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2章
16 店内
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教子たち3人は、真宿東口のナンパ街道を駆け抜けて「激安の王道 ポンキ・ホーテ」と、デカデカと原色で書かれた看板のすぐ下まで来た。
教子 「いつみても自信満々の看板ですよね」
紫苑 「いいじゃない。潔くって。私は好きよ」
放課後の時間帯のせいか、店内は教子たちのような学生でゴチャゴチャと混み合っている。
繁盛しているようだ。
教子 「それで、まず何から買うんですか?」
紫苑 「まずは、アレね・・」
教子 「アレってなんですか?」
紫苑 「アレはアレよ・・」
教子 「・・?」
紫苑 「・・・・カオル」
カオル「・・はい」
カオル「まずは文具やトイレタリーなど、生徒会の共有備品です」
教子 「ですよねー」
まあ、カオルさんが仕切らなきゃよね、と教子は思った。
教子 「じゃあ、とりあえず生活用品のフロア・・4階ですね」
エレベーターを探し、乗り込んだ。
------------------------------
4階。生活用品のフロア。
店内には商品が所狭しと、わざと乱雑に陳列されている。
宝探しのような体験型のショッピングができるのが、この『ポンキ』の特長だ。
教子 「あ、このマグカップかわい~♪アケミとお揃いのカップでアフタヌーンチーしたいな・・でへりこ♪」
紫苑 「あのバカ犬には床に置いた水道水でも飲ませときゃいいのよ」
教子 「(イラッ)」
一瞬、この場で紫苑に強烈なクリックを食らわせて前後不覚にしてやろうかと考えたが、教子は思いとどまった。
平常心、平常心。いまは生徒会活動中だもん。
これもアケミとの平和な日々のためだ。
うん。本当に守りたいモノのためには、ちっぽけなことなど考えない。これ大切。
カオル「調さん。カートを持ってきてくれない?」
教子 「はーい!了解でーす!」
教子は雑念を振り払い、タタタッとカートを取って、戻ってくる。
カオル「えーっと、ティッシュペーパーと、消えるボールペンと・・」
カオルがそのカートに高い位置からバスケのシュートを入れていくように、淀みなくポンポンと商品を入れていく。
そして一方・・
紫苑 「ねえ見て!このニワトリ、潰すとグエーッ、って言うわよ!」
紫苑 「ねえ見て!でっかい馬の首が売ってるわ!どこで仕留められたのかしら?日本に野生の馬っているの?」
紫苑 「ねえ見て!この服!フリフリでちょっとかわいいけど、ミニだし生地が薄くて寒そうだわ!ちょっと季節感ないんじゃない?」
手際よく仕事を進めていくカオルと教子に対し、紫苑はウロウロと店内を歩き回り、目についたものに駆けよっては遊んでいる。
教子 「その服は特殊な用途向けですよ・・んしょっ、んしょっ」
教子は、カオルの3ポイントがばしばしと容赦なく籠を揺らしてくるので、中身を整理するのに手いっぱいだ。
こんな感じのゴチャゴチャした店は、遊びたい盛りの紫苑にとってはお宝の山なのだろう。
目を輝かせながら、無邪気にウロつきまわっている。
首が座ってない子供のように、キョロキョロキョロキョロと店内を見まわしては、自分の関心がいったものには即座にシュパッと寄っていく。
ネコの性格そのまんまだ。
まぁ、端から見れば子供っぽい超美人ということで、絵になるのだが・・
紫苑 「ねえ!なにこれ、先っぽから蒸気がシュワシュワ出てくるわよ!毛づくろい用?」
教子 「それは美顔器ですよ・・・」
教子がカートの中を手でかき回しながら、紫苑に気のない返事を返す。
紫苑 「でもこのコードの長さじゃ、下まで届かないんじゃないかしら・・」
紫苑 「・・・よいしょっ」
教子 「あーっ!そんなに引っ張っちゃだめです!断線しちゃう!」
紫苑 「あっ♪これ、あったかぁい・・♥いいわぁ・・♥」
教子 「・・・っていうかどこの毛をつくろおうとしてるんですか!うら若き乙女がこんなとこでそんな恰好しちゃらめえええっ!!」
や、ヤバい・・やっぱり会長も近距離パワー型だ・・。
教子はこの先起きるであろう、紫苑とこずえと3人で外出した時の悪夢を想像し、一瞬うすら寒くなる。
カオル「会長、ほかのお客さんの迷惑になりますので・・あまり展示品で遊ばないように」
紫苑 「そう?・・まぁカオルがそう言うなら、そうしましょう」
教子 「かっ、カオルせんぱぁい・・・(尊敬のまなざし)」
それでいうとこのカオルさんの落ち着きは本当に頼りになる。
すごい。しびれる。憧れる。
カオル「会長。すみません。このポンキにお目当ての電動爪ヤスリは置いてないそうです」
紫苑 「あら?そうなの?カオルがここにあるって言ってたから、わざわざ真宿まできたのに・・」
赤いクチビルをセクシーに尖らせる紫苑。
カオル「はい・・すみません」
紫苑 「やっぱり、カオルは私がついてないとダメねぇ・・」
カオル「・・・申し訳ありません。すべて私の不徳の致すところです」
教子 「カオルさん!なにか言い返して!権力に屈しちゃダメ!」
役員に平謝りする中間管理職のように、一切の反論をせずに、カオルが紫苑に頭を下げる。
・・・ウチのお父さんも職場ではこんな感じなんだろうか。
せめて自分は良い娘でいてあげよう、と教子は固く決意した。
--------------------------------------------
教子とカオルは、カートをガラガラと転がしながら店内を闊歩する。
教子 「えーっと、お次はっと・・」
カートは徐々に満杯に近づいてきている。
といっても中身は、紫苑の暇潰し用のおもちゃだったり、こずえ用のお菓子だったり、あとはティッシュペーパーとか文房具とか大したことないものばかりだが。
教子 「備品とは名ばかりの私物ばっかりだけど、買っちゃっていいのかしら・・」
教子の中で、横領、着服、汚職、・・という言葉が乱舞する。
これ、全部生徒会の活動費で買うのかな?いくらくらいあるんだろう。
私たちの学費がこういうのに使われてるのか・・。
いや、学費とは、生徒つまり教子の家も支払ったお金だという事。
ということは、元はといえばお父さんお母さんのお金。調家のお金。
ということは、私のお金でもある。うんうん。
だから私とアケミのモノも買っていいわよね・・。
と、政治家のような論法で教子が自分を納得させていると・・
紫苑 「ねぇ!なにこれ!なんかこのボタンを押すとウィンウィン動くわよ!電動猫じゃらし???」
紫苑は、グリングリンとグラインドする極太の動くソーセージのようなモノを見せびらかしながら立っていた。
教子 「ギャー!!だめだめだめ!そこは18歳未満立ち入り禁止のオトナのトイザ●スですよ!我々高校生は退散しましょう!」
紫苑 「なによ、私だってもうオトナよぉ」
教子は紫苑の背中をグイグイ押して、黒地に赤で大きく『×18』と書かれた暖簾の外に押し出す。
紫苑の出現によって、プライベートな癒しの時間を邪魔されて、物凄く居心地悪そうにしている紳士たちに一礼して・・。
教子 「はぁ、はぁ・・もうこれ私たち2人だけでやったほうが早いんじゃ?」
カオル「・・そうかもしれないわね。会長には少し安全な場所で遊んでて貰って、2人で手分けして探しましょう」
もはや幼児扱いである。
しかし、この近所に託児所なんてあるだろうか、と真剣に考えていると、
紫苑「なんか疲れちゃったわね。私はどこかでミルクでも飲みたいわ」
当の本人から意外な助け舟。
自分勝手なところは変わりはないが…。
カオル「わかりました。それじゃ、終わったらスマホでメッセージを入れますね」
教子 「さっきのとこにいっちゃダメですよ。あそこはオトナの紳士の社交場なんですから」
紫苑 「じゃあ、3階のペットゾーンで熱帯魚でも見てるわね」
教子 「・・なんかそこも嫌な予感がするんで、1階でたい焼きとミルクにしてください。生身の魚はダメです」
---------------------------
紫苑と、一旦別れた。
教子は、カオルと一緒に買い出しの残りを急ぐ。
カオル「えーっと、次は・・紅茶ね、私と瑞穂は紅茶派なの」
教子 「カオルさんと瑞穂さんは紅茶派と・・(メモメモ」
先輩の好物の把握は大事。お父さんも言ってた。
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・アケミが好きなコーヒー。会長は熱いモノ飲めないから」
教子 「ぐふ♪一番高いやつにしちゃお♪」
カオル「買うブランドはいつも決まってます」
教子 「ちぇっ・・」
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・こずえが屋上に登って帰ってこない時に、おびき出して捕獲する用のバナナとりもちね」
教子 「そ、そんなのも売ってるんですね・・さすが激安アマゾン・・・」
教子はあらためて"ポンキ"の懐の深さを知った。
これは繁盛するわけだ・・。
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・・こずえが園芸部の栽培した野菜を勝手に食べないように張り巡らせる電気柵ね」
教子 「こずえさんって一応、獣じゃなくて"人"ではあるんですよね?」
・・・・・
カオル「・・よし、こんなものかしら」
教子 「ひぃ・・ひぃ・・」
大量の商品が入った重いカートを引きずり廻していたので、教子の腕はパンパンだ。
アケミにマッサージしてもらいたい。
カオル「じゃあ、あとは会長を探して、1階のレジでお会計しましょう」
教子がカオルと、満杯のカートとともにエレベーターで1階まで降りた瞬間、
「うわー!!!」
と、いう男の野太い絶叫が聞こえてきた。
紫苑 「・・・」
そして、叫び声が聞こえた方角から、紫苑が無言でテクテクとこちらに歩いてくる。
教子 「な、なにかあったんですか?」
カオル「・・・」
なにかあった気しか、しない・・。
とにかく、大事ではない範囲であってくれ。
紫苑 「さぁ?」
教子 「さ、さあ?」
紫苑 「なんかハエがいたようだけど、知らないわ。いちいち払った虫のことなんか覚えてられないから」
紫苑がそう言うと、叫び声の発信源から、
男 「い、いでで・・・」
男が足を引きずりながら、えっちらおっちらと、歩き出てきた。
そのちょっと異様な歩き姿を見た店員が声をかける。
店員「だ、大丈夫ですか?」
男 「大丈夫ですよ、お構いなく!・・・ちょっと転んでしまいまして・・あは、あははは」
男は強がるが、足を引きずっており、けっこう大丈夫ではなさそうである。
しかし、男のほうも大事にしたくないのか、あくまで自分が転んだことにしておきたいらしい。
紫苑 「大丈夫よ。監視カメラの死角だったから。証拠なんて何も残ってないし。だからこそあの男も近寄ってきたんでしょう」
教子 「・・・」
カオル「・・・」
教子 「なんともないですか・・?会長も。あの男の人も・・」
紫苑 「私は大丈夫。・・あんな人間のことなんてどうでもいいわ。考えを巡らすだけ時間の無駄だから、あなたもやめなさい」
・・・おおかた、ゴチャゴチャした店内の死角で、紫苑会長を痴漢か盗撮かしようとしたんだろう。
そして、投げ飛ばされたか、蹴飛ばされたか・・・。
凹んだアンティークデスクを、また思い出してしまった。
紫苑は、一年365日、四六時中、こういった男達の視線と欲望に晒され続けているのだろう。
・・・・美人ってトクなんだか、損なんだか、わからないな。
教子は単純に、そう思った。
カオル「・・ひとまず、お会計を済ましてしまいましょう」
教子 「そうですね・・」
3人は、レジへと向かう。
教子 「いつみても自信満々の看板ですよね」
紫苑 「いいじゃない。潔くって。私は好きよ」
放課後の時間帯のせいか、店内は教子たちのような学生でゴチャゴチャと混み合っている。
繁盛しているようだ。
教子 「それで、まず何から買うんですか?」
紫苑 「まずは、アレね・・」
教子 「アレってなんですか?」
紫苑 「アレはアレよ・・」
教子 「・・?」
紫苑 「・・・・カオル」
カオル「・・はい」
カオル「まずは文具やトイレタリーなど、生徒会の共有備品です」
教子 「ですよねー」
まあ、カオルさんが仕切らなきゃよね、と教子は思った。
教子 「じゃあ、とりあえず生活用品のフロア・・4階ですね」
エレベーターを探し、乗り込んだ。
------------------------------
4階。生活用品のフロア。
店内には商品が所狭しと、わざと乱雑に陳列されている。
宝探しのような体験型のショッピングができるのが、この『ポンキ』の特長だ。
教子 「あ、このマグカップかわい~♪アケミとお揃いのカップでアフタヌーンチーしたいな・・でへりこ♪」
紫苑 「あのバカ犬には床に置いた水道水でも飲ませときゃいいのよ」
教子 「(イラッ)」
一瞬、この場で紫苑に強烈なクリックを食らわせて前後不覚にしてやろうかと考えたが、教子は思いとどまった。
平常心、平常心。いまは生徒会活動中だもん。
これもアケミとの平和な日々のためだ。
うん。本当に守りたいモノのためには、ちっぽけなことなど考えない。これ大切。
カオル「調さん。カートを持ってきてくれない?」
教子 「はーい!了解でーす!」
教子は雑念を振り払い、タタタッとカートを取って、戻ってくる。
カオル「えーっと、ティッシュペーパーと、消えるボールペンと・・」
カオルがそのカートに高い位置からバスケのシュートを入れていくように、淀みなくポンポンと商品を入れていく。
そして一方・・
紫苑 「ねえ見て!このニワトリ、潰すとグエーッ、って言うわよ!」
紫苑 「ねえ見て!でっかい馬の首が売ってるわ!どこで仕留められたのかしら?日本に野生の馬っているの?」
紫苑 「ねえ見て!この服!フリフリでちょっとかわいいけど、ミニだし生地が薄くて寒そうだわ!ちょっと季節感ないんじゃない?」
手際よく仕事を進めていくカオルと教子に対し、紫苑はウロウロと店内を歩き回り、目についたものに駆けよっては遊んでいる。
教子 「その服は特殊な用途向けですよ・・んしょっ、んしょっ」
教子は、カオルの3ポイントがばしばしと容赦なく籠を揺らしてくるので、中身を整理するのに手いっぱいだ。
こんな感じのゴチャゴチャした店は、遊びたい盛りの紫苑にとってはお宝の山なのだろう。
目を輝かせながら、無邪気にウロつきまわっている。
首が座ってない子供のように、キョロキョロキョロキョロと店内を見まわしては、自分の関心がいったものには即座にシュパッと寄っていく。
ネコの性格そのまんまだ。
まぁ、端から見れば子供っぽい超美人ということで、絵になるのだが・・
紫苑 「ねえ!なにこれ、先っぽから蒸気がシュワシュワ出てくるわよ!毛づくろい用?」
教子 「それは美顔器ですよ・・・」
教子がカートの中を手でかき回しながら、紫苑に気のない返事を返す。
紫苑 「でもこのコードの長さじゃ、下まで届かないんじゃないかしら・・」
紫苑 「・・・よいしょっ」
教子 「あーっ!そんなに引っ張っちゃだめです!断線しちゃう!」
紫苑 「あっ♪これ、あったかぁい・・♥いいわぁ・・♥」
教子 「・・・っていうかどこの毛をつくろおうとしてるんですか!うら若き乙女がこんなとこでそんな恰好しちゃらめえええっ!!」
や、ヤバい・・やっぱり会長も近距離パワー型だ・・。
教子はこの先起きるであろう、紫苑とこずえと3人で外出した時の悪夢を想像し、一瞬うすら寒くなる。
カオル「会長、ほかのお客さんの迷惑になりますので・・あまり展示品で遊ばないように」
紫苑 「そう?・・まぁカオルがそう言うなら、そうしましょう」
教子 「かっ、カオルせんぱぁい・・・(尊敬のまなざし)」
それでいうとこのカオルさんの落ち着きは本当に頼りになる。
すごい。しびれる。憧れる。
カオル「会長。すみません。このポンキにお目当ての電動爪ヤスリは置いてないそうです」
紫苑 「あら?そうなの?カオルがここにあるって言ってたから、わざわざ真宿まできたのに・・」
赤いクチビルをセクシーに尖らせる紫苑。
カオル「はい・・すみません」
紫苑 「やっぱり、カオルは私がついてないとダメねぇ・・」
カオル「・・・申し訳ありません。すべて私の不徳の致すところです」
教子 「カオルさん!なにか言い返して!権力に屈しちゃダメ!」
役員に平謝りする中間管理職のように、一切の反論をせずに、カオルが紫苑に頭を下げる。
・・・ウチのお父さんも職場ではこんな感じなんだろうか。
せめて自分は良い娘でいてあげよう、と教子は固く決意した。
--------------------------------------------
教子とカオルは、カートをガラガラと転がしながら店内を闊歩する。
教子 「えーっと、お次はっと・・」
カートは徐々に満杯に近づいてきている。
といっても中身は、紫苑の暇潰し用のおもちゃだったり、こずえ用のお菓子だったり、あとはティッシュペーパーとか文房具とか大したことないものばかりだが。
教子 「備品とは名ばかりの私物ばっかりだけど、買っちゃっていいのかしら・・」
教子の中で、横領、着服、汚職、・・という言葉が乱舞する。
これ、全部生徒会の活動費で買うのかな?いくらくらいあるんだろう。
私たちの学費がこういうのに使われてるのか・・。
いや、学費とは、生徒つまり教子の家も支払ったお金だという事。
ということは、元はといえばお父さんお母さんのお金。調家のお金。
ということは、私のお金でもある。うんうん。
だから私とアケミのモノも買っていいわよね・・。
と、政治家のような論法で教子が自分を納得させていると・・
紫苑 「ねぇ!なにこれ!なんかこのボタンを押すとウィンウィン動くわよ!電動猫じゃらし???」
紫苑は、グリングリンとグラインドする極太の動くソーセージのようなモノを見せびらかしながら立っていた。
教子 「ギャー!!だめだめだめ!そこは18歳未満立ち入り禁止のオトナのトイザ●スですよ!我々高校生は退散しましょう!」
紫苑 「なによ、私だってもうオトナよぉ」
教子は紫苑の背中をグイグイ押して、黒地に赤で大きく『×18』と書かれた暖簾の外に押し出す。
紫苑の出現によって、プライベートな癒しの時間を邪魔されて、物凄く居心地悪そうにしている紳士たちに一礼して・・。
教子 「はぁ、はぁ・・もうこれ私たち2人だけでやったほうが早いんじゃ?」
カオル「・・そうかもしれないわね。会長には少し安全な場所で遊んでて貰って、2人で手分けして探しましょう」
もはや幼児扱いである。
しかし、この近所に託児所なんてあるだろうか、と真剣に考えていると、
紫苑「なんか疲れちゃったわね。私はどこかでミルクでも飲みたいわ」
当の本人から意外な助け舟。
自分勝手なところは変わりはないが…。
カオル「わかりました。それじゃ、終わったらスマホでメッセージを入れますね」
教子 「さっきのとこにいっちゃダメですよ。あそこはオトナの紳士の社交場なんですから」
紫苑 「じゃあ、3階のペットゾーンで熱帯魚でも見てるわね」
教子 「・・なんかそこも嫌な予感がするんで、1階でたい焼きとミルクにしてください。生身の魚はダメです」
---------------------------
紫苑と、一旦別れた。
教子は、カオルと一緒に買い出しの残りを急ぐ。
カオル「えーっと、次は・・紅茶ね、私と瑞穂は紅茶派なの」
教子 「カオルさんと瑞穂さんは紅茶派と・・(メモメモ」
先輩の好物の把握は大事。お父さんも言ってた。
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・アケミが好きなコーヒー。会長は熱いモノ飲めないから」
教子 「ぐふ♪一番高いやつにしちゃお♪」
カオル「買うブランドはいつも決まってます」
教子 「ちぇっ・・」
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・こずえが屋上に登って帰ってこない時に、おびき出して捕獲する用のバナナとりもちね」
教子 「そ、そんなのも売ってるんですね・・さすが激安アマゾン・・・」
教子はあらためて"ポンキ"の懐の深さを知った。
これは繁盛するわけだ・・。
・・・・・
カオル「えーっと、次は・・・こずえが園芸部の栽培した野菜を勝手に食べないように張り巡らせる電気柵ね」
教子 「こずえさんって一応、獣じゃなくて"人"ではあるんですよね?」
・・・・・
カオル「・・よし、こんなものかしら」
教子 「ひぃ・・ひぃ・・」
大量の商品が入った重いカートを引きずり廻していたので、教子の腕はパンパンだ。
アケミにマッサージしてもらいたい。
カオル「じゃあ、あとは会長を探して、1階のレジでお会計しましょう」
教子がカオルと、満杯のカートとともにエレベーターで1階まで降りた瞬間、
「うわー!!!」
と、いう男の野太い絶叫が聞こえてきた。
紫苑 「・・・」
そして、叫び声が聞こえた方角から、紫苑が無言でテクテクとこちらに歩いてくる。
教子 「な、なにかあったんですか?」
カオル「・・・」
なにかあった気しか、しない・・。
とにかく、大事ではない範囲であってくれ。
紫苑 「さぁ?」
教子 「さ、さあ?」
紫苑 「なんかハエがいたようだけど、知らないわ。いちいち払った虫のことなんか覚えてられないから」
紫苑がそう言うと、叫び声の発信源から、
男 「い、いでで・・・」
男が足を引きずりながら、えっちらおっちらと、歩き出てきた。
そのちょっと異様な歩き姿を見た店員が声をかける。
店員「だ、大丈夫ですか?」
男 「大丈夫ですよ、お構いなく!・・・ちょっと転んでしまいまして・・あは、あははは」
男は強がるが、足を引きずっており、けっこう大丈夫ではなさそうである。
しかし、男のほうも大事にしたくないのか、あくまで自分が転んだことにしておきたいらしい。
紫苑 「大丈夫よ。監視カメラの死角だったから。証拠なんて何も残ってないし。だからこそあの男も近寄ってきたんでしょう」
教子 「・・・」
カオル「・・・」
教子 「なんともないですか・・?会長も。あの男の人も・・」
紫苑 「私は大丈夫。・・あんな人間のことなんてどうでもいいわ。考えを巡らすだけ時間の無駄だから、あなたもやめなさい」
・・・おおかた、ゴチャゴチャした店内の死角で、紫苑会長を痴漢か盗撮かしようとしたんだろう。
そして、投げ飛ばされたか、蹴飛ばされたか・・・。
凹んだアンティークデスクを、また思い出してしまった。
紫苑は、一年365日、四六時中、こういった男達の視線と欲望に晒され続けているのだろう。
・・・・美人ってトクなんだか、損なんだか、わからないな。
教子は単純に、そう思った。
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教子 「そうですね・・」
3人は、レジへと向かう。
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