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7 王女殿下と木精編
5-0 エルシア、王女殿下の戦いに付き合う
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いろいろとスッキリしないものを抱えた状態で、お披露目会当日の朝を迎えた。
会場は王城外宮の大広間。普段、王家主催の舞踏会や晩餐会などを開催する場所でもある。国内外の貴賓が集まるので、格式高く豪奢な作りとなっていた。
その場所で、アクアとリグヌムを紹介し、続いて立食パーティーのような催しを行って、お披露目会とする計画だったのだ。
スケジュールとしてはこうだ。
十時開場、十一時お披露目会開始、十四時を目処に終了。
なので、ドレスみたいな華やかで支度に時間がかかる衣装を身に纏う人たちは、自然と朝が早くなる。準備の都合上、致し方ないらしい。
「さて、本番」
そういうわけで、私は七時にデルティ殿下のところへやってきていた。
早い、早すぎる。
とはいえ、デルティ殿下は今日の主役、の一人。しかも、グラディアのたった一人の王女。
気合いが入らないはずがない、侍女さんたちの。
デルティ殿下が侍女さんたちに磨き上げられている最中、私は私で、王女宮の執事長さんと侍女長さん、二人とスケジュールの確認を行っていた。
え? 私の準備?
私は今回、デルティ殿下のそば付きの補佐官、という設定でいくので、その摺り合わせも同時に行っている。
ちなみに、
「現在、殿下には補佐官はおりません」
と、言われたときには、ひぃぃぃぃ、と悲鳴を上げてしまった。
だって。グレイにも副官やら補佐官はいるんだよ? 王女殿下にいないだなんてあり得ない話なんだけど?
悲鳴を上げる私を静かな目で見ながら、執事長さんは澄まして説明をしてくれた。
「現在、デルティウン殿下は、補佐官が必要な執務に携わっておりませんから」
「そうだった」
そんなやり取りもあったけど、概ね、私の装いは整う。
なにしろ、『王女殿下付きの補佐官』てのは存在しないので、制服も何もかもがない。とはいえ、さすがに第三騎士団や北部辺境騎士団の制服は着れない。
無難なところで、王太子殿下付き補佐官の服を借りて着て、さらに眼鏡をかけることになった。金眼は目立つので、眼鏡をかけてごまかすことが多い。私の装いも、それに習う形となった。
デルティ殿下の方もどうにか準備完了となる。
主役だとはいっても、真の主役はアクアとリグヌム、魔導具の方。であるわけなので、地味すぎず派手すぎず、カチッとした印象のドレスと髪型に仕上がった。やるな、侍女さん。
髪型なんて、いつもはふわふわと緩めのカールを下ろしているのに。今日はアップにして後ろで一つにまとめて垂らしている。
ふわふわ感は残しつつ、カチッとさもアピール出来ていて、素晴らしい仕上がり。
これで口を開かなければ完璧。
みんながみんな、そう思っている矢先に、さっそくデルティ殿下が口を開く。
「エエエエエエエルシア。わたくし、やっぱり」
涙目は止めて。せっかくのカチッとさが台無しになるから。
デルティ殿下は未成年ということもあって、正式に公務に出たことはない。
これが初公務となるため、いつも以上に緊張してしまったらしい。
服装や髪型と同様、動きも喋りもカッチカチ。
デルティ殿下の泣き言を聞かなかった振りでかわして、私はニコリと微笑みかけた。
「自信満々だね、デルティ殿下」
「わたくしのどこを見て、そんな言葉が出てくるのよ!」
「ほら、元気いっぱい」
「空元気というのよ!」
空元気でもなんでも、それだけ声が出るなら大丈夫そうだ。
「それだけ元気なら、今日の本番も勝ったも同然」
「どうして、本番に勝ち負けがあるのかしら? 本番なんだから、成功するか失敗するかではなくて?」
喋っているうちに平静を取り戻したのか、本番を忘れたのか、普段の口調と勢いが戻ってくる。
話の内容からすると、デルティ殿下は『本番』と『失敗』を気にして、余計に緊張してそうだった。
なので、私は私の言葉で、デルティ殿下を励ます。
「違うわ、デルティ殿下。出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないか。だから、やったもの勝ちなのよ」
私の言葉が心に届いたのかは分からないけど、デルティ殿下は一瞬、ぽかんとした表情を見せた。
続けて、意味不明なことを喋りだす。
「ときおり、エルシアが不思議な人に思えるときがあるわ」
「ごちゃごちゃ言わない」
「分かったわよ。つまり、勝ってくればいいわけよね?」
「そうそう」
まだ少し固いけど、さきほどよりは肩の力が抜けたかな。
「さぁ、行くよ。デルティ殿下」
「えっとやっぱり」
「往生際が悪い」
私はデルティ殿下の腕を掴むと、部屋を出て、会場に向けて歩き出した。
私とデルティ殿下を先頭に、控えの侍女さんに専属護衛、そして私の護衛まで加わり、大所帯で移動する。
「ひぃぃぃぃ、エルシアが乱暴すぎる」
「最初のつかみは良し」
「どこがよ!」
うんうん、だいぶいつもの調子に戻るデルティ殿下。
私はデルティ殿下の腕を取ったまま、歩いていったのだった。
ところが。
《主、スローナスから呼び出しだ》
歩いている途中、緊迫したセラフィアスの声が聞こえた。これはただ事ではない。
「《どうしたの、セラフィアス?》」
《それが、あのクズが三聖の展示室前に招待客を集めて、何か始めようとしてるらしい》
「え? 会場はこちらでしょ? そんな勝手なことしたら、特任チームのおじさんたちが泣くって」
いきなり予想外の展開に、魔導語ではなく普通の言葉に戻る私。
魔導語でも普通の言葉でも杖が分からないことはないんだけど。
顕現してない状態の杖と会話する場合、普通の言葉で喋っていると、独りで会話する変な人に周りから見られてしまう。
加えて、魔術師以外には会話の内容が分からないというおまけ付き。
それが素に戻ってしまったせいで、周りの人間にも内容が伝わってしまった。
みんなが、何事かと私を見る。
ここにいるみんなは、私がセラフィアスの主だということは理解していた。独りで会話する変な人に思われないのはありがたい。
《とにかく。三聖の展示室へ急げ、主》
セラフィアスの言葉に急かされ、私は足を止める。デルティ殿下の腕は握ったままだ。
デルティ殿下は私の言葉だけでなくセラフィアスの言葉も聞こえていたようで、表情を堅くしている。
「エルシア、三聖の展示室に会場が代わったのね?」
「どうやら、そうみたい」
「どちらにしろ、行くしかないわ!」
緊急事態になぜかスイッチが入ったデルティ殿下。行き先を変えるよう護衛たちに指示を出す。
しかし。
あのクズ、何をやらかそうとしているんだか。
嫌な予感を胸に、私は三聖の展示室に急いで向かったのだった。
会場は王城外宮の大広間。普段、王家主催の舞踏会や晩餐会などを開催する場所でもある。国内外の貴賓が集まるので、格式高く豪奢な作りとなっていた。
その場所で、アクアとリグヌムを紹介し、続いて立食パーティーのような催しを行って、お披露目会とする計画だったのだ。
スケジュールとしてはこうだ。
十時開場、十一時お披露目会開始、十四時を目処に終了。
なので、ドレスみたいな華やかで支度に時間がかかる衣装を身に纏う人たちは、自然と朝が早くなる。準備の都合上、致し方ないらしい。
「さて、本番」
そういうわけで、私は七時にデルティ殿下のところへやってきていた。
早い、早すぎる。
とはいえ、デルティ殿下は今日の主役、の一人。しかも、グラディアのたった一人の王女。
気合いが入らないはずがない、侍女さんたちの。
デルティ殿下が侍女さんたちに磨き上げられている最中、私は私で、王女宮の執事長さんと侍女長さん、二人とスケジュールの確認を行っていた。
え? 私の準備?
私は今回、デルティ殿下のそば付きの補佐官、という設定でいくので、その摺り合わせも同時に行っている。
ちなみに、
「現在、殿下には補佐官はおりません」
と、言われたときには、ひぃぃぃぃ、と悲鳴を上げてしまった。
だって。グレイにも副官やら補佐官はいるんだよ? 王女殿下にいないだなんてあり得ない話なんだけど?
悲鳴を上げる私を静かな目で見ながら、執事長さんは澄まして説明をしてくれた。
「現在、デルティウン殿下は、補佐官が必要な執務に携わっておりませんから」
「そうだった」
そんなやり取りもあったけど、概ね、私の装いは整う。
なにしろ、『王女殿下付きの補佐官』てのは存在しないので、制服も何もかもがない。とはいえ、さすがに第三騎士団や北部辺境騎士団の制服は着れない。
無難なところで、王太子殿下付き補佐官の服を借りて着て、さらに眼鏡をかけることになった。金眼は目立つので、眼鏡をかけてごまかすことが多い。私の装いも、それに習う形となった。
デルティ殿下の方もどうにか準備完了となる。
主役だとはいっても、真の主役はアクアとリグヌム、魔導具の方。であるわけなので、地味すぎず派手すぎず、カチッとした印象のドレスと髪型に仕上がった。やるな、侍女さん。
髪型なんて、いつもはふわふわと緩めのカールを下ろしているのに。今日はアップにして後ろで一つにまとめて垂らしている。
ふわふわ感は残しつつ、カチッとさもアピール出来ていて、素晴らしい仕上がり。
これで口を開かなければ完璧。
みんながみんな、そう思っている矢先に、さっそくデルティ殿下が口を開く。
「エエエエエエエルシア。わたくし、やっぱり」
涙目は止めて。せっかくのカチッとさが台無しになるから。
デルティ殿下は未成年ということもあって、正式に公務に出たことはない。
これが初公務となるため、いつも以上に緊張してしまったらしい。
服装や髪型と同様、動きも喋りもカッチカチ。
デルティ殿下の泣き言を聞かなかった振りでかわして、私はニコリと微笑みかけた。
「自信満々だね、デルティ殿下」
「わたくしのどこを見て、そんな言葉が出てくるのよ!」
「ほら、元気いっぱい」
「空元気というのよ!」
空元気でもなんでも、それだけ声が出るなら大丈夫そうだ。
「それだけ元気なら、今日の本番も勝ったも同然」
「どうして、本番に勝ち負けがあるのかしら? 本番なんだから、成功するか失敗するかではなくて?」
喋っているうちに平静を取り戻したのか、本番を忘れたのか、普段の口調と勢いが戻ってくる。
話の内容からすると、デルティ殿下は『本番』と『失敗』を気にして、余計に緊張してそうだった。
なので、私は私の言葉で、デルティ殿下を励ます。
「違うわ、デルティ殿下。出来る出来ないじゃなくて、やるかやらないか。だから、やったもの勝ちなのよ」
私の言葉が心に届いたのかは分からないけど、デルティ殿下は一瞬、ぽかんとした表情を見せた。
続けて、意味不明なことを喋りだす。
「ときおり、エルシアが不思議な人に思えるときがあるわ」
「ごちゃごちゃ言わない」
「分かったわよ。つまり、勝ってくればいいわけよね?」
「そうそう」
まだ少し固いけど、さきほどよりは肩の力が抜けたかな。
「さぁ、行くよ。デルティ殿下」
「えっとやっぱり」
「往生際が悪い」
私はデルティ殿下の腕を掴むと、部屋を出て、会場に向けて歩き出した。
私とデルティ殿下を先頭に、控えの侍女さんに専属護衛、そして私の護衛まで加わり、大所帯で移動する。
「ひぃぃぃぃ、エルシアが乱暴すぎる」
「最初のつかみは良し」
「どこがよ!」
うんうん、だいぶいつもの調子に戻るデルティ殿下。
私はデルティ殿下の腕を取ったまま、歩いていったのだった。
ところが。
《主、スローナスから呼び出しだ》
歩いている途中、緊迫したセラフィアスの声が聞こえた。これはただ事ではない。
「《どうしたの、セラフィアス?》」
《それが、あのクズが三聖の展示室前に招待客を集めて、何か始めようとしてるらしい》
「え? 会場はこちらでしょ? そんな勝手なことしたら、特任チームのおじさんたちが泣くって」
いきなり予想外の展開に、魔導語ではなく普通の言葉に戻る私。
魔導語でも普通の言葉でも杖が分からないことはないんだけど。
顕現してない状態の杖と会話する場合、普通の言葉で喋っていると、独りで会話する変な人に周りから見られてしまう。
加えて、魔術師以外には会話の内容が分からないというおまけ付き。
それが素に戻ってしまったせいで、周りの人間にも内容が伝わってしまった。
みんなが、何事かと私を見る。
ここにいるみんなは、私がセラフィアスの主だということは理解していた。独りで会話する変な人に思われないのはありがたい。
《とにかく。三聖の展示室へ急げ、主》
セラフィアスの言葉に急かされ、私は足を止める。デルティ殿下の腕は握ったままだ。
デルティ殿下は私の言葉だけでなくセラフィアスの言葉も聞こえていたようで、表情を堅くしている。
「エルシア、三聖の展示室に会場が代わったのね?」
「どうやら、そうみたい」
「どちらにしろ、行くしかないわ!」
緊急事態になぜかスイッチが入ったデルティ殿下。行き先を変えるよう護衛たちに指示を出す。
しかし。
あのクズ、何をやらかそうとしているんだか。
嫌な予感を胸に、私は三聖の展示室に急いで向かったのだった。
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