精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

3-0 変転の末に掴んだもの

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 もやっとした次の瞬間、視界がさっと明るくなった。

「あれ?」

 何も変わってない?

 確かに転移した感触はあったのに、部屋の感じはさっきとまったく同じだった。

「転移、したの?」

 自然と疑問が口をつく。

 私以外の人たちも同じように感じたらしく、私の疑問に対するテラの答えをじっと待っていた。

 テラは皆の注目を浴びてもなお、平然としている。

「あぁ、ここはスヴェートにある大神殿の転移の部屋だ」

「さっきとまったく同じなんだけど」

「当たり前だろう! 転移の部屋はどの大神殿も同じ造りだ!」

 そういう話は先にしておいてほしい。

「なんだ、転移が失敗したのかと思った」

「転移に失敗する赤種なんて、四番目くらいだ」

 私の反応にテラが毒づく。
 言い返せないのがなんとも悔しい。

「とにかく、まずは窪みから出て。神官長、案内をよろしく。僕らはメイとザイオンにすぐに行かないといけないから」

 険悪になりかけた私とテラの間に、二番目が割って入った。

 神官長?

 そういえば、エルメンティアの神官長とは違う人がいる。
 エルメンティアの神官長はお金にがめつい人だったけど、こっちの神官長はどんな人だろう。

「承知しました。ささ、皆様、どうぞこちらへ」

 神官長の落ち着いた声が、部屋に響き、神官たちが私たちに移動を促した。

「この大神殿の中はスヴェート皇帝の力の影響は受けません。ですから、ここは安全だと思ってください」

 慈愛に満ちた、という表現がピッタリな優しい笑顔。スヴェートの神官長は初老の女性だった。お金臭さはない。

「本当か? 安全だと言い切るときに限って安全じゃない場合が多いぞ」

「まぁ、ラウの心配も分からなくはないけど」

「心配に思われるのももっともです」

 神官長は、ラウの身も蓋もない乱暴な言いぐさにも声を荒げることはなかった。

 移動中のため、歩きながらでの会話であることを謝罪してから、説明が付け加えられる。

「ただ、各国の大神殿はデュク様の力の加護が強い場所に建てられており、ここも例外ではありません」

 私は今歩いている回廊の天井を見上げた。天から白い光が降り注いでくるのが分かる。

「うん、確かに。デュク様を感じる」

 そもそも、大神殿は神様の住まい。

 ここにデュク様が住んでいるのと同じなのだから、デュク様の加護がない方がおかしいのだ。

 そして、デュク様以外の三神、ザリガ様とバルナ様も感じ取れた。心が穏やかになる。
 これは赤種である私だから感じられるものだろう。

「エルメンティアと違い、ここ以外の場所は始まりの三神の加護がありませんので、ご注意ください」

「スヴェートは、豊穣の神アグス様の加護が強いんだったよね」

「あとは、破壊の神と守護の神の加護もあったんじゃなかったか?」

 名もなき混乱と感情の神が混沌の樹林に姿を変えた後、その周りを神様が取り囲んで大地に姿を変えた。そしてその土地に神様の加護が宿った。

 大神殿はそう伝えている。

 スヴェートの辺りには、豊穣の神の加護が強い土地だ。北であるにも関わらず、温暖で土壌も豊かな土地が多い。

 大地の豊富な実りによって、人々の生活は潤い、人々の心も潤う。スヴェートは本来はそういった国だった。

 エルメンティアとは違った豊かさを持つ国。それが多くの人が持つスヴェートの第一印象だ。

 圧制や暴政などが起きる国だとは想像もつかない。

「さようでございます。一番強いのは豊穣の神、次に守護の神です。破壊の神の加護は多少あると言った程度でしょうか。
 そのためスヴェートは昔から守りに強い国家として存在しておりました」

 神官長の説明からも、豊かで強い国だというのが見て取れるものだった。

「ですが、今のスヴェートは昔の面影がないほど、荒れ果てております」

「え? 神様の加護があるのに?」

「ミンゼ様の加護があっても、人が加護をよい方向に生かそうとしなければ、国は荒れるんです」

「十年前のクーデターか」

 ラウが苦々しい口調でつぶやいた。

 十年前のクーデター。

 国が荒れたからクーデターが起きたと思っていたけど、クーデターが起きたから国が荒れてしまったんだ。きっと。

 当時、私はまだ赤種ではなかったし、そのときの家族ともまだギスギスしていなかった。
 クーデターの話を聞くことはあっても、遠い遠いどこか別の世界の話のように感じていたはずだ。

 ふと、ラウが急に話題を変えた。

「まぁ、破壊の神の加護が少しでもあるなら、破壊の魔剣はそれなりに期待できるな」

 ラウは竜種。

 竜種の加護はエルム様の加護だから、スヴェートではおそらく、エルメンティアほどの力が出せない恐れがある。

 その恐れが少しなくなったというか。ラウはさらりと乗りきったようだ。

 ラウの魔剣が期待できるなら、私の魔剣も大丈夫だろう。私も少し気持ちが軽くなった。

 神官長がとある部屋の前で立ち止まると、部屋の前にいた神官たちが、扉を開ける。

 案内されたのは、明るい広々とした一室。部屋の隅のテーブルには立食形式で食事や菓子が用意されていて、給仕もいる。

 まぁ、王族もいるからこその対応なんだろうけど、朝早く出てきたので、ちょっとありがたい接待だ。

「軽食をご用意してありますので、しばらくこちらでくつろいでくださいませ」

 神官長はそう言って一礼すると、部屋を後にした。残った私たちは、それぞれ席につき、一息つくのだった。
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