運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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 フィリアがルベル公爵夫妻に紹介されると、すぐさま、ルベル公爵夫人がフィリアに話しかけてきた。どことなく、寂しそうな笑顔を湛えて。

「会えて嬉しいわ、ロード卿。あなたには聞きたいことがありますの」

 おまけでついていったフィリアは、驚いたことだろう。
 初対面で、しかも、紹介されたばかりなのにいきなり質問を予告されたのだから。

 フィリアの返事も待たずに、ルベル公爵夫人は話を先に進めていく。

「メッサリーナ様は主人と話があるようですから。エンデバート卿とロード卿は、庭の秋バラを見ながら、わたくしとお茶はいかがかかしら」

 公爵夫人に笑顔でそう言われて、フィリアも、当然、エンデバート卿も断ることなど出来なかった。

 断れない二人とは逆に、存在を感づかれておらず自由に行動できる杖たちは、これからの動きをお互いに確認する。

《どうする?》

《しばらくすれば、邸宅内の情報は集まってくるわ》

 ケルビウスはすでに分身をあちこちに放っておいたらしい。

 うん、抜け目がない。というか、知識を得るチャンスは逃さないのがケルビウスだ。ガツガツ感が他の杖より頭抜けている。

《さすが盗み聞きにかけては、右に出る者はいないよね》

 クラヴィスが呆れて揶揄しても、ケルビウスはまったく堪えない様子。

《ホーホッホッホ。誉め言葉だと思っておくわ。それより、この女装の男についていくわよ》

 そして、他を分身に任せ、本体はフィリアたちの後を追った。




 分身は分身でしっかり仕事をこなしていた。

「お手紙でも事前に説明した通りなんですが。二十年前のお披露目会でお配りした、記念の品を集めております」

 これはルベル公爵とメッサリーナ殿の後を付けたケルビウスの分身が、そこで見聞きしたもの。

 どうやら、最初に通されたところとは別の応接室のようだ。

 ニグラートのタウンハウスも広いけど、ルベル公爵家のタウンハウスも負けないくらいの広さ。応接室なんていくつあるんだと唸ってしまいたくなるほど。

 そこでメッサリーナ殿がルベル公爵に話していたのは、二十年前のお披露目会のこと。どうやら、二十年前も手土産に何かを配ったようだ。

 私が行ったときは白いドレス。使い道もないから私は売ってしまって、グラディアにはない生地が珍しかったのか、良い値段で売れたんだよね。

「いまさら、と思われるでしょうが、聖魔法が施されておりまして。二十年経ち、不具合が出た物がありましたので」

 いやいや、いまさらでしょう。
 私なんて、帰国後、即、売っちゃったし。
 二十年前の手土産なんて残ってないでしょうに。

 と、思ったのに。

 ルベル公爵は物持ちが良い人だったようで、二十年前の手土産がすんなりと出てくる。

 それは金冠を模した置き時計だった。

 金の冠の正面部分に時針、分針、秒針を備え、時を刻む仕様。
 二十年の時を経てなお、金色の煌めきは健在で陰ることなく、秒針はせわしなく動いていた。

 ルベル公爵はかつての娘の持ち物を愛おしそうに眺めると、テーブルに置かれたそれを手で指し示す。

 メッサリーナ殿は無言で頷き、白い手袋をして慎重に金冠の時計を確認し始めた。

 すると、

「(やはり、ここにありましたか)」

 誰にも届かないような小さなつぶやき。
 ケルビウスの耳から逃れられはしないけど。

 顔を上げると、メッサリーナ殿は何食わぬ顔で、ルベル公爵に話しかける。

「間違いありません。こちら、新しい物に交換させていただいてもよろしいでしょうか?」

 メッサリーナ殿の補佐のような人が、ささっと新しい金冠の時計を取り出すと、テーブルの上に置いた。

 ずいぶんと用意がいい。

 ルベル公爵の方も準備していた様子だったことから、事前にやり取りを知らせておいたようだ。

「何かありましたか?」

 娘が大切にしていた物だからか、名残惜しそうな様子のルベル公爵に、メッサリーナ殿は残念そうな顔を見せる。

「こちら、不具合が出ているようです。思い出深い物とは存じますが、危険な物をお渡ししたとなると、新リテラ王国の評判に影響しますので」

 メッサリーナ殿も残念そうな表情で、ルベル公爵にそう告げた。

 ルベル公爵とメッサリーナ殿の話はこれで終わらず、娘の遺品を手放したくない公爵と、どうしても持ち帰りたいメッサリーナ殿の攻防がしばらく続くのだった。

 そして、

《なるほどねぇ。この場が異常なのはあれの影響だわ》

 ケルビウスは手がかりをつかんだ。




「どうやら、二十年前のお披露目会で配ったっていう記念品。主の母親がもらったヤツだけに金冠の魔法が施されてたみたいで。当たりだった訳なんだよ」

 ケルビウスの覗き見と盗み聞きから、クラヴィスが簡単に『当たり』と表現する。

 記念品に当たり外れがあるなんて、聞いたことないし。

「当たりの記念品って?」

 私が訳が分からないという顔をしていたんだろうけど、クラヴィスは、はぁ、と大きくため息をついて、

「記念品が当たりじゃなくてさぁ」

 と言いかけて、セラフィアスの言葉に遮られた。




「主の母親が、金冠の主だ」




 あまりのことに私はセラフィアスを見つめたまま、固まってしまった。隣ではクラヴィスが騒いでいる。

「あぁぁぁ! 僕が、今、言おうと思ってたのに!」

「主には、ストレートに言った方が伝わるんだ」

「それは、まぁ、そうだろうけど。僕が手がかりを掴んできたのに」

「手がかりを掴んだのは、ケルビウスだろ?」

 拗ねるクラヴィスをセラフィアスが突き放した。

 ところが、クラヴィスも負けてはいない。奥の手とばかりに、まだ喋っていない話を持ち出してきたのだ。

「もう一つ、手がかりを押さえたから、貰ってきたんだよ。あの女装男が持って帰ってくる」

 へへんと得意げなクラヴィスを睨みつけ、「重要な話は先に言え」と唸るセラフィアス。

 二人のやり取りを呆然と眺めていた私は、どうにか、落ち着きを取り戻した。

「ちょっと待って」

 そして、少し静かにして。

 いろいろ落ち着いて考えたいのに、二人はギャイギャイ騒がしくて。何がなんだか分からなくなる。

 二人の中では、私のお母さまが金冠の主で確定してしまった。でも、それはあり得ない。

 私は深呼吸をすると、疑問点を一つ一つあげていった。

「そんなバカな話がある? だいたい、どれが当たりの決め手なのよ?」

「主もスロンの話を聞いてただろ。スロンがあげた候補の中から金冠の痕跡が出た」

「金冠は特殊なヤツなんだよ、主。眠っていても力は使うが、特定の痕跡は残さない」

「その金冠が痕跡を残した相手。間違いなく金冠の主だ」

 二人の言い分はムチャクチャだ。
 だいたい、お母さまが魔術師だなんて、聞いたこともない。

「金冠の主になれるほどなら、魔力も相当強くないといけないのに、お母さまから感じたこともないのよ?」

 あぁ、自分で言ってて分かってしまった。
 三聖の主クラスの魔術師なら、魔力隠蔽しているから、魔力は感じないことを。
 
 いやいや。

 お母さまが金冠の主だというなら、説明がつかないところがまだある。
 私は粗探しをするように、細かい部分を指摘した。

「金冠は生命力や治癒、回復に特化した魔導具なんでしょ? 金冠の主がお母さまだというのなら、どうしてお母さまは病弱で若くして亡くなったの?」

 二人はいったん口を閉じると、お互いに顔を見合わせる。

「そこは僕らにもよく分からないんだ」

 ほら。

 やっぱりお母さまが金冠の主だなんてあり得ない。万が一にもそんなことはない。
 私は私を納得させるように、何度も何度も心の中でつぶやくのだった。
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