甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、はしゃぎ過ぎの代償を払う

18.

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「さっきの、――駄目でしたか? 気持ちよくなかった?」
「す、――っごく、気持ちよかったです」

 広居主任は恥ずかしそうに大きな手で真っ赤になった顔を覆った。両脚の間から甘勃ちのバナナがこんにちはしている。隠すならこちらではないか。

――主任はほんっとに、裸になると知能指数が下がるんだな。

 俯きバナナという弱点を見せられるのは部下でセフレの樹子しかいないと思い込んでいる。その弱点も克服の見込みが高いというのに、まだこの人は不安なのだ。
 なし崩しでセックスに持ち込んだとき、広居主任はやさしいけど狡いと思った。
 樹子自身は、どうか。
 問題解決の希望が見えている主任をその不安に乗じて解放せず縋りついたままにさせている。

――従順な部下で物わかりのいいセフレのふりをしておいて私は、卑怯だ。

 目の前で恥ずかしげに赤く染まった顔を隠すかわいい男をがっかりさせたくない。今ならきっと、抱える傷も人間関係のトラブルも小さいまま終えられる。
 分かっている。でも、手放せない。

――すがりついているのは、しがみついているのは私。

 いつか終わりがくるときにきっと後悔する。間違いなくする。でもどんなに深い傷を抱えることになっても今は引けない。
 樹子は主任の顔を覆う大きな手を外した。

「えっとそのもう一回、します?」
「もい、っかい?」
「だって――」

 合わせていた目を伏せる。瞬きゆっくり一回で視線を戻した。

「もう一回できそう。――やめておきます?」
「いや、ややや、する。します。したい」
「じゃあ」

 ちゅ。
 樹子は目の前の男に口づけた。

「主任でいっぱいにしてください、私を」
「大路……」

 すぐ近くにある少し淡い色の目に剣呑な光が宿る。いつもかわいいかわいいと愛でている相手が情欲にまみれている。
 ぞくぞくする。
 荒い息とともに忙しなく口づけられた。でも、押し倒されるスピードはごくゆっくりでやさしい。
 ちゅ、ぱ。
 唇が離れていく。秘所に新しい避妊具を装着した塊が押しつけられた。

「――いい?」

 見下ろしているのに、広居主任の目は縋りつく色にまみれている。

「……」

 樹子は無言でうなずいた。
 にゅ、くく。く、ぷ。
 ゆっくりと少しずつ前後しながら肉棒が秘所を暴き入ってくる。どちらのものともつかない体液のぬめりで抽挿がだんだんとなめらかになっていく。
 不安なんか、忘れて。余計なことを考えないで。快楽に溺れて。
 寄せては返し、返しては寄せ、淡いさざなみが重なりグラデーションをなし色濃く大きい波へ収斂されていく。ざわめき波立つ海のように快楽が深まっていく。
 樹子はひた、と男を見つめた。
 このままずっと、ずっと溺れていたい。
 両手がとられ、シーツに押しつけられた。互いの指と指がきつく絡む。

「ん、あ、……っん」
「…………っ」

 波に翻弄され続けてたどり着いた快楽の果ては色濃く、深みへ引きずり込まれるようなのに、白く眩い。光が視界をく。



 やさしく髪を撫でられる感触に、眠りの淵から浮き上がるように樹子は目覚めた。
 ちゅ、ちゅちゅ、ちゅ。
 額。鼻。こめかみ。耳。頬。顎。――唇。雨のように口づけが降ってくる。
 明るいグレーのスーツ。白のシャツにブルーのネクタイ。広居主任からしゃきしゃきと衣擦れの音が聞こえる。

「いかな、いで」
「俺だって、行きたくない」

 きつく抱き締められ、口づけられた。

「金曜の夜に戻る。待っていてくれ、ここで」
「はい」

 離そうと思ったのについ、手を繋いでしまう。絡んだ指が名残を惜しみ互いに
 すり、り。
 擦り合った。

「主任」
「ん」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
「いってくる」

 離れていく大きな体を引き留めようと縋りつきそうになった手を、樹子は下ろした。
 カーテンの隙間から梅雨どきの重く沈んだ朝日がほのかに射す。広居主任のいなくなった部屋は、がらんと殺風景に見えた。

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