、こっちの方角だ」

 俺は腐れ魔種の片腕を取り、もう片方の手で襟首をつかんだ。

「こっちか。って、待て待て待て、まさか、俺を投げるつもりじゃないよな。痛い、やめろよ、待て待て待て」

「安心しろ。飛ぶ勢いをつけてやるだけだ」

 俺は肩に腐れ魔種を担ぎ上げる。

「安心できるか! やっぱり投げるんじゃないか!」

「ほら、無様に飛んでいけ!」

 腰を引き身体をひねると、ジタバタする腐れ魔種を思いっきり放り投げた。

 喚きながらどんどん小さくなる魔種。

 空の高みでゆらっとバランスを崩したかと思うと、灰色の翼のようなものを大きく広げた。

 少しの間、そのまま浮かんでいたが、目的の場所を見つけたようだ。あっという間に、樹林に隠れて見えなくなる。

 俺たちも素早く移動しなくては。ここからはだいぶ距離がある。

 俺は振り返って、皆に視線を送った。
 皆もやる気は十分そうだ。

 さて。

「俺が着くまで、引き続き頼んだぞ」

 俺は宙に向かって、誰ともなくつぶやいた。
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