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7 王女殿下と木精編
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声をする方に歩んでいくと、そこは食堂でした。わたくしはあまり利用しない王城勤務者専用の場所。
王城勤務者専用といっても、王城の使用人だけではなく、王宮の官僚や王宮魔術師団も利用できる仕組みになっていました。
王族や高級官僚専用の食堂はもちろん、利用者が限定されますけど、他の食堂はどこに勤めていても自由に利用できるのが、利点です。
王宮魔術師団の人間は、王城勤務者専用の食堂を利用するか、ランチを取り寄せるかのどちらか。
わたくしはもちろん、高級志向な第一騎士団の食堂から、ランチの取り寄せ。
ですので、ここ、王城勤務者専用の食堂を訪れるのは初めてでして。
初めての場所に対する戸惑いから、入り口で立ち止まってしまいました。
そもそも、今日はあの苦い塊だけでランチはいただいておりません。それほど、食欲もありませんし。
なのに、活気づいている食堂の雰囲気におされて、食事をしたい気分になってまいりました。
「ぐずぐすしてないで、さっさと入って」
またもや、乱暴な言葉を浴びせられましたけど、入り口で立ち止まるという行為をしたわたくしの落ち度でしょう。
黙礼して、場所を移動すると、
「あんた、ここ、初めてなんでしょ」
先ほどの方が、やはり、乱暴に話しかけてきました。
「あそこでランチを受け取るの」
「今日はAランチがオススメだよ」
痛いのに無理に腕を取られ、連れていかれたわたくしは、やはり同じように無理やりランチを持たされて、さらに、同じテーブルに座らされる羽目に。
「なんて、運のない」
こっそりため息をつくと、致し方なく、わたくしは他の方々に混じって、ランチを口に運び始めました。
くだらない話を聞かされながら、何の料理かも分からない物を食べるわたくし。
「あー、ほらほら、あの子でしょ?」
「あー、あたし、この前も見た見た」
会話の話題は、いつの間にか、どなたかのことに移っていました。
まったく。
他人のことを不躾にも会話の種にするとは、礼儀がなっていないのではなくて?
「フォセルって言ったっけ?」
「彼氏とベタベタしながらランチしていて、気分悪いわー」
「自分とこの食堂でやれっての」
ええっ。フォセルって。
視線の先にいたのは、わたくしが見失ったフォセル嬢その人。やはり、先ほどの声はこちらの食堂から聞こえてきた模様。
騎士服を着た男性と楽しげに会話を楽しんでいる様子です。
この乱暴な口調の方々の肩を持つわけではありませんけど、このように言われても致し方なく思います。
若い女性なのに、男性にべったりくっついて話す。そのような姿を見るのは、これで何度目でしょう。
あの方、本当に、貴族のご令嬢なのかしら。出自を疑いたくなってしまいます。
「あー、そーいえば。あの子、フェルム一族とコンヤクしたんだって」
「えー、カイエン卿じゃないでしょうね」
「フェリクス様が結婚したら、あたし、泣いちゃう」
まぁ、こちらはこちらで話題が上品な物ではありませんけど。
わたくしは食事を取りながら、フォセル嬢の方に意識を集中させました。
すると、聞こえてきたのはこちらよりもさらにくだらない内容だったのです。
「ねぇ、クラウド先輩。婚約もしたんですし、そろそろ呼び名を変えてもいいですよね?」
どうやら婚約というのは、本当のことのようです。隣に並んで座るあの騎士がフェルムなのでしょう。
「もちろん、職場では先輩呼びで通すので、安心してください」
楽しそうに話すフォセル嬢を、楽しくない気持ちで見ていると、どうやら、楽しくないのはわたくしだけではなかったようです。
「職場で先輩呼びって、当たり前じゃないのよ」
「でも、カイエン卿じゃなくて良かった」
「ホントホント。フェリクス様でもなくて良かった」
まぁ、わたくしの周囲に座る方々のうち二人は、たった今、少し楽しい気持ちに戻ったようですけれど。
婚約者と楽しそうにするフォセル嬢と、フォセル嬢を見て不平不満を並べる方々とを、わたくしは交互に眺めて、自分の食事を進めました。
本当は食事ではなく、黒い塊を食べるべきなのですが。大勢の方がいる食堂で筆頭様自ら研究されているような重要な物を、見せびらかすわけにもいきませんから。
と、その時。
「ミライラ。それ、食べて大丈夫なのか?」
フォセル嬢の連れの男性が、咎めるような口調で声を張り上げました。
それって!
こちらからでははっきりと見えませんでしたが、鈍く光る黒い何かを持っているように感じます。
「私の養父の筆頭様に貰ったものです。安全に決まっているじゃないですか」
「でもなぁ、それ。身体に悪そうだぞ?」
「魔力にいい物なんです。ほら、私、五強アクアの主になったじゃないですか!」
あぁ、間違いありませんわ。
黒い塊。
しかし、なんてことでしょう。
フォセル嬢はあの塊を大勢の目があるところで食べようとしていますわ!
しかも、五強の主になったという話は、今度のお披露目会で初めて公表されることになっていたのでは?
あまりにも安易な行動と言動。
あのように考えの浅い方が、筆頭様という後ろ盾を持ち五強の主となるだなんて、やはり、世の中どこか間違っています。
「おい、ミライラ。その話題は」
フォセル嬢の婚約者とやらは、さすがにルールというものをお分かりのご様子。慌ててフォセル嬢を窘めますが、フォセル嬢は気にすることもなく、うふふと笑うだけ。
「大丈夫ですよ、先輩。もうすぐお披露目なんです。知れ渡るのが少し早くなったって、誰も文句なんて言いませんよ」
フォセル嬢の言葉に、「さぁ、どうかしら」と心の中で答えると、わたくしは席を立ちました。
「あ、もう、終わったの? 早いわね」
「どこの部署か分からないけど、相当、忙しいんだね」
「お昼くらい、ゆっくりすればいいのに」
それぞれ勝手なことをいう皆さんに、わたくしは会釈を返すと、食器を下げて、開発部を目指します。
正直、食事の味も香りもよく分かりませんでしたし、そもそも、食事などどうでもいいのです。わたくしはあの塊を食べないといけませんから。
そして、絶対に五強の主となって、あの考えの浅いフォセル嬢にどちらが上なのか、教えて差し上げませんとね。
王城勤務者専用といっても、王城の使用人だけではなく、王宮の官僚や王宮魔術師団も利用できる仕組みになっていました。
王族や高級官僚専用の食堂はもちろん、利用者が限定されますけど、他の食堂はどこに勤めていても自由に利用できるのが、利点です。
王宮魔術師団の人間は、王城勤務者専用の食堂を利用するか、ランチを取り寄せるかのどちらか。
わたくしはもちろん、高級志向な第一騎士団の食堂から、ランチの取り寄せ。
ですので、ここ、王城勤務者専用の食堂を訪れるのは初めてでして。
初めての場所に対する戸惑いから、入り口で立ち止まってしまいました。
そもそも、今日はあの苦い塊だけでランチはいただいておりません。それほど、食欲もありませんし。
なのに、活気づいている食堂の雰囲気におされて、食事をしたい気分になってまいりました。
「ぐずぐすしてないで、さっさと入って」
またもや、乱暴な言葉を浴びせられましたけど、入り口で立ち止まるという行為をしたわたくしの落ち度でしょう。
黙礼して、場所を移動すると、
「あんた、ここ、初めてなんでしょ」
先ほどの方が、やはり、乱暴に話しかけてきました。
「あそこでランチを受け取るの」
「今日はAランチがオススメだよ」
痛いのに無理に腕を取られ、連れていかれたわたくしは、やはり同じように無理やりランチを持たされて、さらに、同じテーブルに座らされる羽目に。
「なんて、運のない」
こっそりため息をつくと、致し方なく、わたくしは他の方々に混じって、ランチを口に運び始めました。
くだらない話を聞かされながら、何の料理かも分からない物を食べるわたくし。
「あー、ほらほら、あの子でしょ?」
「あー、あたし、この前も見た見た」
会話の話題は、いつの間にか、どなたかのことに移っていました。
まったく。
他人のことを不躾にも会話の種にするとは、礼儀がなっていないのではなくて?
「フォセルって言ったっけ?」
「彼氏とベタベタしながらランチしていて、気分悪いわー」
「自分とこの食堂でやれっての」
ええっ。フォセルって。
視線の先にいたのは、わたくしが見失ったフォセル嬢その人。やはり、先ほどの声はこちらの食堂から聞こえてきた模様。
騎士服を着た男性と楽しげに会話を楽しんでいる様子です。
この乱暴な口調の方々の肩を持つわけではありませんけど、このように言われても致し方なく思います。
若い女性なのに、男性にべったりくっついて話す。そのような姿を見るのは、これで何度目でしょう。
あの方、本当に、貴族のご令嬢なのかしら。出自を疑いたくなってしまいます。
「あー、そーいえば。あの子、フェルム一族とコンヤクしたんだって」
「えー、カイエン卿じゃないでしょうね」
「フェリクス様が結婚したら、あたし、泣いちゃう」
まぁ、こちらはこちらで話題が上品な物ではありませんけど。
わたくしは食事を取りながら、フォセル嬢の方に意識を集中させました。
すると、聞こえてきたのはこちらよりもさらにくだらない内容だったのです。
「ねぇ、クラウド先輩。婚約もしたんですし、そろそろ呼び名を変えてもいいですよね?」
どうやら婚約というのは、本当のことのようです。隣に並んで座るあの騎士がフェルムなのでしょう。
「もちろん、職場では先輩呼びで通すので、安心してください」
楽しそうに話すフォセル嬢を、楽しくない気持ちで見ていると、どうやら、楽しくないのはわたくしだけではなかったようです。
「職場で先輩呼びって、当たり前じゃないのよ」
「でも、カイエン卿じゃなくて良かった」
「ホントホント。フェリクス様でもなくて良かった」
まぁ、わたくしの周囲に座る方々のうち二人は、たった今、少し楽しい気持ちに戻ったようですけれど。
婚約者と楽しそうにするフォセル嬢と、フォセル嬢を見て不平不満を並べる方々とを、わたくしは交互に眺めて、自分の食事を進めました。
本当は食事ではなく、黒い塊を食べるべきなのですが。大勢の方がいる食堂で筆頭様自ら研究されているような重要な物を、見せびらかすわけにもいきませんから。
と、その時。
「ミライラ。それ、食べて大丈夫なのか?」
フォセル嬢の連れの男性が、咎めるような口調で声を張り上げました。
それって!
こちらからでははっきりと見えませんでしたが、鈍く光る黒い何かを持っているように感じます。
「私の養父の筆頭様に貰ったものです。安全に決まっているじゃないですか」
「でもなぁ、それ。身体に悪そうだぞ?」
「魔力にいい物なんです。ほら、私、五強アクアの主になったじゃないですか!」
あぁ、間違いありませんわ。
黒い塊。
しかし、なんてことでしょう。
フォセル嬢はあの塊を大勢の目があるところで食べようとしていますわ!
しかも、五強の主になったという話は、今度のお披露目会で初めて公表されることになっていたのでは?
あまりにも安易な行動と言動。
あのように考えの浅い方が、筆頭様という後ろ盾を持ち五強の主となるだなんて、やはり、世の中どこか間違っています。
「おい、ミライラ。その話題は」
フォセル嬢の婚約者とやらは、さすがにルールというものをお分かりのご様子。慌ててフォセル嬢を窘めますが、フォセル嬢は気にすることもなく、うふふと笑うだけ。
「大丈夫ですよ、先輩。もうすぐお披露目なんです。知れ渡るのが少し早くなったって、誰も文句なんて言いませんよ」
フォセル嬢の言葉に、「さぁ、どうかしら」と心の中で答えると、わたくしは席を立ちました。
「あ、もう、終わったの? 早いわね」
「どこの部署か分からないけど、相当、忙しいんだね」
「お昼くらい、ゆっくりすればいいのに」
それぞれ勝手なことをいう皆さんに、わたくしは会釈を返すと、食器を下げて、開発部を目指します。
正直、食事の味も香りもよく分かりませんでしたし、そもそも、食事などどうでもいいのです。わたくしはあの塊を食べないといけませんから。
そして、絶対に五強の主となって、あの考えの浅いフォセル嬢にどちらが上なのか、教えて差し上げませんとね。
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