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向背
6.
しおりを挟む「ああ、もおおお! ルド、早く戻ってこい! ――テイメン・クラーセン、第三聖騎士団団長代理を務めまっす! はあ、やだやだ」
「修羅場中に悪いんだけどさ」
魔物狩人組合の長ティリーがすまなそうに口を挟んだ。
「シーララ門で魔人使者団ご一行がお待ちだよ」
「うっ、そうだった……。どんな様子なんですかね」
「あたしが席を外した時点でかなりいらいらしていたね。使者を待たせたままというのはよくない。早くどうにかしたほうがいい」
「――で、ですよね」
「今回、厄介なことに使者団は植物人形、ゴーレム連れで来ている」
「な、っ、――? い、一体だけ、ですよね?」
「いんや、十体。しかもかなり大きい」
「つまり――」
「怪物級ってところか。えらく強いだろうね、十体すべて」
「うわあ」
クラーセンは呪いのせいでただでさえぐわんぐわん痛む頭を抱えた。
魔人そのものは魔力と知力は高いものの、兵としてはさして強くない。そのかわり魔獣やゴーレムと呼ばれる牛頭の植物人形を使役する。
特にゴーレムは手に負えない。材料がどんな魔植物なのだか、みょうにいい匂いがする。体が大きくおっとりした動きだが主人である魔人に忠実で、どんな残忍な命令にも躊躇なく従うという。
成長とともに力が強くなるゴーレムは大きさによって三つのクラスに分かれている。いちばん小さいのが妖精級、次に大きいのが怪人級、いちばん大きい、身長が二階の窓を超えるほど育っているのが怪物級だ。妖精級ですでに聖騎士でも一対一で相手をするのに難儀をする戦闘力である。数百年の寿命を迎えると自重を支えられず壊れてしまうが、そこまで大きくなるとおそらく聖騎士が束になってかかってもかなわないだろう。怪物級、それも十体ともなれば堅牢なピネッキ砦であっても無事では済まない。
忠実且つ戦闘力の高い下僕を創り出しておきながら、なぜ魔人たちは討って出ず地下迷宮にこもっているのか。
ことゴーレムに限っていえば、原因はムビ砂漠の気候ではないかと考えられている。
牛に似た頭は茶褐色の木材でできていて、体にびっしりと蔓や苔をまとったゴーレムは乾燥を嫌う。砂漠に長時間放置すると動けなくなり、塵と化してしまう。
魔人たちは身の回りの世話から食物の生産、社会基盤の維持整備に至るまでゴーレムに頼り切りだという。ほいほい創り出せるものでもないらしく、便利に使っていても魔人はかれらなりにゴーレムを大切にしている。
それなのに魔人使者団は、地下迷宮からムビ砂漠を越えて戦闘力の高い貴重な十体を連れてやってきた。
――やつらは、本気だ。
いつものちょっかいを出すだけのふざけた態度とは異なる。どういう要求を引っ提げてきたのだか、今回は必ず成果を持ち帰るつもりでいるらしい。
ティリーが困ったように眉を下げた。
「こちらが待たせている分、ゴーレムに飲ませる水を寄越すべきと魔人どもは主張している」
「うわ、ああ……」
ピネッキ砦は砂漠一歩手前の乾燥地帯にあり、水は貴重だ。ゴーレムは風呂桶十杯分の水を瞬時に飲み干すという。しかも怪物級十体分となればどれだけ水を用意しても足りないに違いない。
要は「今は我慢してやらんでもないが、いつでも強行突破できるぞ」という構えなのである。
「組合長さん、ほんっとに悪いんですが魔界の使者団をなんとか宥めておいてください! ――んもおおおっ、本山のおっさんだけならともかく、なんでいっぺんに来ちゃうかな。早くルドを、団長を呼び戻してくれ、頼む!」
クラーセンは痛む頭をがしがしかきむしりながら部下の報告を整理し、人員の編成や指示を飛ばした。
* * *
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