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第二部 魔王編
娘の死
しおりを挟むやかましい人間がいなくなった。
勇者パーティの一員でありながら何を思ったのかこの城のメイドとなり、ちょろちょろと動き回っていた娘が突然姿を消した。
不可解な娘だった。
ありあまるほどの魔力と高位魔術を使いこなす天武の才を持ちながら、それを無駄に放棄して、部屋の掃除に熱心に取り組んでいた。
寝床は私室の地下にある棺で、起きている間は執務室にこもる。
だから私室はただの通過点にすぎず、調度はあってもそこでくつろいだりはしない。
魔王にとっては廊下と同じほどの意味合いしかない。
ゆえに特に使用していない私室が日々磨かれ、ちりひとつ落ちていないまでになるのは正直気味が悪かった。
使わない部屋の掃除にそこまでの労力を払うのは無駄なことだ。
だから感謝の言葉など必要ないと思っていた。
先の大戦の祝勝会とやらの席で、娘にその真意を問うてみた。
変に執着心をみせながら子は要らぬというのも理解できない。
だがへらへらと笑い、挙げ句の果てに「誇りなどない」と言いきった時、それまで感じていた不可解さは苛立ちへと変わった。
あとになって「誇りならある」という答えを期待していたのだと気づいた。
子を持つことも望んでいると思っていた。
けれどどちらも否定された。
それが本心とも思えなかったが、追求する前に娘はその場から逃げ出した。
娘の笑顔から透けて見える「自分なんて」という卑屈さこそが苛立ちの原因だったと。
そう気づいたのは「娘は死んだ」と四大公に聞かされた時だった。
※ ※ ※
その日、辺境領へ視察に行っていた四大公が謁見を求めてきたため、魔王は執務室へと彼らを招き入れた。
「辺境の様子はどうだ」
「は。湧き出でていた無数の魔獣どもはみな駆逐され、次元の歪みも修正されておりました」
「結界により厳重に蓋をしてあります」
「あの娘の手柄か」
窓の外には竜舎の入り口が見えており、そこへおとなしく入っていく二頭竜の姿が見える。魔界にはいない種類の貴重な竜だ。約半年ぶりの光景だった。
「戻ったのだろう? 手柄について労うゆえここへ来るよう申し伝えよ」
魔王の言葉に四大公たちは目配せを交わした。
「そのことなのですが……」
「魔獣たちを駆逐するさいに深手を負ったようで……」
「われらが到着する少し前に……」
「あのものはかの地で息絶えておりました」
魔王は頭を垂れる四大公たちを呆然と見つめた。
「ばかな」
死んだ? あの娘が?
「そのような脆弱な人間ではないはずだ」
口からこぼれ出たつぶやきは、四大公たちによって切り捨てられた。
「しかしもうおりません」
「あの数の魔獣たちをひとりで相手にするのは、さすがに手に余ったのでしょつ」
「まあ、もともといるはずのないものです」
「そうです。怪我を負おうが死に絶えようが些末な問題で」
バンッと突然執務室のドアが開いた。
魔王が手を払うと四大公たちは無言で部屋を辞していった。
再び魔力でドアを乱暴に閉めると、魔王は彫像のように固まりしばらくその場にとどまり続けた。
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