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〈八〉
しおりを挟む不思議なことに、泣きついてきたわりに悟はくだんの恋人を引き合わせることを渋った。
――早ければ早いほどいいぞ、謝るなら。
――謝ってるよ! メッセ送ったし、電話だって何度も! 会いに行きたいけど今、卒論で忙しいだろうし……。
――それでブロックされたのか。じゃあ直談判しかないな。
仲裁できるようならしてやるかと助太刀気分で悟に付き添ってみて、驚いた。
――俺に会わせたがらないわけだ。
珠緒はいい女だった。
連日アルバイトに勤しんでいたとかで体全体に疲れが滲んでいる。寒気と疲労で青ざめた化粧っ気のない顔が悟の姿を目にした途端、怒りで燃えるように紅潮した。
美しい。
陶器のように白い肌が弾ける怒りで内側から光を宿す。同じ光が冷たい目に炯々と炎を灯している。周囲の迷惑を顧みず大声を出そうとする悟を止めるのを忘れて大助は見蕩れた。
――駄目だ、駄目だ駄目だ、駄目だ。
悟のためにここに来た。自分の役割はただ復縁したいという悟の願いがかなうのを見守るだけだ。
己を律せよ。制御せよ。
今まではできた。
恋をしてもたいていの女を傷つける大きい陰茎をもつ自分では、心と体双方満たせる可能性が低い。だから諦めていた。これからも忙しくしていれば恋などに煩わされることはない。そのつもりだった。
――欲しい。
よりによって、悟の恋人に惹かれてしまうとは。
自制しなければ。悟のためにならない。
その思いは
――大助だったらだいじょうぶっていうか。
悟の言葉で霧散した。
おまえがそのつもりなら、手加減はしない。徹底的に甘やかし蕩かして、おまえのもとへ帰れなくしてやる。
警戒感が感覚を研ぎ澄ますのだろうか。膝のうえで横座りする珠緒は、気を許す兆しを見せないのに大助がふれるとふるりふるりと反応した。快楽に敏いが上の空でおろおろと目を泳がせる。
――無理もない。
ローテーブルの向こうから悟が声をかけてくるのだ。気が散るだけでない。罪悪感が募るに違いない。
真面目な女だ。
これだけ美しいのに、今まで自分が恋人以外とどうこうなることなど考えたことすらなかったのだろう。悟以外の男からのちょっとした誘い――カフェとか、イベントとか、買いものとか、デート以前のもろもろ――をすげなく断るようすが容易に想像できる。
――こっちはもう別れてるつもりなんだけど。
きつい口調で突き放していたがその冷たい美貌に情の厚さ、濃やかさが隠されているのが分かる。悟に気持ちが残っているにしろ、いないにしろ、自分は選ばれない。どんなに強く熱く迫り思いを吐露してもきっと、壁をつくられ隔てられてしまうだろう。悟と大助のつながりに罅を入れることを選ばない、そんな敏さと濃やかさをもつ女だ。
――欲しい。どうしても、手に入れたい。
焦るな。がっつくな。
服の上からさするだけの愛撫で警戒心をゆっくりと削り落としていく。時間をかけてようやくキスを許された。
触れるだけの口づけが深まっていくにつれて思いが募る。
不思議でならない。
悟はこの女をなぜ等閑にできたのか。
――俺だったら……。
遊びやおふざけでもほかの女に目移りなどしない。蕩かし甘やかし腕の中に閉じこめる。
大助は女を自分の膝にまたがらせ改めてぎゅう、と抱き締め
ちゅ……。
口づけた。
たまらない。珠緒はその美貌を地味ないでたちで隠し、冷たそうなのに濃やかで、真面目なのに感じやすい肌をしている。
――しかも巨乳。どうにかなりそうだ。
横抱きから向かい合って座っている今はいっそう距離が近い。ブラウスとカーディガンに包まれていても分かるほど豊かな胸が弾力を伝えてくる。裸の胸にこしょこしょとラムウールの毛羽がふれる感触もじわじわと欲望を縛める自制の殻を削る。
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