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2章
17 梟
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レジに並ぶ3人。
店員 「お次のお客様、こちらのレジにどうぞー!」
紫苑・カオル・教子「「「・・・・」」」
店員は熟練の手つきで客をさばいてはいるが、如何せん混みあっているので、遅い。
紫苑 「ねえ・・これ、いつまで並べばいいの?」
カオル「そうですね・・混み具合からみて、10分、15分くらいでしょうか・・」
教子 「で、でた~・・理不尽で答えようのない質問を部下にぶつけてイライラ発散上司奴~・・」
紫苑 「なにか言った?」
教子 「ナンデモゴザイマセン」
教子は、一瞬でロボットになった。
紫苑 「私はその辺りを散歩してくるわね」
教子 「あっ、えーと・・はい、いってらっしゃいませ~・・」
ワンマン上司は、大のお得意様なお客さんと同じ。
機嫌さえ取っておけば大丈夫。
これもお父さんの教え。
カオルと2人きりになる教子。
カオル「・・・・」
教子 「・・・・」
カオルも口数が多いほうではないので、自然、無言の時間となる。
でも、カオルとの時間は、アケミとも瑞穂ともちょっと違う。
カオル「・・・昨日は、こずえと瑞穂と駅でバッタリ会ったそうね?」
教子 「あっ・・そうなんです」
教子 「もぅ、こずえさんが大変だったんですよ~・・いきなり飛ぶわ跳ねるわ暴れちらかすわ・・」
カオル「ふふふ。こずえらしいわ・・アケミとも途中、一緒だったそうね。どうだった?」
教子 「ぐふ♪よくぞ訊いてくださいました・・アケミって超かわいくて・・デュフデュフフ♪♥」
カオルさんは、けっこう後輩に話しかけてくれるタイプの先輩らしい。
決しておしゃべりな方ではないだろうが、教子を気遣ってくれているのだ。
カオルさん、やさしいな・・・
生徒会の良心。まごころ。お母さん。
なんというか、とっても大人っぽい。
体つきもだけど、なにより雰囲気が。
気品があるというか・・。
カオルは、一緒にいるだけで知性が漂ってくるのは言うまでもないが、それを一切鼻にかけないので、奥ゆかしい魅力も備えている。
ネット上とかによくいる、尋ねられてもいないのに知識をひけらかしたがる方々に漂うような薄っぺらさとは対極にある、深みのある魅力。
そばにいる人の関心をそそらざるを得ない魅力。
相手に不快感を与えない知性と気品・・・そう、これは"母性"だ。
身長も学年も上だから、教子に対しては自然に"上から目線"な話し方なのに、それが、ぜんぜん、嫌じゃない。
むしろ、自分を理解してくれている、守られているような安心感さえ感じる。
・・・たぶん、このカオルの包み込むような母性がなければ、生徒会のバランスは崩壊してしまうのだろう・・・。
教子 「(そして・・・)」
教子はチラ、とカオルをうかがう。
長身で眼鏡のカオル。
教子 「(ぐふ♪やっぱり美人・・♪)」
なんとなく、報道番組のニュースキャスターを思い出す。
それも、安っぽいワイドショーに出てくるようなのじゃなくて、夜ちょっと遅めにやっている、経済ニュースをメインにあつかう番組のほう。
アケミと同じくらい長身だが、アケミと違って、とってもスレンダーな体型だ。
スカートからスラッと伸びた足はモデル顔負け。
胸のボリュームは、生徒会内の3頭の巨獣とは比ぶべくもない(失礼)けど・・まぁ、好き好きだしね。
・・決して自分に言い聞かせてるわけじゃないけど。
同じくスレンダー体型の瑞穂が、女の子っぽいバランスの取れた体型とすれば、カオルはまさに大人の女性。
制服よりも、スーツが似合うだろう。
生徒というより、教師のようでもある。
科目は、たぶん化学。
白衣がとっても似合う感じ。
学園を卒業して、キャリアウーマンとして働き始めたら、きっと肩書きのある社長とか、勝ち組サラリーマンとかに、アプローチされまくるんだろうなぁ。
卒業するのかわからないけども・・・。
でも・・・
カオルさんの中身って、「アレ」だったんだ・・・
ちょっと意外・・
店員 「お次のお客様ー!こちらのレジへどうぞー!」
教子 「あ・・はーい」
教子たちの番が来た。
-----------------------------
教子 「うう・・学校までこれを持つのか・・」
教子の両手には、パンパンになったレジ袋が提げられている。
一応、リュックサックを持ってきたのだが、カート一杯の荷物はもちろん入りきらず、おっきめのレジ袋3つを追加してやっとだった。
カオルも一袋分、手伝ってくれているが、とてもじゃないが女子高生2人で持つ荷物の量ではない。
教子 「ひんひん・・・せめて会長が持ってくれれば・・・いや、ないか・・」
仕方がない・・これも下積みの苦労よ。
教子は、アケミの顔を思い出して、心を奮い立たせる。
教子 「さ!いっきましょう!カオルさん!」
カオル「そうなんだけど・・」
カオルがキョロキョロと店の外に視線を巡らせる。
・・・・・まさか。
教子 「もしかして、消えちゃいましたか・・?」
カオル「そのようね・・・」
うはぁ・・・
会長・・どこ行ってんすか・・。
教子はパンパンの荷物を抱えて、この人込みの中で紫苑を探すことを想像して、軽くめまいを覚えた。
カオル「とりあえず、スマホで連絡してみるわ」
教子 「お願いします・・」
~5分後~
カオル「繋がらないわね・・」
教子 「うぐぐ・・うご・・」
華奢かつインドア派かつ万年運動不足な教子は、5分間のレジ袋プランクだけで体力の限界をけっこう感じ始めていた。
教子 「と、とにかく荷物を置かせてください・・どっこいしょ」
教子は、荷物をポンキのレジ外の、袋詰め台に置いた。
カオルは、そんな教子を労わるような目で見ている。
カオル「・・仕方がないわね」
カオル「私が、"探す"わ」
教子 「え?」
カオル「あまり外ではやりたくないのだけれど・・」
その時。
カオルの目つきが少し、変わった。
・・かのような気が、教子には、した。
カオルが、袋詰めの台に体重を預けて、目を閉じる。
教子 「あ・・・・・」
宗教家が瞑想するように、顔を軽く伏せるカオル。
その周囲の空気だけが、ピキピキと固まっていくようだ。
雑踏の喧騒の中で、ここだけが、無音。
カオルが、目を開ける。
教子の考え事の時間を含めても、10秒くらいだろう。
カオル「・・見つけた。」
カオル「会長は、あっちの方角ね」
教子 「梟・・・」
教子の、心の内側から零れてしまったようなつぶやきに、カオルは苦笑いする。
カオル「本当に、わかっちゃうのね・・」
なぜかしら照れ臭そうだ。
教子 「あ、すみません、なんか・・」
教子は、あやまった。
マジシャンの前で手品のタネ明かしをしてしまったような、バツの悪さを覚えたから。
フクロウ。
木の上にいても、土の中を行くミミズの場所さえわかるという聴覚の持ち主。
立体聴覚。
人間が左右の視野のわずかな差異で遠近感を図るのと同様に、左右の耳に入る微細な音の違いで周囲の状況を、驚くほどの詳細さで感じ取ることができる。
カオル「いいのよ。別に・・あなたに隠せるとは思ってないわ」
カオルはにこっと微笑んでくれた。
ちょっとずんぐりむっくりで愛らしいコミカルなイメージは、カオルの細身のカラダとは少し似合わないと思ったが・・・。
しかし、フクロウの持つ、異名。
曰く、森の賢者。
曰く、森の哲学者。
知性の象徴。
そっちのほうは、カオルにぴったりだ。
『ミネルバの梟は、黄昏とともに飛び立つ。』
教子のなかに、どこかの本で読んだフレーズが唐突に浮かんでくる。
この、夕暮れにさしかかった街並み。
ごみごみとした都会の中で、ただひとり静謐な空間にいるカオル。
今の状況には、なぜかしらしっくりくる言葉だ・・。
カオル「行きましょう・・焦る必要はないわ。もう足音を覚えたから。探しながら歩けるから」
教子 「足音だけで、探せるんですか?」
カオル「道路の状況とか、今日履いてるクツの種類とか、通りの騒がしさによって違うけど・・でも、だいたいはわかるわ」
教子 「すごいんですね・・」
動物の能力ってすごい・・・教子はあらためて、感動した。
カオル「・・その荷物、持てる?」
教子 「うぐ・・」
ぐっ・・そうだ・・これを持って行かなきゃなんだ。。。
教子は、ゾウのような体が欲しい、と切実に思った。
教子 「だ、大丈夫ですよ!新人ですから、体力勝負でがんばりますっ」
カオル「本当に、大丈夫?もし大変なら、ここで待っていても・・」
教子 「ダイジョブですって!さぁ~、行きましょう!レッツゴー!」
荷物が多い上に、すでに店内でカートを振り回していたので・・けっこう疲れてはいたのだが、教子は元気を振り絞って歩き出す。
教子 「(カオルさんって、やっぱり優しい・・・)」
先輩に気遣われて嬉しかったから。
・・・・それと。
ある思いを紛らわすために。
それは、紫苑の居場所を"聴き分けていた”カオルの様子をみて、心の奥の底の底から湧き上がってきた衝動。
熱い熱い、マグマのような、ある衝動。
・・・・ダメ。
そんなのは、絶対に、私の本心じゃない。
忘れなさい。教子。
それはただの気の迷いなんだから・・
教子は、自分の心にフタをした。
カオルとともに、紫苑を目指して、歩き出す。
---------------------------
カオルと一緒に、紫苑を探す教子。
すこし、よろよろとしている。
カオル「・・・・大丈夫・・?」
教子 「はひはひ・・だいじょうぶれす・・」
強がってはいたものの、やはり荷物が重い。
ふらふらと千鳥足になりそうだ。
教子 「はひ、はひ・・あと、どんくらいですか・・?」
カオル「・・まずいわね」
教子 「え?」
カオル「会長の歩くスピードが思ったより早いわ・・」
カオル「もう少し速く歩かないと、逆にどんどん離されてる」
教子 「ぐ、ぐおお・・」
なにをしとるんじゃあ、あのワンマン生徒会長・・・・
カオル「・・・」
教子 「・・・はぅぅ・・」
カオル「・・・よし」
カオル「わかったわ。こっちの道に行きましょう」
と、カオルが指さした方向には、
・・いかにも、未成年者お断りのストリート。
教子 「そ、そっち・・ですか?」
さっき紫苑が遊んでいたポンキ店内の『×18』ゾーンとは比べ物にならないほどの、いかがわしさ。
通り全体が、ピンクを基調とした極彩色で彩られているような・・。
まかり間違っても、教子やカオルのような学生が入り込んでよさそうな雰囲気ではない。
行き交ってる人たちも、男女問わず、黒髪の人物はいなさそうだ。
金だの、赤だの、紫だの・・みんなそんな髪の色をしてる。
スキンヘッドにピアスに黒のスーツは、この町の最先端のファッションなのだろうか?
教子 「なんか、むっちゃガラ悪そうな感じですけど・・」
カオル「近道をしなきゃ会長に追いつけないわ・・ちょっと通るだけだから・・」
カオル「・・・大丈夫よ。たぶん」
教子 「カオルさんが、そう言うなら・・」
2人は、トボトボと怪しい路地へと歩き出す。
教子は、荷物をたくさん持たされて、いっぱいっぱいだったから。
性根のやさしいカオルは、そんな教子のことを気遣っていたから。
だから、気が付かなかった。
・・・・・・そんな2人に後ろから近づく、黒い影に。
? 「・・・・」
店員 「お次のお客様、こちらのレジにどうぞー!」
紫苑・カオル・教子「「「・・・・」」」
店員は熟練の手つきで客をさばいてはいるが、如何せん混みあっているので、遅い。
紫苑 「ねえ・・これ、いつまで並べばいいの?」
カオル「そうですね・・混み具合からみて、10分、15分くらいでしょうか・・」
教子 「で、でた~・・理不尽で答えようのない質問を部下にぶつけてイライラ発散上司奴~・・」
紫苑 「なにか言った?」
教子 「ナンデモゴザイマセン」
教子は、一瞬でロボットになった。
紫苑 「私はその辺りを散歩してくるわね」
教子 「あっ、えーと・・はい、いってらっしゃいませ~・・」
ワンマン上司は、大のお得意様なお客さんと同じ。
機嫌さえ取っておけば大丈夫。
これもお父さんの教え。
カオルと2人きりになる教子。
カオル「・・・・」
教子 「・・・・」
カオルも口数が多いほうではないので、自然、無言の時間となる。
でも、カオルとの時間は、アケミとも瑞穂ともちょっと違う。
カオル「・・・昨日は、こずえと瑞穂と駅でバッタリ会ったそうね?」
教子 「あっ・・そうなんです」
教子 「もぅ、こずえさんが大変だったんですよ~・・いきなり飛ぶわ跳ねるわ暴れちらかすわ・・」
カオル「ふふふ。こずえらしいわ・・アケミとも途中、一緒だったそうね。どうだった?」
教子 「ぐふ♪よくぞ訊いてくださいました・・アケミって超かわいくて・・デュフデュフフ♪♥」
カオルさんは、けっこう後輩に話しかけてくれるタイプの先輩らしい。
決しておしゃべりな方ではないだろうが、教子を気遣ってくれているのだ。
カオルさん、やさしいな・・・
生徒会の良心。まごころ。お母さん。
なんというか、とっても大人っぽい。
体つきもだけど、なにより雰囲気が。
気品があるというか・・。
カオルは、一緒にいるだけで知性が漂ってくるのは言うまでもないが、それを一切鼻にかけないので、奥ゆかしい魅力も備えている。
ネット上とかによくいる、尋ねられてもいないのに知識をひけらかしたがる方々に漂うような薄っぺらさとは対極にある、深みのある魅力。
そばにいる人の関心をそそらざるを得ない魅力。
相手に不快感を与えない知性と気品・・・そう、これは"母性"だ。
身長も学年も上だから、教子に対しては自然に"上から目線"な話し方なのに、それが、ぜんぜん、嫌じゃない。
むしろ、自分を理解してくれている、守られているような安心感さえ感じる。
・・・たぶん、このカオルの包み込むような母性がなければ、生徒会のバランスは崩壊してしまうのだろう・・・。
教子 「(そして・・・)」
教子はチラ、とカオルをうかがう。
長身で眼鏡のカオル。
教子 「(ぐふ♪やっぱり美人・・♪)」
なんとなく、報道番組のニュースキャスターを思い出す。
それも、安っぽいワイドショーに出てくるようなのじゃなくて、夜ちょっと遅めにやっている、経済ニュースをメインにあつかう番組のほう。
アケミと同じくらい長身だが、アケミと違って、とってもスレンダーな体型だ。
スカートからスラッと伸びた足はモデル顔負け。
胸のボリュームは、生徒会内の3頭の巨獣とは比ぶべくもない(失礼)けど・・まぁ、好き好きだしね。
・・決して自分に言い聞かせてるわけじゃないけど。
同じくスレンダー体型の瑞穂が、女の子っぽいバランスの取れた体型とすれば、カオルはまさに大人の女性。
制服よりも、スーツが似合うだろう。
生徒というより、教師のようでもある。
科目は、たぶん化学。
白衣がとっても似合う感じ。
学園を卒業して、キャリアウーマンとして働き始めたら、きっと肩書きのある社長とか、勝ち組サラリーマンとかに、アプローチされまくるんだろうなぁ。
卒業するのかわからないけども・・・。
でも・・・
カオルさんの中身って、「アレ」だったんだ・・・
ちょっと意外・・
店員 「お次のお客様ー!こちらのレジへどうぞー!」
教子 「あ・・はーい」
教子たちの番が来た。
-----------------------------
教子 「うう・・学校までこれを持つのか・・」
教子の両手には、パンパンになったレジ袋が提げられている。
一応、リュックサックを持ってきたのだが、カート一杯の荷物はもちろん入りきらず、おっきめのレジ袋3つを追加してやっとだった。
カオルも一袋分、手伝ってくれているが、とてもじゃないが女子高生2人で持つ荷物の量ではない。
教子 「ひんひん・・・せめて会長が持ってくれれば・・・いや、ないか・・」
仕方がない・・これも下積みの苦労よ。
教子は、アケミの顔を思い出して、心を奮い立たせる。
教子 「さ!いっきましょう!カオルさん!」
カオル「そうなんだけど・・」
カオルがキョロキョロと店の外に視線を巡らせる。
・・・・・まさか。
教子 「もしかして、消えちゃいましたか・・?」
カオル「そのようね・・・」
うはぁ・・・
会長・・どこ行ってんすか・・。
教子はパンパンの荷物を抱えて、この人込みの中で紫苑を探すことを想像して、軽くめまいを覚えた。
カオル「とりあえず、スマホで連絡してみるわ」
教子 「お願いします・・」
~5分後~
カオル「繋がらないわね・・」
教子 「うぐぐ・・うご・・」
華奢かつインドア派かつ万年運動不足な教子は、5分間のレジ袋プランクだけで体力の限界をけっこう感じ始めていた。
教子 「と、とにかく荷物を置かせてください・・どっこいしょ」
教子は、荷物をポンキのレジ外の、袋詰め台に置いた。
カオルは、そんな教子を労わるような目で見ている。
カオル「・・仕方がないわね」
カオル「私が、"探す"わ」
教子 「え?」
カオル「あまり外ではやりたくないのだけれど・・」
その時。
カオルの目つきが少し、変わった。
・・かのような気が、教子には、した。
カオルが、袋詰めの台に体重を預けて、目を閉じる。
教子 「あ・・・・・」
宗教家が瞑想するように、顔を軽く伏せるカオル。
その周囲の空気だけが、ピキピキと固まっていくようだ。
雑踏の喧騒の中で、ここだけが、無音。
カオルが、目を開ける。
教子の考え事の時間を含めても、10秒くらいだろう。
カオル「・・見つけた。」
カオル「会長は、あっちの方角ね」
教子 「梟・・・」
教子の、心の内側から零れてしまったようなつぶやきに、カオルは苦笑いする。
カオル「本当に、わかっちゃうのね・・」
なぜかしら照れ臭そうだ。
教子 「あ、すみません、なんか・・」
教子は、あやまった。
マジシャンの前で手品のタネ明かしをしてしまったような、バツの悪さを覚えたから。
フクロウ。
木の上にいても、土の中を行くミミズの場所さえわかるという聴覚の持ち主。
立体聴覚。
人間が左右の視野のわずかな差異で遠近感を図るのと同様に、左右の耳に入る微細な音の違いで周囲の状況を、驚くほどの詳細さで感じ取ることができる。
カオル「いいのよ。別に・・あなたに隠せるとは思ってないわ」
カオルはにこっと微笑んでくれた。
ちょっとずんぐりむっくりで愛らしいコミカルなイメージは、カオルの細身のカラダとは少し似合わないと思ったが・・・。
しかし、フクロウの持つ、異名。
曰く、森の賢者。
曰く、森の哲学者。
知性の象徴。
そっちのほうは、カオルにぴったりだ。
『ミネルバの梟は、黄昏とともに飛び立つ。』
教子のなかに、どこかの本で読んだフレーズが唐突に浮かんでくる。
この、夕暮れにさしかかった街並み。
ごみごみとした都会の中で、ただひとり静謐な空間にいるカオル。
今の状況には、なぜかしらしっくりくる言葉だ・・。
カオル「行きましょう・・焦る必要はないわ。もう足音を覚えたから。探しながら歩けるから」
教子 「足音だけで、探せるんですか?」
カオル「道路の状況とか、今日履いてるクツの種類とか、通りの騒がしさによって違うけど・・でも、だいたいはわかるわ」
教子 「すごいんですね・・」
動物の能力ってすごい・・・教子はあらためて、感動した。
カオル「・・その荷物、持てる?」
教子 「うぐ・・」
ぐっ・・そうだ・・これを持って行かなきゃなんだ。。。
教子は、ゾウのような体が欲しい、と切実に思った。
教子 「だ、大丈夫ですよ!新人ですから、体力勝負でがんばりますっ」
カオル「本当に、大丈夫?もし大変なら、ここで待っていても・・」
教子 「ダイジョブですって!さぁ~、行きましょう!レッツゴー!」
荷物が多い上に、すでに店内でカートを振り回していたので・・けっこう疲れてはいたのだが、教子は元気を振り絞って歩き出す。
教子 「(カオルさんって、やっぱり優しい・・・)」
先輩に気遣われて嬉しかったから。
・・・・それと。
ある思いを紛らわすために。
それは、紫苑の居場所を"聴き分けていた”カオルの様子をみて、心の奥の底の底から湧き上がってきた衝動。
熱い熱い、マグマのような、ある衝動。
・・・・ダメ。
そんなのは、絶対に、私の本心じゃない。
忘れなさい。教子。
それはただの気の迷いなんだから・・
教子は、自分の心にフタをした。
カオルとともに、紫苑を目指して、歩き出す。
---------------------------
カオルと一緒に、紫苑を探す教子。
すこし、よろよろとしている。
カオル「・・・・大丈夫・・?」
教子 「はひはひ・・だいじょうぶれす・・」
強がってはいたものの、やはり荷物が重い。
ふらふらと千鳥足になりそうだ。
教子 「はひ、はひ・・あと、どんくらいですか・・?」
カオル「・・まずいわね」
教子 「え?」
カオル「会長の歩くスピードが思ったより早いわ・・」
カオル「もう少し速く歩かないと、逆にどんどん離されてる」
教子 「ぐ、ぐおお・・」
なにをしとるんじゃあ、あのワンマン生徒会長・・・・
カオル「・・・」
教子 「・・・はぅぅ・・」
カオル「・・・よし」
カオル「わかったわ。こっちの道に行きましょう」
と、カオルが指さした方向には、
・・いかにも、未成年者お断りのストリート。
教子 「そ、そっち・・ですか?」
さっき紫苑が遊んでいたポンキ店内の『×18』ゾーンとは比べ物にならないほどの、いかがわしさ。
通り全体が、ピンクを基調とした極彩色で彩られているような・・。
まかり間違っても、教子やカオルのような学生が入り込んでよさそうな雰囲気ではない。
行き交ってる人たちも、男女問わず、黒髪の人物はいなさそうだ。
金だの、赤だの、紫だの・・みんなそんな髪の色をしてる。
スキンヘッドにピアスに黒のスーツは、この町の最先端のファッションなのだろうか?
教子 「なんか、むっちゃガラ悪そうな感じですけど・・」
カオル「近道をしなきゃ会長に追いつけないわ・・ちょっと通るだけだから・・」
カオル「・・・大丈夫よ。たぶん」
教子 「カオルさんが、そう言うなら・・」
2人は、トボトボと怪しい路地へと歩き出す。
教子は、荷物をたくさん持たされて、いっぱいっぱいだったから。
性根のやさしいカオルは、そんな教子のことを気遣っていたから。
だから、気が付かなかった。
・・・・・・そんな2人に後ろから近づく、黒い影に。
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