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7 帝国動乱編
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「さっさと終わりになって良かったですわね!」
ルミアーナさんの声が響き渡る。そして私は曖昧に返事をする。
「うーん、終わりになったっていうか、なんていうかー、ねー」
いっしょに訓練場の外周を走りながら。
幹部会議は、結果として現状確認と情報共有が中心となった。先への進展は、方針やら方向性やらを確認した程度。
まぁ、スヴェート開催を承諾するかどうかがようやく決まった段階なので、今、これ以上できることはない。
会議が終わって、少し身体を解そうかということで、私たちは突撃部隊の訓練にお邪魔していたのだ。
「クロエル補佐官はともかく、エレバウトさんが普通に突撃部隊の訓練をしている」
「あら、カーネリウスさん。何事も慣れですわ」
慣れ? 慣れればついていけるようになるんだろうか。第六師団一、戦闘力の高い突撃部隊の訓練なのに。
カーネリウスさんも同じことを思ったようで、「は?」と一瞬ぽかんとした顔をした。突撃部隊の騎士も同じ顔をしている。
ルミアーナさんは最初から突撃部隊の訓練には混じっていた。いっしょに走っていた。でも、最初の頃は平均より後ろだった。なぜか、今では平均より前に位置している。
これを慣れというのなら、慣れなんだろう。
私は元気なルミアーナさんと呆れるカーネリウスさんの顔を見ながら、会議の話を思い出していた。
「なら決まりだな。スヴェート開催」
テラの言葉にラウが質問を投げかける。
「スヴェートに乗り込んで、で、具体的にはどうするんだ?」
「それはまたこれから考えるんだろ」
「王族、赤種、竜種は式典参加だろ。あとは誰が同行するんだ? 人数は?」
「それもこれから考えるんだろ」
テラの返事は投げやりなものだった。スヴェート開催が決まっただけだしね。そうなるよね。
「参加は例年通りなら、王族や代表者が各国一、二名、赤種は全員、上位竜種二名、普通竜種数名、上位魔種二名。あとは護衛や世話係だ」
塔長が丁寧に解説してくれるので、この話を参考にして、事前準備をすればいいのだろう。
式典への参加者以外にも人が動くので、念入りな準備が必要だった。罠が仕掛けられているかも、と思うと余計に。
「今回、混沌の樹林の状況から封印を強化する儀を大々的にする必要がある、とスヴェートに伝えてある」
「規模は同じかそれ以上か」
規模が大きければ、連れて行く人数も自然と多くなる。余分な人数が多少混じったとしても不自然に思われない。
逆にいえば、入国する人数が多くなる分、スヴェートの監視も厳しくはなりそうだ。
私はありとあらゆることを頭の中に入れておくようにしよう。
「開催場所の決定を伝えて、準備を行って、となるから開催は今月末、具体的な人数は今月中旬に分かる」
「なるほど」
「具体的な方向性だが…………」
こうして話は具体的な部分まで進んだ。
が。
「けっきょく、具体的な方向性とは言っても、いつもより強固な封印の儀を行うってだけじゃないですかー」
走りながらも、カーネリウスさんの独り言がうるさい。
別に私の独り言が聞こえたわけではないと思うけど、カーネリウスさんもさっきの幹部会議を思い出して走っていた模様。
「カーネリウスさん、分かってらっしゃらないんですの?」
同じく走りながら、ルミアーナさんが応じる。
「だって、それだけですよね?」
「強固な封印の儀をすれば、復活しかけているのを阻止できますわ!」
「当然、向こうも邪魔してきますよね」
「他国の目もありますし、邪魔した方々を堂々と始末できますわ!」
「エレバウトさん、言葉選びが怖い」
「感情の神が出てくれば、そこで仕留められますわ!」
カーネリウスさんがブツブツ言いたくなる気持ちも分からなくはない。
けっきょく方向性ってやつを聞いて、具体的にどうしようかと考えて、決めていくのは、副官のカーネリウスさんたちだ。
スヴェート開催、いつもより強固な封印の儀。この二つだけでは、決めようがないのが現状。
「クロエル補佐官を狙ってるんですから、絶対に接触はしてきますよね。危なくないんです?」
意外とカーネリウスさんは心配症なことを言う。
私は走りながら、カーネリウスさんの心配に答えてあげた。
「だって、私、破壊の赤種だし。名もなき混乱と感情の神が封印される前も、直接対峙したのは破壊と終焉だったんだし」
「でもでも、今、終焉の赤種様って覚醒してないじゃないですか!」
「うん。つまり、今回、終焉の出る幕はないってこと」
世の中、偶然、起きることなんてない。ぜんぶ、必要があって起きている。
だから、終焉の力が必要であるなら、きっと終焉は目覚めているはずだ。
「じゃあ、クロエル補佐官がひとりで対決するんですか?!」
ガツッ
「痛っ!」
模擬刀で手合わせをしている集団の方から、何かが飛んできた。
走っていたカーネリウスさんの頭に見事にぶち当たる。
うん、こんなことをするのは一人しかいない。
「うるさいぞ、カーネリウス!」
ラウだ。
本当は、私といっしょに基礎訓練の方をする予定だった。ところが、突撃部隊の騎士たちに手合わせをお願いされて、急遽、別々に。
訓練の一環だから、機嫌が下降することはなかったけど。
カーネリウスさんが私といっしょなのは、気に入らないようだ。
「だって、心配じゃないですか!」
「私より弱いカーネリウスさんに心配されてもな」
ボソッと返した。
「ううっ、それはそうですが! 師団長は心配じゃないんですか? 師団長のお相手様ですよ?」
ガゴッ
「痛っ!」
「黙れ、カーネリウス!」
今度は人の頭ほどの大きさの氷塊が、カーネリウスさんを直撃した。
「ラウ、カーネリウスさんが死んじゃう」
「一度、死ね」
さすがに今度は走っていられず、頭を抑えてうずくまる。
私もルミアーナさんも、うずくまったカーネリウスさんのそばに立ち止まった。
「カーネリウスさん、心配しないで。私にはラウがついているから」
「フィア! フィアには俺がついてるぞ! 一生!」
「そこで惚気ですか! 捕獲成功者、羨ましすぎる!」
うん、このくらい大声が出せるのなら、身体に異常はないな。
「まぁ、カーネリウスさんは一生独身ですわね」
ルミアーナさんが酷いことを言っているのを、皆、聞かなかったフリをして、訓練は終了となった。
ルミアーナさんの声が響き渡る。そして私は曖昧に返事をする。
「うーん、終わりになったっていうか、なんていうかー、ねー」
いっしょに訓練場の外周を走りながら。
幹部会議は、結果として現状確認と情報共有が中心となった。先への進展は、方針やら方向性やらを確認した程度。
まぁ、スヴェート開催を承諾するかどうかがようやく決まった段階なので、今、これ以上できることはない。
会議が終わって、少し身体を解そうかということで、私たちは突撃部隊の訓練にお邪魔していたのだ。
「クロエル補佐官はともかく、エレバウトさんが普通に突撃部隊の訓練をしている」
「あら、カーネリウスさん。何事も慣れですわ」
慣れ? 慣れればついていけるようになるんだろうか。第六師団一、戦闘力の高い突撃部隊の訓練なのに。
カーネリウスさんも同じことを思ったようで、「は?」と一瞬ぽかんとした顔をした。突撃部隊の騎士も同じ顔をしている。
ルミアーナさんは最初から突撃部隊の訓練には混じっていた。いっしょに走っていた。でも、最初の頃は平均より後ろだった。なぜか、今では平均より前に位置している。
これを慣れというのなら、慣れなんだろう。
私は元気なルミアーナさんと呆れるカーネリウスさんの顔を見ながら、会議の話を思い出していた。
「なら決まりだな。スヴェート開催」
テラの言葉にラウが質問を投げかける。
「スヴェートに乗り込んで、で、具体的にはどうするんだ?」
「それはまたこれから考えるんだろ」
「王族、赤種、竜種は式典参加だろ。あとは誰が同行するんだ? 人数は?」
「それもこれから考えるんだろ」
テラの返事は投げやりなものだった。スヴェート開催が決まっただけだしね。そうなるよね。
「参加は例年通りなら、王族や代表者が各国一、二名、赤種は全員、上位竜種二名、普通竜種数名、上位魔種二名。あとは護衛や世話係だ」
塔長が丁寧に解説してくれるので、この話を参考にして、事前準備をすればいいのだろう。
式典への参加者以外にも人が動くので、念入りな準備が必要だった。罠が仕掛けられているかも、と思うと余計に。
「今回、混沌の樹林の状況から封印を強化する儀を大々的にする必要がある、とスヴェートに伝えてある」
「規模は同じかそれ以上か」
規模が大きければ、連れて行く人数も自然と多くなる。余分な人数が多少混じったとしても不自然に思われない。
逆にいえば、入国する人数が多くなる分、スヴェートの監視も厳しくはなりそうだ。
私はありとあらゆることを頭の中に入れておくようにしよう。
「開催場所の決定を伝えて、準備を行って、となるから開催は今月末、具体的な人数は今月中旬に分かる」
「なるほど」
「具体的な方向性だが…………」
こうして話は具体的な部分まで進んだ。
が。
「けっきょく、具体的な方向性とは言っても、いつもより強固な封印の儀を行うってだけじゃないですかー」
走りながらも、カーネリウスさんの独り言がうるさい。
別に私の独り言が聞こえたわけではないと思うけど、カーネリウスさんもさっきの幹部会議を思い出して走っていた模様。
「カーネリウスさん、分かってらっしゃらないんですの?」
同じく走りながら、ルミアーナさんが応じる。
「だって、それだけですよね?」
「強固な封印の儀をすれば、復活しかけているのを阻止できますわ!」
「当然、向こうも邪魔してきますよね」
「他国の目もありますし、邪魔した方々を堂々と始末できますわ!」
「エレバウトさん、言葉選びが怖い」
「感情の神が出てくれば、そこで仕留められますわ!」
カーネリウスさんがブツブツ言いたくなる気持ちも分からなくはない。
けっきょく方向性ってやつを聞いて、具体的にどうしようかと考えて、決めていくのは、副官のカーネリウスさんたちだ。
スヴェート開催、いつもより強固な封印の儀。この二つだけでは、決めようがないのが現状。
「クロエル補佐官を狙ってるんですから、絶対に接触はしてきますよね。危なくないんです?」
意外とカーネリウスさんは心配症なことを言う。
私は走りながら、カーネリウスさんの心配に答えてあげた。
「だって、私、破壊の赤種だし。名もなき混乱と感情の神が封印される前も、直接対峙したのは破壊と終焉だったんだし」
「でもでも、今、終焉の赤種様って覚醒してないじゃないですか!」
「うん。つまり、今回、終焉の出る幕はないってこと」
世の中、偶然、起きることなんてない。ぜんぶ、必要があって起きている。
だから、終焉の力が必要であるなら、きっと終焉は目覚めているはずだ。
「じゃあ、クロエル補佐官がひとりで対決するんですか?!」
ガツッ
「痛っ!」
模擬刀で手合わせをしている集団の方から、何かが飛んできた。
走っていたカーネリウスさんの頭に見事にぶち当たる。
うん、こんなことをするのは一人しかいない。
「うるさいぞ、カーネリウス!」
ラウだ。
本当は、私といっしょに基礎訓練の方をする予定だった。ところが、突撃部隊の騎士たちに手合わせをお願いされて、急遽、別々に。
訓練の一環だから、機嫌が下降することはなかったけど。
カーネリウスさんが私といっしょなのは、気に入らないようだ。
「だって、心配じゃないですか!」
「私より弱いカーネリウスさんに心配されてもな」
ボソッと返した。
「ううっ、それはそうですが! 師団長は心配じゃないんですか? 師団長のお相手様ですよ?」
ガゴッ
「痛っ!」
「黙れ、カーネリウス!」
今度は人の頭ほどの大きさの氷塊が、カーネリウスさんを直撃した。
「ラウ、カーネリウスさんが死んじゃう」
「一度、死ね」
さすがに今度は走っていられず、頭を抑えてうずくまる。
私もルミアーナさんも、うずくまったカーネリウスさんのそばに立ち止まった。
「カーネリウスさん、心配しないで。私にはラウがついているから」
「フィア! フィアには俺がついてるぞ! 一生!」
「そこで惚気ですか! 捕獲成功者、羨ましすぎる!」
うん、このくらい大声が出せるのなら、身体に異常はないな。
「まぁ、カーネリウスさんは一生独身ですわね」
ルミアーナさんが酷いことを言っているのを、皆、聞かなかったフリをして、訓練は終了となった。
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