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7 帝国動乱編
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私の目の前に白い猫がいる。
そのそばには白金に輝く竜もいた。
あれ? さっきまでラウに抱えられていたはずなんだけどな。
気が付いたら、私は広い空間にいた。
ポツンとひとり、そこに存在している。
広い空間は薄暗くてガランとしていて、あちこちに大きな姿見が浮かんでいる。
姿見にはいろいろな人や場面が映っていた。
そう。ここは時間と空間の狭間にある、神様たちが住まうところ。
現実の世界で意識を失った私は、いつの間にか、ここに飛ばされたらしい。
私は広間の床にペタンと座り込んでいて、そんな私を猫と竜が心配そうに覗き込んでいた。
私はぼーっとしながら、目の前の二匹を眺める。
白い猫の白い毛並みはツヤツヤフサフサで、見た目からして滑らか。触り心地は抜群だろう。
思わず、撫でたくなって手を伸ばして。
そして、はっとして思い出す。
「デュク様。それとエルム様?」
私の声を聞き、二匹は嬉しそうに身体を震わせた。
「ヨク頑張ッタ、破壊」
「コレデ、シバラクハ、感情ハ動ケナイ」
「アナタモ、ユックリ、デキルカラ」
神様がかわいらしい声を出した。
見た目もかわいいけど、声もかわいい。
かわいいに囲まれて、私は幸せな気持ちになった。
周りに浮かぶ姿見とそこに写り込む様々な人や物を頭から追い出し、私は気になっていたことを神様に訊ねてみる。
「ねぇ、デュク様。私、消えたの?」
探せば、私が意識を失った後のラウが映る姿見があるはずだ。
今、ラウはどうしているのか。
心配でならない。
姿見を探して、ラウを見たいような見たくないような、そんな気持ちになった。
悲しんでいたらどうしよう。
もしかしたら、カーシェイさんのようになっているかもしれない。
でも、そんなラウは見たくないし、見たところでここからは何もできないことは分かっていた。
「ユックリ、シテルダケ」
私の不安を感じ取ったのか、デュク様は赤い眼で心配そうに私を見ながら、質問には淡々と答える。
なんの説明もなく、短い返答。
もともと、神様たちは鳴くのがメインで、多くを語らない。
「ゆっくりしてるだけなんだね?」
「心配シナイデ、ユックリ、シテ」
デュク様はゆっくりを繰り返す。
私は顔を伏せた。
「分かった。神様たち。ちょっと疲れたから、ゆっくりするね」
デュク様のゆっくりが何を意味するのかは分からない。
でも、しばらくの間はここにいないといけないことが、なんとなく、分かった。
私は顔を伏せたまま、デュク様に質問を重ねる。
「ねぇ、デュク様。ゆっくりしたら、ラウのところに戻れる?」
「今ハ、ユックリ、シテ」
「ユックリスレバ、分カルカラ」
デュク様とエルム様が答えてくれたものの、返事はやっぱり、ゆっくりだった。
ゆっくり。
「ゆっくりって、何をどうすればいいのかな」
「「?」」
きょとんとした顔をする神様たち。
考えてみれば、私は『ゆっくり』したことがない。
破壊の赤種クロスフィアになる前、技能なしで家族から疎まれていたネージュ・グランフレイムだったころは、朝から晩まで、勉強と訓練に追われていた。
頑張ればいつかは家族として、役に立つ人間として見てもらえる。そんな、淡い希望を胸に、追い立てられるようにして頑張っていた。
赤種として覚醒してからも、暇を持て余すのが苦手で。忙しいくらいが丁度いいと、仕事をしたり料理を作ったりラウの相手をしたり。
ネージュのころの追い立てられるような感じとはまったく違うけど、いそいそと暮らしていたような気がする。
「私、ゆっくり、したことないから」
「「!」」
これには神様たちがビックリしたようで、はぁぁぁ?!という顔になった。
いや、猫と竜だから、人間とは根本的に違うけど。絶対にビックリ顔。
私の返答に、デュク様もエルム様もビックリした後に困った様子を見せた。
いやー、そういう感じになられても、こっちだって困るのに。
顔を見合わせるデュク様とエルム様。
しばらく、もぞもぞとなにかやっていたと思ったら、突然、デュク様がにゃーと鳴いた。
すると、にゃー、にゃー、と別の鳴き声。鳴き声から遅れて、デュク様より一回り小さい猫たちが姿を見せた。
ザリガ様とバルナ様だ。
四匹が集まって、もぞもぞと何かをし始めた。
うん、かわいい。見ているだけでかわいい。これがゆっくりするってこと? こんなゆっくりもいいかもしれない。
私がニマニマしながら、四匹を見ていたら、四匹がくるっと頭を私の方に向ける。
「昔話ヲ聞カセテ、アゲル」
「え? 突然?」
「昔話ヲ聞キナガラ、ユックリ、スル」
「あぁ、そういうこと」
どうやら神様たちは、『昔話を聞かせてゆっくりさせよう』という作戦でいくようだ。
せっかく聞かせてくれるのならと、私はリクエストすることにした。
「それなら、デュク様。最初の破壊の昔話を聞かせてくれる?」
エルム様に助けられ、名もなき混乱と感情の神を破壊して、消えていったという破壊の赤種。
感情の神が未だに忘れられずに執着している最初の四番目の話を。
神様たちは頷き合うと、ポツリポツリと語ってくれた。最初の赤種たちの悲しい話を。
私は神様たちの話を聞きながら、いつの間にか、眠りに落ちた。
そのそばには白金に輝く竜もいた。
あれ? さっきまでラウに抱えられていたはずなんだけどな。
気が付いたら、私は広い空間にいた。
ポツンとひとり、そこに存在している。
広い空間は薄暗くてガランとしていて、あちこちに大きな姿見が浮かんでいる。
姿見にはいろいろな人や場面が映っていた。
そう。ここは時間と空間の狭間にある、神様たちが住まうところ。
現実の世界で意識を失った私は、いつの間にか、ここに飛ばされたらしい。
私は広間の床にペタンと座り込んでいて、そんな私を猫と竜が心配そうに覗き込んでいた。
私はぼーっとしながら、目の前の二匹を眺める。
白い猫の白い毛並みはツヤツヤフサフサで、見た目からして滑らか。触り心地は抜群だろう。
思わず、撫でたくなって手を伸ばして。
そして、はっとして思い出す。
「デュク様。それとエルム様?」
私の声を聞き、二匹は嬉しそうに身体を震わせた。
「ヨク頑張ッタ、破壊」
「コレデ、シバラクハ、感情ハ動ケナイ」
「アナタモ、ユックリ、デキルカラ」
神様がかわいらしい声を出した。
見た目もかわいいけど、声もかわいい。
かわいいに囲まれて、私は幸せな気持ちになった。
周りに浮かぶ姿見とそこに写り込む様々な人や物を頭から追い出し、私は気になっていたことを神様に訊ねてみる。
「ねぇ、デュク様。私、消えたの?」
探せば、私が意識を失った後のラウが映る姿見があるはずだ。
今、ラウはどうしているのか。
心配でならない。
姿見を探して、ラウを見たいような見たくないような、そんな気持ちになった。
悲しんでいたらどうしよう。
もしかしたら、カーシェイさんのようになっているかもしれない。
でも、そんなラウは見たくないし、見たところでここからは何もできないことは分かっていた。
「ユックリ、シテルダケ」
私の不安を感じ取ったのか、デュク様は赤い眼で心配そうに私を見ながら、質問には淡々と答える。
なんの説明もなく、短い返答。
もともと、神様たちは鳴くのがメインで、多くを語らない。
「ゆっくりしてるだけなんだね?」
「心配シナイデ、ユックリ、シテ」
デュク様はゆっくりを繰り返す。
私は顔を伏せた。
「分かった。神様たち。ちょっと疲れたから、ゆっくりするね」
デュク様のゆっくりが何を意味するのかは分からない。
でも、しばらくの間はここにいないといけないことが、なんとなく、分かった。
私は顔を伏せたまま、デュク様に質問を重ねる。
「ねぇ、デュク様。ゆっくりしたら、ラウのところに戻れる?」
「今ハ、ユックリ、シテ」
「ユックリスレバ、分カルカラ」
デュク様とエルム様が答えてくれたものの、返事はやっぱり、ゆっくりだった。
ゆっくり。
「ゆっくりって、何をどうすればいいのかな」
「「?」」
きょとんとした顔をする神様たち。
考えてみれば、私は『ゆっくり』したことがない。
破壊の赤種クロスフィアになる前、技能なしで家族から疎まれていたネージュ・グランフレイムだったころは、朝から晩まで、勉強と訓練に追われていた。
頑張ればいつかは家族として、役に立つ人間として見てもらえる。そんな、淡い希望を胸に、追い立てられるようにして頑張っていた。
赤種として覚醒してからも、暇を持て余すのが苦手で。忙しいくらいが丁度いいと、仕事をしたり料理を作ったりラウの相手をしたり。
ネージュのころの追い立てられるような感じとはまったく違うけど、いそいそと暮らしていたような気がする。
「私、ゆっくり、したことないから」
「「!」」
これには神様たちがビックリしたようで、はぁぁぁ?!という顔になった。
いや、猫と竜だから、人間とは根本的に違うけど。絶対にビックリ顔。
私の返答に、デュク様もエルム様もビックリした後に困った様子を見せた。
いやー、そういう感じになられても、こっちだって困るのに。
顔を見合わせるデュク様とエルム様。
しばらく、もぞもぞとなにかやっていたと思ったら、突然、デュク様がにゃーと鳴いた。
すると、にゃー、にゃー、と別の鳴き声。鳴き声から遅れて、デュク様より一回り小さい猫たちが姿を見せた。
ザリガ様とバルナ様だ。
四匹が集まって、もぞもぞと何かをし始めた。
うん、かわいい。見ているだけでかわいい。これがゆっくりするってこと? こんなゆっくりもいいかもしれない。
私がニマニマしながら、四匹を見ていたら、四匹がくるっと頭を私の方に向ける。
「昔話ヲ聞カセテ、アゲル」
「え? 突然?」
「昔話ヲ聞キナガラ、ユックリ、スル」
「あぁ、そういうこと」
どうやら神様たちは、『昔話を聞かせてゆっくりさせよう』という作戦でいくようだ。
せっかく聞かせてくれるのならと、私はリクエストすることにした。
「それなら、デュク様。最初の破壊の昔話を聞かせてくれる?」
エルム様に助けられ、名もなき混乱と感情の神を破壊して、消えていったという破壊の赤種。
感情の神が未だに忘れられずに執着している最初の四番目の話を。
神様たちは頷き合うと、ポツリポツリと語ってくれた。最初の赤種たちの悲しい話を。
私は神様たちの話を聞きながら、いつの間にか、眠りに落ちた。
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