聖騎士と眠りの魔女 ―ダブルワーク女子は抱き枕の身代わり―

uca

文字の大きさ
54 / 87
向背

6.

しおりを挟む

「ああ、もおおお! ルド、早く戻ってこい! ――テイメン・クラーセン、第三聖騎士団団長代理を務めまっす! はあ、やだやだ」
「修羅場中に悪いんだけどさ」

 魔物狩人組合の長ティリーがすまなそうに口を挟んだ。

「シーララ門で魔人使者団ご一行がお待ちだよ」
「うっ、そうだった……。どんな様子なんですかね」
「あたしが席を外した時点でかなりいらいらしていたね。使者を待たせたままというのはよくない。早くどうにかしたほうがいい」
「――で、ですよね」
「今回、厄介なことに使者団は植物人形、ゴーレム連れで来ている」
「な、っ、――? い、一体だけ、ですよね?」
「いんや、十体。しかもかなり大きい」
「つまり――」
「怪物級ってところか。えらく強いだろうね、十体すべて」
「うわあ」

 クラーセンは呪いのせいでただでさえぐわんぐわん痛む頭を抱えた。


 魔人そのものは魔力と知力は高いものの、兵としてはさして強くない。そのかわり魔獣やゴーレムと呼ばれる牛頭の植物人形を使役する。
 特にゴーレムは手に負えない。材料がどんな魔植物なのだか、みょうにいい匂いがする。体が大きくおっとりした動きだが主人である魔人に忠実で、どんな残忍な命令にも躊躇なく従うという。
 成長とともに力が強くなるゴーレムは大きさによって三つのクラスに分かれている。いちばん小さいのが妖精級、次に大きいのが怪人級、いちばん大きい、身長が二階の窓を超えるほど育っているのが怪物級だ。妖精級ですでに聖騎士でも一対一で相手をするのに難儀をする戦闘力である。数百年の寿命を迎えると自重を支えられず壊れてしまうが、そこまで大きくなるとおそらく聖騎士が束になってかかってもかなわないだろう。怪物級、それも十体ともなれば堅牢なピネッキ砦であっても無事では済まない。
 忠実且つ戦闘力の高い下僕を創り出しておきながら、なぜ魔人たちは討って出ず地下迷宮にこもっているのか。
 ことゴーレムに限っていえば、原因はムビ砂漠の気候ではないかと考えられている。
 牛に似た頭は茶褐色の木材でできていて、体にびっしりと蔓や苔をまとったゴーレムは乾燥を嫌う。砂漠に長時間放置すると動けなくなり、塵と化してしまう。
 魔人たちは身の回りの世話から食物の生産、社会基盤の維持整備に至るまでゴーレムに頼り切りだという。ほいほい創り出せるものでもないらしく、便利に使っていても魔人はかれらなりにゴーレムを大切にしている。
 それなのに魔人使者団は、地下迷宮からムビ砂漠を越えて戦闘力の高い貴重な十体を連れてやってきた。

――やつらは、本気だ。

 いつものちょっかいを出すだけのふざけた態度とは異なる。どういう要求を引っ提げてきたのだか、今回は必ず成果を持ち帰るつもりでいるらしい。


 ティリーが困ったように眉を下げた。

「こちらが待たせている分、ゴーレムに飲ませる水を寄越すべきと魔人どもは主張している」
「うわ、ああ……」

 ピネッキ砦は砂漠一歩手前の乾燥地帯にあり、水は貴重だ。ゴーレムは風呂桶十杯分の水を瞬時に飲み干すという。しかも怪物級十体分となればどれだけ水を用意しても足りないに違いない。
 要は「今は我慢してやらんでもないが、いつでも強行突破できるぞ」という構えなのである。

「組合長さん、ほんっとに悪いんですが魔界の使者団をなんとか宥めておいてください! ――んもおおおっ、本山のおっさんだけならともかく、なんでいっぺんに来ちゃうかな。早くルドを、団長を呼び戻してくれ、頼む!」

 クラーセンは痛む頭をがしがしかきむしりながら部下の報告を整理し、人員の編成や指示を飛ばした。

     *     *     *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします  結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。  ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。  その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。  これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。 俯瞰視点あり。 仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

渡りの乙女は王弟の愛に囚われる

猫屋ちゃき
恋愛
現代日本から異世界へと転移した紗也。 その世界は別の世界からやってくる人や物を〝渡り〟と呼んで大切にする。渡りの人々は五年間、国の浄化などを手伝うことと引き換えに大切に扱われる。 十五歳のときに転移した紗也はその五年間を終え、二十歳になっていた。紗也をそばで支え続けた王弟であり魔術師のローレンツは彼女が元の世界に帰ることを望んでいたが、紗也は彼のそばにいたいと願っていた。 紗也ではなくサーヤとしてこの世界で生きたい、大好きなローレンツのそばにいたい——そう思っていたのに、それを伝えると彼はがっかりした様子で…… すれ違い年の差ラブストーリー

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

処理中です...