運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

2-8

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 どうにか、今回の調査報告の説明が終わった。聞いてみると実にくだらない。

「つまり、ルベラス君がリーブル君をいじめたとか、意地悪したとか、冷たくしたとかいうのは、根も葉もないデマ、ってことでいいんだね?」

「はい」

 ヴァンフェルム団長が報告を一言でまとめ、それに対して、ティグリルス主任が神妙な顔で同意する。

「それと、ルベラス君がリーブル君の悪口を言ってるというのも、まったくないと」

「事実無根のようです」

「団長室がリーブル君を冷遇しているというのは?」

「リーブル嬢の勘違いですね。あとリーブル嬢の言動を聞いた周りの思い込みといったところです」

 はぁ。

 どれもこれも、確認を取れば分かる話ばかり。なのに、勘違いと思い込みって。
 第三騎士団、こんな人たちばかりで大丈夫なのか、心配になってくる。

「それで、調べて終わりなんですか?」

 私からも質問をしてみた。

 ティグリルス主任はゴホンゴホンと咳払いをすると、かっちりした口調で受け答える。

「今回はかなり悪質であるとこちらも判断いたしました。
 リーブル嬢および第五隊は本部より直接、厳重注意。今回訴えをあげた人物に対しても同様の措置を取っています」

 かっちりと答えただけでなく、内容も申し分ないし、説明の仕方も丁寧だった。取り調べを行って、その精査も公平にしてくれたようだし。非難するところがまったくない。

 非難できるとしたら、あの尋問のときの態度と言葉遣いだろう。それに対しての謝罪だとか言い訳だとか、主任本人からはとくにない。団長もあえて触れない様子だった。

 あらためて観察してみると、見た目、つまり容貌だけでなく、身体の動かし方、声音、発音、口調までも尋問のときとまるで別人である。
 どぎつい感じだったのが、毒が抜けて無個性になったというか。逆に特徴がない。

 ヴァンフェルム団長や他の人たちの様子から察するに、こちらが本来の姿で間違いないようで。

 尋問のときのあの姿と口調は、こちらをわざと怒らせて、様子を見ていたんだろうな。まったく。酷い話である。

 そういえば、パシアヌス様やユースカペル副団長が言ってたな。

 ティグリルス主任は『おふざけが過ぎる』とか『おちょくる』とか。

 騎士団にいると、基本的に同じ騎士団以外の人間と接する機会が少ない。
 それなのに、団長たちはティグリルス主任とは見知った関係のようで、少し気になるところではある。

 まさか、けっこう調査部にお世話になっていて、ティグリルス主任から尋問されまくっているとか?

 変な想像ばかりが、私の頭の中に沸き起こってきていた。

 まぁ、それはそれとして。今後の心配もあるので、団長たちの前ではっきりと確認でもしておこうかな。

「でも、また同じことが起きたら? 私、イラッとして何か壊しちゃうかも」

 ティグリルス主任の反応が見たくて、心にもないことを言ってみた。

「根も葉もない噂を信じた輩から言いがかりをつけられたら、温厚なシアも、イラッとするよな」

 うん、確かに。

 グレイの言葉を聞いて、何かがすとんと胸の奥に落ちた。

 そうだよ。私だって本気で怒っていいんだ。本気でイラッとしてもいいんだ。

 セラだから強い力があるのではない。

 私自身に元々強い力があったから、セラフィアスの主となり、セラと呼ばれるようになった。

 力が強いからこそ、自分を律する必要はある。

 でも、

 自分の素直な気持ちまで封じ込めることはなかったんだ。

 封じ込めすぎて限界がきて、ある日突然、力が一気に暴走するよりは、ときおり抜いた方がいい。だから、たまには本気で感情を発散させてもいいんだ。

 感情の暴走はたまーに、起こす。

 つい最近では、国外公務から帰国したとき。

 クズ男が実の娘の私の前で、養子に迎えた娘を愛する家族だとか大切な家族だとか、ムカつきすぎてよく覚えてないけど、そんなことを言い放ったとき。

 あの時もグレイのおかげで、感情が落ち着いたっけ。

 頼りっぱなしもどうかと思うけど、頼れる人がいるのはとても心強かった。

 今もグレイは私の気持ちに寄り添ってくれている。私は元気に言葉を返した。

「うん。するする。うっかり王宮とか壊しそう!」

「シアがうっかりすると、王宮が全壊するな」

「うん? 王宮って全壊するのかな?」

「しなかったら手伝ってやるから」

 グレイは私の軽い冗談にも呆れることなく付き合ってくれる。私はそんなグレイの優しさに心が少し癒された。

 ところで、グレイの後ろでバルザード卿が「いやいや、お嬢。隊長は本気ですからね!」と叫んで、バタバタと手を振っているような気が。

 うん、見なかったことにしよう。

 なのに、団長も副団長も、私とグレイの他愛ない冗談の言い合いに、本気で突っ込みを入れてくる。大人気ない。

「待て待て待て待て。ルベラス君、うっかり全壊はダメだし、グレイアド、全壊を手伝うってもっとダメだから!」

「この二人ならリアルにやるな」

 バルザード卿は、今度は団長たちの後ろで「隊長とお嬢は、向こうで最凶ペアとか呼ばれてましたからね」などと、余計なことを囁いてるし。

 ティグリルス主任は私たちのやり取りを黙って見ている。

 と、思ったら、小刻みに揺れている。

「お嬢、揺れてるんじゃなくて、震えているのでは?」

「今の話で震えるところなんてあった?」

「恐怖しか感じないと思いますが、ぐ」

 ぐ?

 バルザード卿が最後に変な言葉を出したので、卿の方に顔を向けると、いつの間にか移動していたグレイに殴られていた。

 さらにさらに揺れまくるティグリルス主任を、睨むようにじっと見つめるグレイ。

 うん、これは怖い。

 恐怖しか感じない。

 次は自分がグレイに殴られる番か、と思ってしまう。

 揺れが最高潮に達したところで、

「再度、同様の事例が生じた場合は、降格もしくは停職処分とする旨、上に掛け合いますので!」

 ティグリルス主任がグレイに向かってびしっと敬礼をして、大声をあげた。

 最初はもうちょっと落ち着いた人かと思ったけど、そうでもなかったみたい。

「掛け合うだけ、か」

「掛け合うだけ、なんだ」

「全力で掛け合います!」

 ティグリルス主任の絶叫が部屋の中に響き渡った。
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